【プロが選んだ思い出の愛車・ベスト3】初めてのスピンもドリフトも日産シルビア(S13型)で経験した

ときに舌鋒鋭く自動車をレビューするモータージャーナリストは、どのような愛車とともに人生を過ごしてきたのだろうか。日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員も務める工藤貴宏さんに、歴代のお気に入りの愛車・ベスト3を聞いてみた。

TEXT●工藤貴宏(KUDO Takahiro)

「恋愛と愛車遍歴は似ている」なんて説があるらしい。愛車を頻繁に乗り換える人は恋愛も短いサイクルで、愛車に長く乗り続ける人は特定の相手と長く恋愛をするタイプなのだそうだ。

そんな深層心理もあってか(!?)、ボクは愛車に長く乗り続けるほうだ。はじめての愛車を手にしてから四半世紀が経つけれど、所有したクルマはわずか8台。自動車ライターとしては異例の少なさだろう。

いずれも購入から5年以上は所有し、長いクルマは10年を共にした。足していくと計算が合わないのは、途中から複数台所有になったから。今は手元に3台の愛車がある(ってことは二股の癖があるのか…?)。

3位:ポルシェ・ボクスター(986型)

「スポーツカーとはかくあるべき、という哲学を教えてくれた」

ランク3位は、そんなボクが、これまでもっとも長い期間所有していたクルマ。10年間乗り続けた、986型のポルシェ「ボクスターS」である。もちろんトランスミッションはマニュアルだ。

人生はじめての6気筒、人生はじめての水平対向、人生はじめての2シーター、人生はじめてのオープンカー、人生はじめてのスポーツカー、人生はじめての輸入車、そして人生はじめてのポルシェ。とにかく初尽くしだった愛車。なぜ思い出深いかといえば、いろんなことを教えてくれる存在だったから。

オープンカーなのにボディの剛性感はすさまじく、エンジンは精密さの塊。「スポーツカーとはこうあるべき」という哲学的な教えはやがて血となり肉となり、自動車ライターとしての成長をサポートしてくれた。5年落ちの中古車だったけれど、とにかく濃いクルマだった。長く乗り続けたのは、そのクルマ作り哲学に共感していたからに他ならない。

ポルシェ ボクスター
ポルシェの主力モデルたる911の弟分として1996年にデビューしたボクスター。フロント部分は911と共用しつつ、水平対向6気筒エンジンを車体中央に搭載する。標準モデルが2.7L(220ps)エンジンなのに対して、ボクスターSは3.2L(252ps)と差別化されていた。
ポルシェ ボクスター
ポルシェ・ボクスター(986型)

2位:ホンダ・アコードワゴン(CM型)

「自分の人生観を変えてしまうほど完成度が高かった」

ランク2番手は、ホンダ「アコードワゴン」。2003年式のCMという型式でルーフがほぼ水平に長くてテールゲートが直立したデザインのタイプだ。楽に移動できる足として、また生活のパートナーとして実用的なAT車として選んだ。…のだけど、愛車にして驚いた。走りの素性が素晴らしかったのだ。

「24Tスポーツパッケージ」という欧州仕様のサスペンションと強化ブレーキが付いた仕様だったけれど、それまでシャコタンのシルビアに乗っていたボクからしたら走りの方向性が目からウロコ。ノーマルなのに超高速域におけるスタビリティの高さと快適性、そしてワインディングロードにおける意のままのハンドリングにビックリ。しかも乗り心地までいいのだから、「クルマってここまで完成度を高められるんだ」と感動した。

このクルマを所有したことで人生観(クルマ観?)が変わったといっても過言ではない。素晴らしいクルマだった。

ホンダ アコードワゴン
2002年にフルモデルチェンジを行い、セダンとしては7代目、ワゴンとしては4代目となったアコード。ワゴンの特徴的なルーフラインは急降下する隼をイメージしてデザインされたもの。エンジンはワゴン専用の2.4L直4(160ps)を積む。
ホンダ アコードワゴン
ホンダ・アコードワゴン(CM型)

1位:日産シルビア(S13型)

「走りも車体もたいしたことなかったけど、初愛車の存在は偉大」

というわけでトップは、日産「シルビア」である。

ボクの愛車遍歴のなかには新車で買ったS15シルビアもあるけれど、ここで挙げたいのはその前に中古で買ったS13シルビア。ターボで、マニュアルで、人生はじめての愛車だ。

はじめて付き合った異性のことをいつまでも忘れずに記憶のなかでどんどん美化されるのと同じで、初めての愛車はやはり特別な存在。とにかく運転することが楽しくてたまらなかったし、初めてのスピンも、はじめてのドリフトもこのクルマが教えてくれた。当時は大学生だったからデートだってたくさんした思い出のクルマ。自分でいろいろいじってみたけど、バンパーを交換した後にはなぜかネジが余ったっけ。

今から振り返ると、走りも車体の強靭さも本当に大したことのないレベルだった(デザインは良かった!)。でも、やっぱり初めての愛した相手の存在は偉大なんですよ。たくさんの甘酸っぱい思い出とともに。

日産シルビア
バブル期真っ最中の1988年に登場したS13型シルビア。当時、「デートカー」として人気を集めていたホンダ・プレリュードをあっという間に駆逐した。また、FR駆動でターボエンジンもラインナップすることから、スポーツ走行を好む層からも長く支持された。
日産シルビア
日産シルビア(S13型)
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著者プロフィール

工藤 貴宏 近影

工藤 貴宏

自動車ライターとして生計を立てて暮らしている、単なるクルマ好き。

大学在学中の自動車雑誌編集部ア…