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往年のWRCマシンで1990年代の世界を感じる
prodrive Gr.A GC8 PRO94.014 L555RE
今年の1台といえば、10月にスバル車の世界的コレクターとして界隈で有名な@BOXER_GrA_GC8さんのご好意で、ステアリングを握らせていただいた「prodrive Gr.A GC8 PRO94.014 L555REP」。
これまで職業柄様々な競技車両に乗せていただいたことがあるが、このインパクトはとにかく強烈だった。
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WRCのグループAは、1986年まで過度なパワー競争を繰り広げてきたグループBの廃止に伴い、1987年からトップカテゴリーへ昇格した。マシンとしては、WRC史上でも最後の市販車に近いレギュレーションで、ボディ形状やサスペンション形式、エンジン内部の変更が禁止されている。ゆえにそのエクステリアは、カラーリングを除けば街中を走るクルマとほとんど変わらない装いだ。そこが魅力の一つといえる。
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今回紹介するprodrive Gr.A GC8 PRO94.014 L555REPは、初代インプレッサ(GC8型)をベースに、スバルワークスマシンとしてプロドライブが製作した1台だ。実戦では1994年に使用された個体で、カルロス・サインツがドライブした車両と言われている。この貴重なマシンを目にするだけではなく、なんと運転までさせていただけるのはオーナーのBOXERさんと長きにわたり好意にさせていただいているおかげだ。
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いもっち、思春期にスバル愛をこじらせる
筆者はスバルに目覚めたきっかけが中学生時代にテレビのドキュメンタリー番組で目にした初代レガシィの10万キロ世界速度記録によるものだが、それがきっかけでスバルにのめり込み、WRCにハマるまでさほど時間はかからなかった。
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特に憧れのレガシィツーリングワゴン(BG型)を手に入れた1995年は、スバル初のマニュファクチャラーチャンピオンと、ドライバーであるコリンマクレーのドライバーズチャンピオンというWタイトルに歓喜。それまで陰ながら応援してきたスバルが世界一になったことはとてつもない大きな喜びだったった。
筆者がWRCに興味を持ち始めたころは初代レガシィ(BC型)がワークスマシンとして活躍。1993年には初優勝という輝かしい成績を残し、インプレッサへとバトンタッチ。レガシィよりもコンパクトなインプレッサは1993年の1000湖ラリーでセンセーショナルにデビュー。1995年、1996年と連続マニュファクチャラーズタイトルを獲得した。ちなみに1997年もスバルはマニュファクチャラータイトルを獲得しているが、この年から導入されたワールドラリーカー規定による2ドアモデルであった。
まずは現役ラリードライバーの同乗走行を体験
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さて、当時はブラウン管の向こう側で世界一を競っていたインプレッサのグループAマシンに、まさか自分がステアリングを握ることができるなど、思いもよらない経験だったのだが、目の前で見るラリーカーはとても20年近く前のマシンとは思えないほど強烈なオーラを放っていた。まずは、ラリージャパンや全日本ラリーでも活躍中の新井大輝選手にドライブしてもらい、助手席に同乗することとした。
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走行会が開催された群馬サイクルスポーツセンター(以下群サイ)は、タイトなコーナーが連続する舗装路。さながらツールドコルスを思わせるオールターマックのコースだ。
実際、大輝選手は群サイでの走行経験も多く、ラリーイベントなどが開催された実績もある場所柄、かなりのハイスピードでの走行は、当時のオンボード映像を彷彿とさせた。
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ナビシートに座って真っ先に感じたのは、強烈な加速Gと減速Gは現代の競技車両に同乗した際に感じたことのない強烈な物だった。
真っ先に感じたのは、この状況下でペースノートを読むことができるコ・ドライバーのすごさ! 競技用のフルバケットシートとハーネスでがっちり固定されていても、ノートを読むどころか両足を踏ん張っていることが精いっぱいの筆者には超人技としか思えない。
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しかも、大輝選手の表情を見ると、笑顔で話しながらドライブしているではないか!ということは全開走行ではなく、マージンを取った”遊覧走行”なのである。世界選手権を戦うマシンと、現役プロドライバーの組み合わせ恐るべしである。
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いよいよ自分でステアリングを握る! グループAマシンを動かせるか?
数周の周回の後、大輝選手と交代。恥ずかしながらエンジンのかけ方がわからず、助手席からレクチャーを受けるも、航空機のコックピットかと思うほどの膨大なスイッチ類を前に、これ押して、次にこれ押して、ここを押せばかかりますと言われても、どこを押したのか分からなくなるほど(笑)
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何とか始動して、ギアを1速に入れる。Hパターンのドグミッションは”ガチャン”というラリーで聞きなれた音と共に、軽い振動が伝わる。恐る恐るクラッチをミートすると、驚くほど簡単にマシンが動き出す。WRCマシンだからと身構えていたが、拍子抜けするほど乗りやすく、マニュアル車を運転してことがある人であれば誰でも動かせるのではないか?と思うほどイージーだ。
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走り出してからの変速も一般的なマニュアル車と何ら変わらないのだが、唯一、シフトストロークが恐ろしく短く、3速に入れたつもりが5速だったという痛恨のミスをしてしまう。それでも気を取り直して、軽いブリッピングをしてから2速に入れると、ハーフスロットルでも恐ろしいほどの加速をする。
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パワー感的には200ps後半くらいのフィーリングだが、とにかく車体が恐ろしく軽く感じるため、市販車のGC型インプレッサよりもさらに荒々しい加速をする。それでも貴重な借り物のクルマなので、極力セーブした走行は、傍から見たら大輝選手の走りの後だと止まっているように見えたかもしれない。
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コーナーが迫ってくると、大きめのブレーキペダルを思い切り踏むが、市販車と違い倍力装置のついていないラリーカーでは、初期制動は穏やかだが踏み込んだ分だけ制動力が立ち上がり、慣れていれば非常にコントロールしやすい。プロドライバーはこれを左足で繊細にコントロールする。
きっちり減速してステアリングを切り込むと、まるでコマのようにくるりと向きを変える。タイヤのグリップ力によるものも大きいが、クイックなステアリングはタイトなコーナーほど気持ちよい!大輝選手のように、サイドターンをすることはなかったが、それでも旋回性能の高さは体感できた。
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パッと見た感じは市販車両と大きく変わらないグループAマシンだが、実際にドライブしてみると、軽さが際立つ気持ちの良いクルマだった。何より、世界選手権のモータースポーツといえばF1とWRCくらいしか存在しなかった時代に、スバルが名だたるライバルと切磋琢磨して戦ったマシンに乗れたことだけで感無量であった。