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アメリカ本国にも負けない完成度の高いSTREETRODが勢揃い!
『ヨコハマホットロッドカスタムショー』(以下、HCS)でエントリー台数が多く、ひときわ目立つ存在なのが「STREETROD」だ。
STREETRODとは1949年までに製造された車両をベースに、公道走行を前提に製作されたHOTRODのことを指す。
1950年代に産声を上げたSTREETRODは、当初はレースに勝つために作られたレーシングカーとほとんど差がないスタイルをしていたが、やがてカッコ良く“魅せる”ことも重視されるようになる。
その結果、STREETRODはボディワークにも力が注がれるようになり、戦前からのチョップドルーフ(ピラーを切り詰めルーフを低くしたカスタム技法)に加えて、チャネリング(車体のフロアパネルを一度切り離し、高さを調整した上で再溶接することで、足回りに変更を加えることなく車高を低く下げるカスタム技法)やセクショニング(車体下部より水平にボディを切り取り、残った上部と下部を再溶接することでボディを薄くし、車高を下げるカスタム技法)などのボディワークを施し、視覚的にも速さが強調されるようになった。
ベース車として人気があるのがアーリーフォードと呼ばれるモデルT(いわゆる「T型フォード」)やモデルA、そして、“DEUCE“の愛称で知られるモデルBなどだが、シボレーやウィリス、バンタム、クロスレイなどをベースに製作されることもある。
STREETRODは北米を中心に世界中に多くのファンを持つ。日本ではアメリカ車ファンを中心に存在こそ認知されているが、国内では希少な戦前車をベースとする上に、製作には相応の手間とコスト、そして制作には専門的な知識とボディワークに熟練した技術が必要になることから世間からは浮世離れした特殊な自動車趣味と思われているようで、街角でその姿を見かけることは滅多にない。
しかし、その数は決して多いとは言えないものの、わが国にも熱烈な愛好家がおり、専門的に取り扱うプロショップも存在する。
エントリーしたSTREETRODは「FIFTIES」と「TRADITIONALS」が中心
そんなSTREETRODが一堂に介する数少ないイベントがHCSなのだ。
STREETRODのスタイルを大別すると、1950年代の「FIFTIES(フィフティーズ)」、1960年代の「TRADITIONALS(トラディショナルズ)」、そして最新のテクノロジーを惜しみなく注ぎ込んでマシンを製作する「HiGH TECH(ハイテック)」が存在する。
しかしながら、HiGH TECHは製作するのに高い技術力と莫大な製作コストが必要になることから日本では滅多にお目にかかることはできず、HCSのエントリー車のほぼすべてがFIFTIESやTRADITIONALSであった。
HiGH TECHのエントリーがほとんどないということを除けば、会場に集まったマシンは国内最高峰のショーということもあって、エントリー車両のレベルはアメリカのカスタムビルダーにも負けてはいない。本国のカスタムショーでもアワードを狙えそうな完成度の高いマシンも散見される。
「RATROD」のブームが過ぎ去り再びSTREETRODがHCSの主役に
STREETRODとは共通のベース車を用いつつ、別ジャンルのHOTRODとして「RATROD」がある。これは「使い古された」あるいは「未完成」の状態を再現するため、錆びた内外装、錆止めやプライマー処理のみのボディパネル、適当に拾ってきたパーツを組み付けたような粗雑さと、意図的に外観をボロく見えるように仕上げたビンテージHOTRODだ。
日本でも15年ほど前にちょっとしたブームがあり、一時期はHCSの会場を埋め尽くすほどの勢いがあったが、今回久しぶりに会場を訪れると往時ほどの盛り上がりはなく、エントリー台数は少なくなっていた。
たしかにRATRODにはRATRODの魅力があるし、COOLではある。STREETRODに比べるとフィニッシュに掛けるコストを省けるので制作コストが幾分安く上がる(と言ってもそれなりに高価にはなるが……)。それでいて人目を引く個性的なマシンに乗れるのはメリットかもしれない。世界中にファンがいるのも理解はできるし、それを否定するつもりはもちろんない。ただ、やはりRATRODはSTREETRODのカウンターカルチャーであり、HOTRODの保守本流はSTREETRODにあるように思うのだ。
一時のブームが過ぎ去り、HCSがSTREETRODが中心のショーに回帰していたことはSTREETRODのファンである筆者には好ましく感じられた。