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アメリカ市場でランクルが復活!
東京ビッグサイトで新型ランドクルーザー250の発表会が行われていた頃、アメリカではユタ州ソルトレイクシティにある「ランドクルーザー・ヘリテージ・ミュージアム」を舞台にアメリカ版の新型ランクル250がデビューした。
そこで何が語られたのか? 米国トヨタが発信している公式動画から、日本の発表会では聞けなかった話を、ここでお届けしよう。動画では米国デザイン拠点のトップもスピーチしている。
「ランドクルーザー・ヘリテージ・ミュージアム」は、トヨタ販売店を経営するグレッグ・ミラーが設立したもの。BJ系から200系まで100台余りのランクルを展示している。「原点回帰」をコンセプトとする新型がデビューするには、まさに相応しい施設だ。
なぜ「200系まで」かと言えば、アメリカでは現行300系を販売していないからだ。発表会でまずスピーチしたのは、米国トヨタでトヨタ部門を統括する副社長のデイブ・クリスト。「ご存知のように数年前、我々は60年続いたランドクルーザーの販売をやめるという難しい決断を下した」
従来型ランクル・プラドは日本では2009年に発売されたが、アメリカでは姉妹車のレクサスGXだけを販売。2021年の300系も同様に、姉妹車レクサスLXだけに絞った。先代200系の価格が8万ドル台後半にまで上がり、販売台数が低迷していたからだ。かくしてランクルの名が、いったんアメリカ市場から消えたわけだが・・。
「当時は言えなかったけれど、ランドクルーザーが戻ってくることはわかっていた」とクリスト副社長。そして「それを正しい方法でやりたかった」と告げると、セレモニーはいよいよ新型のお披露目へと進む。2台の新型が発表会場に走り込んできた。
「どう思う?レジェンドが戻ってきた。時間はかかったけれど、待つ価値はあったと確信している。ランドクルーザーはレトロなデザイン、そして定評ある伝説的な踏破性や耐久性を備えて、そのオリジンに回帰したのだ」
レトロなデザイン?いや、東京での発表会でチーフブランディングオフィサー兼デザイン統括のサイモン・ハンフリース取締役は、「どう原点回帰するか?レトロをやっても意味がない」と語っていた。それでもアメリカではレトロという認識なのだろうか?
機能に沿ったピュアな表現
クリスト副社長に続いてスピーチしたのは、トヨタの米国デザイン拠点であるキャルティ・デザインリサーチInc.のケビン・ハンター社長。新型ランクルのデザイン開発にキャルティは初期のコンセプト段階から参画し、本社側と協業していた。
「ランドクルーザーはグローバルなアイコンだ。最も過酷な状況で使われながら、安全かつ信頼感を持って旅を終えられるという最高の確信を乗る人に与えてきた。そこで我々のデザインチームは4つのキーワードを掲げて開発を進めた」
キーワードは「オーセンティック(本物感)」、「リライアブル(信頼感)」、「タイムレス」、そして「プロフェッショナル」だ。
「真に合目的なデザインは、永続的でユニバーサルな魅力を持つ。それを心に置いて、機能に沿ったピュアな表現で新型をデザインしなくてはいけない」とハンター社長。「過去のランドクルーザーにも立ち返り、そのラギッドな個性を未来に向けて結び付け直すことで、アイコニックな核心的価値を再興したいと考えた」
過去に立ち返ってデザインしたことを、わかりやすく言えばレトロという言葉になるのかもしれない。しかしハンター社長の発言は、デザイナーの発想が過去から未来に向かっていたことを、さりげなく伝えている。では、過去の何を取り入れたのか?
振り返ったのは40系と70系
新型ランクル250の開発初期のコンセプトは、4つのキーワードを発展させて、「ファンクショナル・ピュアリティ」、「ラギッド・シンプリシティ」、「タイムレス・オーセンティシティ」の3つの狙いを定めた。上に並ぶ絵は、左から3つは70系をベースに描かれ、右端の「キャビンをプッシュバックさせる」は40系を下敷きにしている。
「新型のデザインは40系や70系から影響されたモダンなヘリテージを、刷新されたバランスで表現した」とハンター社長。「彫りの深い顔、長いフッド、アップライトなウインドシールドは、70系が持っていた道具感をダイレクトに想起させる」。そしてこう続けた。
「ボクシーだが効率的なボディはワイドスタンスで、張り出したフレアが大径タイヤを包み込んでいる」。これが「刷新されたバランス」という言葉のひとつの意味だ。
80系の居住性に市場から不満が出たため、100系以降はベルトラインを外に出して室内幅を拡大。それに伴ってフェンダーのフレアの張り出し量が小さくなっていた。そこから一転、今回はボディサイドをタイトに引き締め、なおかつそれを前後に絞り込むことで、フレアがくっきりと張り出したワイドスタンスを実現した。
オフロードを走るためのデザイン
「オフロードをシリアスに走る人ならご存知のように、視界の良さは楽しく安全な旅に欠かせないものだ」と、ハンター社長は視界のデザインに話題を進める。
「そこで我々はベルトラインが低くて背の高いキャビンをデザインした。路面を見やすくするためだ。さらにAピラーを後ろに引きながら、フッドの中央部分をえぐって前方の直前視界を改善した」
近頃のSUVはベルトラインを高めにして、そこから下のボディの厚さでSUVらしい力強さを表現する例が多い。そのなかで200系や300系のベルトラインは低い方ではあるが、新型ランクルはさらに下げた。リヤドアの途中からベルトラインをステップダウンさせている。
フッド中央のえぐりは200系のマイナーチェンジから300系に受け継がれたものが、今回はもっと幅広くえぐっているので直前視界の改善にかなり役立ちそう。その左右のフェンダー稜線が運転席から見えるおかげで、車両感覚も掴みやすいことが期待できる。
こうした視界を考慮したデザインも、「刷新されたバランス」をもたらした。オフローダーに必要な機能に沿いながら、随所でバランスを見直したデザインなのである。
アメリカ仕様の新型ランクル250は3タイプ
日本向けのグレード構成は未発表だが、アメリカでは3タイプが用意される。
発売に向けて優先的に生産する「ファーストエディション」は、アメリカでは5000台限定。「丸型ヘッドランプをはじめ、ランドクルーザーの最良の特徴をすべて備えている」と米国トヨタのクリスト副社長は告げる。
ご存知のように、新型のヘッドランプには丸型と角型がある。取付構造は共通なので、東京での発表会ではグレードを問わず丸型か角型かを選べる可能性が示唆されていた。しかしアメリカは違うようだ。
残る2タイプは、シンプルに「ランドクルーザー」と呼ばれる基準車と「1958モデル」と称するベーシック仕様。「ランドクルーザー」は角型ランプで、「1958モデル」は丸目だ。
もともとキャルティが提案したデザインは角目だったので、基準車を角目にしたのは当然の判断だったのだろう。クリスト副社長によれば、「シャープな角型ヘッドランプはFJ-62(マイナーチェンジで丸2灯から角4灯に変更した60系)を思い起こさせる」とのことだ。
一方の「1958モデル」は1958年に初めてランクルをアメリカで販売した故事に由来するネーミング。当時のFJ-25はもちろん丸目だった。「ファーストエディション」と違ってヘッドランプ下のコーナーパネルが黒い素地色になり、キャルティのハンター社長は「アクセサリー装着やカストマイゼーションのための余白を提供するデザインだ」と語っている。
ちなみに欧州トヨタも「ファーストエディション」の存在を明らかにしている。日本はどうなるのか? 次なる発表を楽しみに待ちたい。