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1日1バレル(およそドラム缶1本)→2027年から28年を目処に300バレル/日へ
カーボンニュートラルは地球環境保全のための喫緊の課題であり、化石燃料を燃やすことで地球温暖化の原因になる二酸化炭素(CO₂)を排出する内燃機関車に対しても早急に手を打つことが求められる。解決策のひとつが合成燃料だ。合成燃料はCO₂と水素を合成して製造する燃料の総称で、このうち太陽光や風力など、再生可能エネルギーの電力を使って製造した水素を用いたものをe-fuelと呼ぶ。
合成燃料を使ってもテールパイプからCO₂が排出されることに変わりはないが、合成燃料(狭義にはe-fuel)は燃料を製造する段階で(大気中などから)CO₂を吸収しているので、差し引きゼロになってカーボンニュートラルになる。「合成燃料を社会に広く周知する」のが、ENEOSが開催した合同デモンストレーション式典の狙いだ。
式典の冒頭で挨拶に立った齊藤猛 ENEOS株式会社代表取締役社長 社長執行役員は、「脱炭素循環型社会という『明日の当たり前』の実現は、単一のエネルギーのみでは成し遂げられません」と説明。「トヨタ自動車様が提唱されるマルチパスウェイにも通じますが、エネルギーの用途や利用する場所などにより、最適解を追求していく必要があります」と続けた。
脱炭素社会の実現にはバッテリーEV(BEV)も必要だが、それだけでは不十分で、合成燃料の社会実装も欠かせないというわけだ。
「最近、EUにおいては合成燃料100%に限り、2035年以降も内燃機関車の販売を認めることが発表されました。それだけではなく、欧州、米国、南米、豪州では、大規模な合成燃料製造プロジェクトが次々に立ち上がるなど、世界的にもその重要性が再認識されています。ENEOSは過去から合成燃料の研究開発をしてきましたが、現在、製造技術のスケールアップを検討しています」
合成燃料走行デモンストレーション式典にはENEOSが国内で製造した合成燃料が持ち込まれた。まず、プラントで合成粗油をつくり、沸点の違いを利用して成分を分離させ、ガソリン、ジェット燃料、軽油など、目的別に石油製品を得る。合成燃料のガソリンは化学的には通常のガソリンとまったく同じなため、通常のガソリンと同じように使うことができる。
現在の合成燃料の製造能力は1日1バレル(およそドラム缶1本)だという。2027年から28年を目処に300バレル/日のパイロット設備を完成させる見込み。これには国のグリーンイノベーション基金を活用する。その先に1万バレル/日以上の製造能力を持つ商用プラントが視野に入るが、その実現には国の支援が欠かせないし、導入時は通常のガソリンよりも高い燃料にならざるを得ない(いかに電気や水素を安価に入手するかが課題)。
理解を進めることが重要 政治家のコメントは?
「カーボンニュートラルの価値を社会全体でどのように公平にご負担いただけるか。その仕組みづくりも重要になってくる」と、藤山優一郞 ENEOS常務取締役執行役員は話した。仕組みづくりを担うのが、来賓として挨拶に立った議員の先生方だ。以下に挨拶を抜粋する。
甘利明 衆議院議員、「カーボンニュートラルのための国産バイオ燃料・合成燃料を推進する議員連盟」会長
「今日この日は燃料革命のスタートの日であります。20世紀が生んだ最大の発明品のひとつである内燃機エンジンに新しい息吹を吹き込む、新たな産業革命のスタートの日であり、地球環境保全を地に足が付いた形でスタートさせる環境革命の日でもあります。
地球環境保全のためにEVを進めることはもちろん必須課題であります。同時に、2050年になっても地球を走っている自動車の大部分は内燃機エンジンです。中古車は内燃機エンジンが大部分を占めます。新車販売だけ目先をきれいにして、それ以外は手をこまねいているということは、政治や行政がすべきことではありません。すべてを通じて地球環境に貢献をする。そのためには合成燃料が必須の開発アイテムであります」
山際大志郎 衆議院議員、「カーボンニュートラルのための国産バイオ燃料・合成燃料を推進する議員連盟」副会長
「前経済再生担当大臣として、GX(グリーントランスフォーメーション:化石燃料をできるだけ使わず、クリーンなエネルギーを活用していくための変革やその実現に向けた活動)を進めるための基本方針を作った人間のひとりとしてお祝いを申し上げます。(合成燃料を)社会実装するタイミングが遅すぎるのではないかという話を方々からいただいています。そこで、一日でも早く合成燃料が社会実装されるように政治の場で汗をかこうじゃないかと発足したのが、合成燃料を推進する議員連盟です。
これを実現するためには、e-fuelが本当に使えることを世の中に示さなくてはならない。それを示すのが今日だと思っています。実際に自動車が動くところを世界に発信し、日本がリーダーシップをとって一日も早く社会実装できるよう進めていく。そのための大切な一日であることを確信しております」
山本左近 衆議院議員、文部科学大臣政務官兼復興大臣政務官、元F1ドライバー
「私が国会で初めて質問させていただいたのも合成燃料の話でした。自動車の未来はついこの間までバッテリーEVがすべてだと思われがちでしたが、エンジンを使って環境負荷を減らして行くために、ガソリンに代わる合成燃料の価値を世の中の多くの人に知っていただく必要があると思います。合成燃料推進連盟の一員として、これからも汗をかいてまいりたいと思います」
太田房江 参議院議員、経済産業副大臣
「経産省はグリーンイノベーション基金を使って合成燃料の早期商用化ということで頑張って参りましたが、そのトップランナーとして走ってくださるのがENEOS。今月16日に行なわれた協議会では、もっと前倒ししてほしいと経産省からお願いをさせていただき、2040年という商用開始を2030年代前半まで早めさせていただきました。しかし、ご協力をお願いしている限りは、私どもももっと力を入れて支援していかなくてはなりません。グリーンイノベーション基金の拡充はもちろん、経産省もしっかり後押ししていくことをお約束いたします」
普段は交通安全講習を行なう広いコースには、「ENEOS e-fuel」の文字が目立つ専用カラーをまとったトヨタ・プリウスとGR86がスタンバイしており、齊藤猛ENEOS社長と宮田知秀副社長がそれぞれ合成燃料を1L充填。燃料タンクには通常のガソリンがあらかじめ9L入っており、合成燃料の比率は10%になる。
式典に車両を提供したトヨタ自動車の佐藤恒治社長がプリウスのステアリングを握り、助手席に齊藤ENEOS社長を乗せてデモンストレーション走行を実施。試乗前に以下のようなコメントを残した。
「今日は日本の合成燃料の未来を考えたときに、大変意義深い貴重な日になると思います。意思を持って、情熱を持って行動されたENEOSのみなさんに敬意を表するとともに、共に未来をつくる覚悟を持って一緒に汗をかいてまいりたいと思います。日本初の試乗を笑顔で楽しみたいと思います」
その言葉どおり、佐藤社長は笑顔を振りまきながら走行。ドライバーチェンジを行ない、齊藤ENEOS社長にステアリングを託すと、従来のガソリンと何ら変わらない走りを披露した。