スズキ「フロンクス」のベストバイは2WDと4WDのどっち? 19万円差をどう考えるか?

『小・少・軽・短・美』を行動理念として掲げ、『お客様の立場になって価値ある製品を作ろう』を社是のひとつとしているスズキ。たしかにスズキの軽自動車や実用的コンパクトカーは、そうした理念や社是を全面的に感じるものだ。しかし、2024年にインドからの輸入車として日本でローンチしたコンパクトSUV「フロンクス」は、『小・少・軽・短・美』に”艶”をプラスしたような新しいスズキ車の姿を見せてくれたといえる。ワインディングを模したクローズドコース、雨天の市街地といった試乗経験を踏まえ、あらためてフロンクスのベストチョイスを考えてみたい。

REPORT:山本晋也(YAMAMOTO Shinya) PHOTO:井上 誠(INOUE Makoto)

2WDで250万円超だけど全部盛りを考えたらリーズナブル

1.5Lエンジンのマイルドハイブリッド、6速ATというのは駆動方式にかかわらず共通仕様。スタイリングのイメージもほとんど同じだ。

日本では、年々「損をしたくない」というマインドが強くなっているように感じる。価格以上の価値を「コスパ」という言葉で表現、コスパに優れた商品を選ぶことがスマートな消費者の証となっているのも否めない。

そして「コスパ」の同義語として「リーズナブル」という言葉もよく使われる。イメージ的には安価な商品という意味合いで捉えられているが、リーズナブルというのは安いという意味ではなく、本来は「適正価格」というニュアンスで理解すべきだ。

そして2024年に登場したニューモデルにおいて、筆者がもっとも「リーズナブル」という言葉が似合うと感じたのが、スズキ・フロンクスといえる。

リヤバンパーの大きなアンダーガード的造形がSUVらしいマッシブなスタイルを生み出す。

もはや説明不要だろうが、簡単にまとめるとインドで生産されるグローバル向けのコンパクトSUVというのが、そのプロフィール。世界中にデリバリーするのに、ロジスティクスの都合がいいということでインドの工場で生産されている。すなわち、日本仕様もインドからの輸入車となる。

輸入車ということでグレード構成を可能な限りシンプルにしたいという売り手の論理と、コスパのいいプロダクトが欲しいという買い手の希望をうまくバランスさせるには、商品性と価格がマッチした本当の意味でのリーズナブルを実現する必要があるのはいうまでもない。その視点から、2024年に登場したニューモデルを眺めていくと、フロンクスの2WD(前輪駆動)が浮かび上がってくる。

インテリアは直感的にラグジュアリー。ステンレス製ペダル、9インチナビなど標準装備品で事足りる内容だ。

全幅が1765mmもあるため3ナンバーとなるが、全長3995mm、1.5Lエンジンの最高出力74kW(101馬力)というのは、まごうことなきコンパクトカーの範疇にある。それで254万1000円という価格は、コスパがよいとは思えないかもしれない。ただし、装備を見ていくと印象は変わるだろう。

メーターこそ指針式でベーシックカー的と感じるかもしれないが、コネクティッド機能も持つ9インチナビ、スマートフォンのワイヤレス充電、電動パーキングブレーキ(オートホールド付き)、フロントシートヒーター、本革巻ステアリングホイール、パドルシフトなどが標準装備となっている。

現在のクルマに欠かせないADAS(先進運転支援システム)についても、ミリ波レーダーと単眼カメラをフュージョンするシステムを搭載、交差点での右左折時にも機能する最新版を搭載している。ルート案内時などの視線移動を抑えるヘッドアップディスプレイもカラータイプを標準装備する。高速道路でも、先行車に追従するACC、車線中央維持アシスト、ブラインドスポットモニターなどのおかげで、安心・安全に走ることができる。

これら充実した標準装備の内容と、マイルドハイブリッドによる19.0km/LというWLTCモード燃費性能を考えれば、「フロンクスが2024年の新型車において、リーズナブルさが際立つ」という筆者の主張も共感していただけるのではないだろうか。もはやインドからの輸入車というのは、経営的には意味があっても、クルマとしてのフロンクスの価値にはなんの影響もないとさえ思う。

4WDはスタビリティを実感できる新時代のスズキテイスト

4WDのメーカー希望小売価格は273万9000円。

それでは、2WDに対して19万8000円高の、273万9000円という価格に設定されているフロンクス4WDは割高なのかといえば、そうとはいいがたい。降雪地域で4WDマストというユーザーでなくとも4WDを検討してほしいと思うくらい走り味の違いがあるからだ。

パワートレインの構成は基本的に共通(厳密にいえばエンジンの最高出力がわずかに低い)で、4WDシステムとしてもスタンバイ型のため舗装路でおとなしく乗っているぶんには、たとえウェットコンディションであっても”ほぼ2WD”となっているのだが、筆者の印象はまったく異なる。

2WDで感じた軽快さが薄れ、逆に四輪スタビリティが増している。極端な表現をすると、2WDはフロントの操舵に従ってウサギのようにリニアに向きを変える印象があるのに対して、4WDはグリップを確保したリヤも同時に曲がっていくような印象で、ラグジュアリーなインテリアのムードには4WDの走り味のほうがマッチしていると感じる。もちろん、実際に街乗りのスピード域では微妙な差でしかないのだが、駆動方式によって走りの表現が異なっているのは間違いない。

車検証で確認した前後軸重は2WDが680kg:390㎏、4WDは690kg:440kgだった。

一般論でいえば、市街地での燃費や軽快さを重視するなら2WD、雪道だけでなく夏場のワインディングも楽しみたいなら4WDという風にまとめることができるだろうか。

ただし、最新のスズキ・シャシーセッティングを味わえるという価値を考えると、日本向けに開発されたというフロンクス4WDには予算を確保してでも選ぶ価値があると筆者は思う。もっとも市街地を”ただ”走っているだけでは、4WDのスタビリティ感は重ったるさに感じてしまうかもしれないが…。

なお、ノーマルから切り替えることのできるドライビングモードについて、2WDは「スポーツ」モードだけとなっているが、4WDは「スポーツ」のほかに「スノー」が選べ、さらにラフロードを考慮した「グリップコントロール」や「ヒルディセントコントロール」も備える。スノーモードは舗装路でのんびり走りたいときに”使える”モードであったこともお伝えしておこう。

フロンクス4WDのドライブモード関係のスイッチ類。
フロンクス2WDのドライブモード関係のスイッチ類。
タイヤ切れ角を確保することで最小回転半径4.8mを駆動方式にかかわらず実現した。

スズキ・フロンクス主要スペック

FRONX
全長×全幅×全高:3995mm×1765mm×1550mm
ホイールベース:2520mm
車両重量:1070【1130】kg
エンジン種類:直列4気筒DOHC VVT
総排気量:1460cc
最高出力:74kW(101PS)【73kW(99PS)】
最大トルク:135Nm【134Nm】
モーター種類:直流同期電動機
最高出力:2.3kW(3.1PS)
最大トルク:60Nm
変速装置:6速AT
駆動方式:FWD【4WD】
WLTCモード燃費:19.0【17.8】km/L
燃料タンク容量:37L
使用燃料:レギュラーガソリン
最小回転半径:4.8m
タイヤサイズ:195/60R16 89H
乗車定員:5名
メーカー希望小売価格:254万1000円【273万9000円】
※【 】内は4WD

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著者プロフィール

山本 晋也 近影

山本 晋也

1969年生まれ。編集者を経て、過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰することをモットーに自動車コ…