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レーシングエンジンから電気モーターへ
AIM(エイム)は1998年に、鈴木幸典社長が名古屋で創業した自動車エンジニアリング会社。5.5LのV10レーシングエンジンを開発し、2008年から2010年までエンジンサプライヤーとしてルマン・シリーズに参戦した実績を持つ。2010年のルマン24時間では、厳しい燃費規制に対応してディーゼルを積むプジョー勢3台に続く4位を獲得し、ガソリンエンジン車として最高のパフォーマンスを披露した。
そんなAIMが研究開発の焦点をエンジンから電気モーターにシフト。モーターのテストベッドとしてランニングシャシーを製作したことが、今回のAIM EV SPORT 01につながった。デザインを手掛けたのは、中村史郎率いるSNデザインプラットフォーム=略称SNDP。長らく日産デザインを率い、2017年に退職した中村が設立したデザイン会社である。
「以前からAIMとはグラフィックデザインの仕事で少しお付き合いがあった。そんななかで『こんなものを作った』と聞いてシャシーを見せてもらい、『このままではもったいないから、ボディを載せましょう』と鈴木社長に提案した」と中村はプロジェクトのきっかけを振り返る。そして「去年のグッドウッドを鈴木社長と一緒に見に行って二人で盛り上がり、『来年のグッドウッドに(自分たちのクルマで)参加しましょう』となった」
英国グッドウッドで開催される「フェスティバル・オブ・スピード」は、新旧の名車が集まり、1.9kmほどのヒルクライムコースを駆け抜けるイベント。今年7月には、鈴木社長がドライブするAIM EV SPORT 01の勇姿がそこで見られことになるという。
EVらしさより60年代的なノスタルジア
デザインについて中村は、「あえてEVらしさはどこにも出さず、どちらかと言うとクラシックにまとめた」と告げる。「ボディにシャープエッジはないし、ヘッドランプは丸い。60年代のフォルム言語をリスペクトしてデザインした」
AIM EV SPORT 01は300psのモーターを2基、リヤに搭載する後輪駆動だ。テストベッドのシャシーの寸法を変えずにデザインした結果、全長は4m弱、全幅は1.9m弱と、ハイパワーを思えばかなりのコンパクトサイズになった。
左右輪の駆動力を制御すればスタビリティを確保できるのだろうが、そもそもモーターを前後に置くAWDにはしなかったところに、伝統的な後輪駆動スポーツカーに対するAIMの憧憬が窺える。それをカタチで表現するのが、60年代的なシンプルで丸みを帯びたフォルムというわけだ。
全高は1220mm。床下にバッテリーを敷き詰めるEVとしては、驚異的な低全高だが、それを実現した秘策がシートのスライドレールを廃止したこと。シートの前後位置を調整するボルト穴が用意されており、ドライバーに合わせてボルト固定する。
AIM EV SPORT 01はオーナーがサーキット走行を楽しむためのクルマ。それゆえヘルメットを被って座れる室内高を確保しながらも、シートのスライド機構をなくして着座位置を極限まで下げた。ボディパネルの分割線が少ないのも、サーキット専用車ならではのデザイン。レーシングカーのようにフロントとリヤは大きな一体型カウルになっており、メンテナンス時にはそれを取り外す。
サーキット専用車ならではの将来性
AIM EV SPORT 01の製作には、カーデザイン業界では有名な日南という開発支援企業が協力。AIMから供給されたシャシーをベースに、中村のSNDPが求めるデザインを具現化した。ショーカー開発などで多くの実績を持つ日南だが、量産設計は本業ではない。とすれば、AIM EV SPORT 01はまだ「走るショーカー」の域を出ないものかもしれないが、それは大きな問題ではないだろう。
1978年のジュネーブショーで京都の童夢が「童夢ゼロ」を発表して以来、日本にスポーツカー・ベンチャーが現れるたびに市販化のハードルが問われてきた。販売するには認証を得なくてはいけない。少量生産車の認証に特例がある英国で認証を得て日本でナンバーを取得した例もあるが、その道のりは多難だった。
しかし近年はフェラーリをはじめ、公道走行を前提としないサーキット専用車が増えてきた。クラシックカーの相場が上昇し、功成り名を遂げた人でも思い入れのあるクラシックカーを買えないご時世。その受け皿としてサーキット専用のハイパーカーが輩出されている。
それはつまり、ナンバー取得がスポーツカー・ベンチャーのゴールではない時代になったことを意味する。AIMがEV SPORT 01の認証を取って生産化してくれたら最高だが、そこまで行かなくてもこのプロジェクトには未来がある。「日本発のハイパーカー」として、AIM EV SPORT 01が世界に羽ばたく日を期待したいものだ。