日産アリアのe-4ORCEは単なる4輪駆動ではない。BEVとe-4ORCEが生み出す新しさを味わうべし

日産アリア B9 e-4ORCE limited(91kWh) 車両本体価格:790万0200円
日産の電気自動車(BEV)のアリア。そのトップモデルが91kWhの大容量バッテリーを搭載した2モーター4WDモデル、B9 e-4ORCE limitedだ。このモデル、単なる電気式4WDではない。BEV×e-4ORCEは、新しい価値を生み出している。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

全部載せスペシャル アリアB9 e-4ORCE limited

全長×全幅×全高:4595mm×1850mm×1665mm ホイールベース:2775mm 車重:2230kg

電気自動車(BEV)の日産アリアには4つのバリエーションがある。もっともベーシックなのはB6の2WDで、最高出力160kW、最大トルク300Nmのモーターをフロントに搭載し、前輪を駆動する。床下に搭載するリチウムイオンバッテリーの総電力量は66kWhで、国土交通省審査値の一充電走行距離は470kmだ。

B6にはリヤにもフロントと同じ160kW/300Nmのモーターを搭載する4WDがあり、こちらの一充電走行距離は460kmになる。さらに、バッテリーの総電力量が91kWとなるB9の2WDと4WDがあり、一充電走行距離はそれぞれ640kmと560kmだ。

グレード電池容量駆動方式一充電走行距離車両価格
B6 limited66kWhFWD470km660万円
B6 e-4ORCE limited66kWhAWD460km720万0600円
B9 limited91kWhFWD640km740万0800円
B9 e-4ORCE limited91kWhAWD560km790万0200円

全部載せスペシャルみたいな位置づけのアリアB9 e-4ORCE limitedと3日間を過ごした。4WDの大容量版である。グレード名に入っているe-4ORCEが示すように、アリアの4WDは単なる四輪駆動ではない。日産自動車の説明文を引用すれば、e-4ORCEは「前後2つの高出力モーターとブレーキの統合制御により、駆動力を自在にコントロールする電動駆動4輪制御システム」ということになる。

その真価を公道で確かめるのが、試乗の主目的だった。走行状況に応じて時々刻々と変化するタイヤの摩擦円(グリップ限界)を計算で導き出しながら、応答性の高いモーターの駆動力とブレーキ制御によって4輪の摩擦円を最適に使うのがe-4ORCEの狙い。余力のないタイヤに無理をさせず、余力のあるタイヤに充分な仕事をさせるよう制御するので、ドライバーの狙いどおりにクルマが動いて安心、快適な走りにつながる。

さらに、前輪だけでなく後輪も同時に使って回生ブレーキを効かせることができるので、減速時は前のめりになるような極端なピッチ挙動を抑え、安定した姿勢で減速できるし、2WDに比べて制動距離を短くすることができる。モーターの数が倍になってパワフルになるだけでなく、走行性能と姿勢制御にも大きなベネフィットをもたらすのがe-4ORCEというわけだ。

モーターは前後ともにAM67型を使う。最終減速比:F 8.896 R7.679
日産得意の「巻線界磁式モーター」だ。

インテリアには驚きがある

インテリアの上質さ、新しさはアリアのセリングポイントだ。
前席足元の広さは格別。空調ユニットをモータールームに収めたからこそ実現した広さ。

先入観なしに室内に乗り込むと、前席足元の広々とした空間に目を見張る。BEVだからこそなせるワザだが、通常は室内スペースに侵食する空調ユニットを苦労してエンジンルームならぬモータールームに収めたがゆえに実現した広々空間だ。開放感はたっぷりで、新しい時代のクルマであることを実感させる。

驚きその2は、空調などを操作するのがいわゆる物理スイッチではなく、ハプティクス(触覚)スイッチになっていることだ。アイコンを押すと、振動を通じてフィードバックを返してくれる。ハプティクススイッチはアリアが日産初採用だ。触れる頻度が高いのだろう。試乗車は運転席側のエアコン温度調節のボタンが手油でテカっていた。このあたり、オーナーになったあかつきには対策が必要かもしれない。

静電容量スイッチを採用することでフラットなパネル面を実現した。ハプティック(振動フィードバック)の操作感が新しい。
電動コンソールは150mm移動する。

センターコンソールは側面のボタン(物理ボタンだ)操作によって前後に150mmの範囲でスライドさせることが可能。そのセンターコンソールの上にシフトセレクターがあり、やはりハプティクススイッチのドライブモードセレクターやとワンペダルドライブ「e-Pedal」のスイッチがある。物理スイッチのようにブラインドで操作できないのはやっかいだ(写真写りはいいが)。

e-Pedalスイッチ類の後方にはスマートフォンを模したアイコンがある。センターコンソールのリッドを開けるとスマホのワイヤレス充電器があり、そこにスマホを置くとアイコンが光る仕掛け。フタを閉めても、アイコンが光っていれば中にスマホがあることを教えてはくれる。「置き忘れるので注意してくださいね」と試乗車を借りる際に注意されたのだが、見事に置き忘れた(複数回)。おっちょこちょいにとって、スマホは見えるところにないとダメなようである。

スマホがワイヤレス充電されていたらアイコンが光る
シンプルで美しいセンターコンソール

BEVとe-4ORCEを組み合わせて、新種のスポーツカーを生み出した

デフォルトのSTANDARDに加え、SPORT、ECO、SNOWの4種類がある。
メーター内に4WDトルクを表示できる。

ドライブモードはデフォルトのSTANDARDに加え、SPORT、ECO、SNOWの4種類がある。メーターに「4WDトルク」を呼び出して観察していると、NORMAL時であっても発進時は4WDとなることが確認できる。荷重がかかることによってタイヤ摩擦円が大きくなるリヤに駆動力をかけて発進性を高める考えだろう。定常走行に移行するとFWDになる。

いっぽう、SPORTに切り換えると常時4WDになる。効率(極端に悪くなるわけではない)よりも走り重視というわけだ。さらに、加速の強さに応じてSF映画の効果音風な演出音が加わり、気分が上がる。ECOはアクセルペダルの踏み込みに対する力の出方が弱めになる。また、アクセルオフ時は回生ブレーキが働かず、コースティング(空走)状態になる。

タイヤはF&R 255/45R20 ミシュラン PRIMACY⁴ を履く。ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク/Rベンチレーテッドディスク

B9 e-4ORCE limitedはシリーズ中最重量で、車両重量は2230kgだ。最軽量のB6 limitedより270kg重い。重量物を支えるためにばねは硬く、減衰力は高めにならざるを得ないはずで、そのせいか常にヒョコヒョコとした動きが出がちな傾向はある。段差にでくわした際にドンという唐突な突き上げを感じる場面もあった。だが、おしなべてフラット感が強い。1年前にB6 2WDに乗ったときに比べるとだいぶ印象がいい。低速域でのドタバタ感は消えている。

フロントにモーターを積んだ2WDでも充分速い。同じスペックのモーターをリヤにも積んでいるのだから、270kgの重量増などものともしないということだろう。アクセルペダルをベタ踏みしたときの、強烈な加速は衝撃的だ。少しも危なっかしいところを感じさせないのも印象的である。

リヤサスペンションはマルチリンク式
フロントサスペンションはストラット式

真っ直ぐ走っているときはもちろん、コーナーの連続もスイスイ走る。上り下りの勾配が入れ替わりながら、右〜左のカーブが連続する高速道路のジャンクションは、このクルマの得意科目だ。2230kgの重量は少しも感じさせず、コントローラブルは走りに終始する。車線をはみ出しそうな危なっかしさは一切感じさせない。

日産GT-RやフェアレディZは内燃機関が発する力と、その力とシンクロするエンジンサウンドがドライバーを高揚させる不可欠な要素になっているが、BEVのアリア、それも前後にモーターを搭載してブレーキも含めて統合制御するアリアのe-4ORCEは、ドライバーの操作に対して反応良くクルマが動き、狙いどおりにラインをトレースするがゆえの心地良さがある。気分を高揚させる点は共通しているが、手段が異なる。日産はBEVとe-4ORCEを組み合わせて、新種のスポーツカーを生み出したようだ。

アリアの急速充電性能は130kW(リーフe+は100kW)
左フロントフェンダーにあるのがCHAdeMO急速充電用
右が普通充電用。
280.5km走行して平均電費は6.0km/kWhと優秀な数値を示した。91kWhをかければ546km走行できる計算になる。
試乗車は特別塗装色(8万8000円)のプリズムホワイト(3P)/ ミッドナイトブラック(P)2トーン
日産アリア B9 e-4ORCE limited(91kWh)
全長×全幅×全高:4595mm×1850mm×1665mm
ホイールベース:2775mm
車重:2230kg
サスペンション:Fストラット式/Rマルチリンク式 
駆動方式:FWD
駆動モーター
フロント
形式:AM67型交流同期モーター
定格出力:45kW
最高出力:218ps(160kW)/5950-13000pm
最大トルク:300Nm/0-4392rpm
リヤ
フロント
形式:AM67型交流同期モーター
定格出力:45kW
最高出力:218ps(160kW)/5950-13000pm
最大トルク:300Nm/0-4392rpm

バッテリー容量:91kWh
総電圧:352V
交流電力量消費率WLTCモード:187Wh/km
 市街地モード183kW/km
 郊外モード 185kW/km
 高速道路モード 196kW/km
一充電走行距離(WLTCモード):560km
車両本体価格:790万0200円
試乗車はop付プリズムホワイト(3P)/ ミッドナイトブラック(P)2トーン特別塗装色8万8000円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…