新型アルファード 世界レベルのショーファーカーになるためにボディに施した技術とは?

新型アルファード/ヴェルファイアのボディ
新型アルファード/ヴェルファイアは、日本だけでなく世界的に拡大するショーファーカー需要に応えるべくコンセプトを定めたのが特徴だ。操縦安定性と乗り心地向上のため、ボディ剛性向上に力を入れた。ホワイトボディ(BIW=ボディ・イン・ホワイト)で技術のポイントを見ていこう。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)PHOTO:Toyota

TNGA GA-Kプラットフォーム採用だが、アルヴェル専用で手が入っている

ロールスロイスやマイバッハなど、欧州の名だたる高級サルーンに乗り、人が不快に感じる振動や騒音をしっかり抑え込むことが重要であることを学んだという。その学びを設計に織り込んだ。2列目シートの様子から、いかに後席を重要視しているかが伝わってくる。シートの下に見えるのは、床下V字ブレース。

新型トヨタ・アルファード/ヴェルファイアは後席(とくに2列目)の快適性を重視している。いっぽうで、運転のしやすさも重視している。どっちに乗ってもうれしさは感じられるが、見方を変えれば、運転のしやすさも後席のためとも言える。ドライバーの意のままにならないようなクルマは落ち着きがない動きになりがちだ。やさしい運転をしようにもクルマが言うことを聞いてくれないようでは、後席の乗員に快適に過ごしてもらうことなど期待できない。

その意味もあって、新型アルファード/ヴェルファイアはドライバーが安心安全に運転できるクルマに仕立てた。ポイントはボディ剛性の向上だ。前型の“アルヴェル”はエスティマなどと共用するMCプラットフォームを採用していたが、新型は最新世代のGA-Kプラットフォームを採用する。カムリ、RAV4、ハリアー、クラウンなどと共用することになる。

フロントはマクファーソンストラット式、
リヤはダブルウィッシュボーン式で前型と同じだが実質的に新規。高周波入力時(微振動)は低減衰で振動を吸収し、低周波入力時(旋回等)は高減衰力でしっかり踏ん張る周波数感応型ショックアブソーバーを設定。

フロントのサスペンション形式はマクファーソンストラット式、リヤはダブルウィッシュボーン式で形式自体は前型と変わっていない。GA-Kプラットフォームが同じ形式を引き継いでいるとも言えるが、他の車種とまるっきり同じわけでもなく、アルヴェル専用に手が入っている。

その前に、ボディを徹底的に強化した。サスペンションをしっかり動かすためだ。サスペンションの入力を受け止めるボディがヤワでは、運動性能の面でも、快適性の面でも、狙いどおりに機能しないからである。

「ボディ剛性は従来比で50%向上させました」と、開発責任者の吉岡憲一氏は説明した。新型アルファード/ヴェルファイアの発表会場でのことである。「とくに着力点、フロントのサスタワーやリヤのホイールハウスについては30%向上させています」と付け加えた。

カットボディのエンジンコンパートメントを覗き込むと、バルクヘッド寄りにオレンジ色に着色されたフロントサスペンションタワーバーが確認できる。いわゆるストラットタワーバーと似た働きをするパーツで、サスペンションの入力を受け止めるダンパートップの剛性を高める(変形しにくくする)働きをする。

環状構造+構造用接着材 前型までは「ミニバンは大開口があるので、乗り心地が悪くても仕方ない」と言い訳するようなところがあったが、高い運動性能が実現できているオープンスポーツカーを見て意識を改めたそう。
前型ではスライドドアとの絡みでストレート化できなかったロッカーをストレート化し、ねじり剛性を高めた。

「ミニバンというと大開口がある。それを言い訳にしているところがありました」と吉岡氏は言った。大開口があるので剛性を高めるなど無理だ。だから、運動性能は良くなりっこないし、乗り心地だってそうだと。世の中にはオープンのスポーツカーがある。ミニバンは側面や後面に大きな開口部があり、オープンカーは上面に大きな開口部がある。じゃあ、オープンスポーツカーが大開口を理由に言い訳をしているかというと、ポルシェ・ボクスターやマツダ・ロードスターもそんなことはなく、スポーツカーを名乗るにふさわしい運動性能を実現している。そこに着目し、新型アルヴェルの設計では3つの具体策を施した。

床下V字ブレース オレンジ色の部品がV字ブレース。リヤバンパー側から覗き込んだところ。実際にはミリ単位の変位だが、走行中は「魚の尻尾のようにに動いていた」Bピラーより後ろの剛性を高める策。

1つめは床下V字ブレース(補強材)だ。アンダーボディの剛性を高めるのに寄与している。2つめもアンダーボディに施した策で、構造用接着材である。なんと、前型比で5倍もの長さの接着材を塗布している。接着材は高減衰性接着材と高剛性接着材の2種類を使い分けている。振動低減に効果の高い部位には高減衰性接着材を用い、操縦安定性の向上に寄与する部位には高剛性接着材を用いている。

3つめはボディの環状構造をしっかりとったこと。Bピラー、Cピラー、バックドアまわりはしっかりとした環状構造としている。そしてこれらの環状構造をロッカー(サイドシル)のストレート構造がしっかり結ぶ。ここもポイントだ。

ブルーの部分がストレートロッカー

「ストレートロッカーですが、前型は上の部分がありませんでした。当時考え得るスライドドアの構造からすると、真ん中にレールが入るので凹断面を作るのが非常に難しかったのです。要するに、製造がうまくできなかった。今回は(製造面の進化もあり)ロッカーをストレートにすることで、ボディのねじり剛性を高めることができています」

実際に変位するのはミリ単位だが、走行中のボディの変形具合をシミュレーションで解析すると、Bピラーより後ろは魚の尻尾みたいに揺れ動く状態だったという。だから、「今回はなんとしてでもBピラーから後ろを硬くしたかった。その意味で、ストレートロッカーは非常に効いています」と話す。

ヴェルファイアのボディはアルファードと違う

フロントパフォーマンスブレース(赤い部分)
より走りに振ったヴェルファイアはラジエーターコアサポートとサイドメンバーを結ぶフロントパフォーマンスバーを専用に装備(アルファードには付かない)。フロントまわりの剛性を高め、操舵応答性を向上させている。「小さな部品だが結構効いている」(開発責任者)。

新型アルヴェルでは、これまで以上にヴェルファイアの個性を際立たせている。ヴェルファイアの場合は意のままに動くと後席の乗員が快適に過ごせるという、後席目線の操縦安定性ではなく、明確にドライバーにフォーカスし、「ドライビングプレジャーが感じられる運動性能」を狙ってボディを作り込んだ。

その具体例が、フロントパフォーマンスブレースだ。ラジエターコアサポートとフロントサイドメンバーを結ぶ位置に設置されている。これにより、フロントセクションの剛性が高まり、操舵した際の応答性が高まる。吉岡氏は、「ヴェルファイアのお客さまが好まれる、高い操縦安定性と接地感を実現するため」と説明した。

フロントサスペンションタワーバー(黄色い部分)を採用し、サスペンション着力点の剛性を高めている。操安性向上に効く。写真は2.5Lハイブリッド車(A25A-FXS)。アルファードはほかに2.5L直4NA車(2AR-FE)を設定。ヴェルファイアのガソリンは2.4L直4ターボ(T24A-FTS)。

ボディ剛性面ではオープンスポーツカーを参考にしたいっぽう、乗り心地面ではロールスロイスやマイバッハなどの高級サルーンに乗り、気持ちいい乗り心地のポイントを探った。その結果わかったのは、ブルブルした不快な振動を徹底的に減らしていることだったという。その知見が反映されているのが、2列目シートだ。

シートレールとシートクッションフレームの間に防振ゴムを配置。車両から入力される10〜15Hzの振動を抑制する。シートクッション部は骨盤を立てて座らせ、上半身の揺れを抑える形状。

人が不快に感じやすい10〜15Hzの振動を抑制するため、シートレールとシートフレームの間に防振ゴム(ゴムブッシュ)を配置したのが特徴。さらに、シートパッド表層に低反発ウレタンを採用することで、振動を感じやすい背中に伝わる20Hz以上の振動を吸収する設計とした。また、シートクッション部は表面形状の工夫で骨盤を少し前傾させて座らせるようにした。骨盤が寝た姿勢で座ると首の揺れが大きくなるからで、骨盤を立てた状態で座らせることで、首の揺れを抑え、快適性の向上につなげる考えだ。

「振動吸収と姿勢保持、この2つを適材適所で行なうことで、極上の乗り心地を実現しています」と吉岡氏。新型アルファードとヴェルファイアは運転席と後席、どちらも乗って確かめるのが楽しみになる、力の入れようだ。

フロントドア開口周り環状構造は、超ハイテン材を多用した環状構造にすることで、ボディ補強は軽量化を実現した。熱間プレス材(1500MPa級)冷間プレス材(1470MPa級)冷間プレス材(1180MPa級)を使う。Bピラーアウターリンフォースには、1500MPa級の超ハイテン材と590MPa級のハイテン材を一体成形したものを使う。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…