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SKYACTIV-Z=究極のガソリンエンジン?
説明会で明らかにされたのは、「さらなる理想燃焼を追求し、環境、走行性能を高めた4気筒ガソリンエンジン」「2027年中の市場投入を目指す」「将来は直列6気筒エンジンにも、この新型エンジンの燃焼技術を移植して環境性能を高める」「欧州ユーロ7、米国LEV4・Tier4などの厳しい環境規制に適合する」ということだ。
「そして、「このSKYACTIV-Zエンジンは理想燃焼であるラムダワン燃焼を使い、低回転から高回転まで広いレンジでスーパーリーンバーン燃焼を実現することで高い熱効率を実現し、優れた環境性能と走行を提供できます」と説明された。その後の各社の報道では、そのままこのフレーズがそのまま使われていたが、ラムダワンとスーパーリーンバーンは両立しないはずだ。ラムダワン(λ=空気過剰率)は、理論空燃比のことだから、ガソリンエンジンならA/F=14.7:1だ。燃料1gに空気14.7gという比率だ。また、スーパーリーンバーンとは、λ>2のことだから、燃料1gに対して空気約30gということになる。
λ=1を守ると、空気中に含まれる約21%の酸素分子(O₂)を燃料中の水素原子(H)と炭素原子(C)がすべて使い切り、ガソリンが持つ最大限のエネルギーを発生しながら、同時にNOx(窒素酸化物)やCO(一酸化炭素)など余分な酸化物の発生を抑えられる。
大車林によると、「空気過剰率(excess air ratio)」
実際に供給された空気の質量を理論上必要な最少空気質量で除した値を空気過剰率といい、混合気中の空気の余剰度を表す指標である。実際に供給する空気量をL、理論上必要な最少空気量をL0とし、λ=L/L0と表すとき、このAが空気過剰率であり、実際の空燃比を理論空燃比で除した値にも等しい。λ=1の混合気が理論混合気であり、λ>1の混合気をリーン混合気、λ<1の混合気をリッチ混合気という。
SKYACTIV-Xでもスーパーリーンバーンは実現している
マツダはSKYACTIV-Xエンジンで限られた領域ではあるが、すでにスーパーリーンバーンを実現している。リーンにすると、比熱比が高まり冷却損失は減り、ポンプ損失も減る。しかし、理論空燃比の2倍以上というレベルにすると、通常の火花点火では火炎伝播ができずに燃えなくなるので、マツダは「圧縮着火」着目した。SKYACTIV-Xで実現したのは、SPCCI(SPark Controlled Compression Ignition)だ。火花点火で生じる局部的な燃焼による圧縮効果を使って必要な燃焼室内の温度と圧力を制御し、圧縮着火するのだ。幾何学的圧縮比を圧縮着火(CI)開始寸前まで高めておいて、圧縮着火を誘発させるために火花点火(SI)による膨張火炎球によってもうひと押し圧縮する。そのあと一押しをスパークプラグの点火タイミングで制御できるため、圧縮着火が難しい領域でもシームレスに火花点火に燃焼を移行できるわけだ。当然、SKYACTIV-ZにもSPCCIの技術は生かされるだろう。
とはいえ、λ1とスーパーリーンバーン(λ>2)の謎は解明できていない。
SKYACTIV-Zについて、マツダの廣瀬一郎取締役専務施行役員兼CTOと立ち話をする機会があったので、尋ねてみた。ラムダワンでスーパーリーンバーンというはどういうことですか?
答はこうだった。
「三元触媒を使うためにλ=1を使いつつ、大量EGR(エキゾースト・ガス・リサーキュレーション=排ガス再循環)でGAS(新気+EGR)と燃料の比率を高めて比熱比を高めて効率を上げる。G/Fを上げるという意味だ」と。
大量EGRを入れたλ=1のG/FリーンのSPCCI燃焼ということなのだろうか。G/Fとは、排ガスを含むトータル空気と燃料の比率。たとえばEGR比率が50%なら、残る新気50%をλ=1で燃焼させられる燃料を入れれば全体ではリーン燃焼になる。これでG/F=2になる。
マツダが「ラージ商品群技術フォーラム」で出した資料のなかの「理想の燃焼に向けたロードマップ」を見ると、ステップ2のSKYACTIV-Xから理想の燃焼への改善ポイントは、「壁面熱伝達」と「燃焼時期」のふたつ。その壁面熱伝達をスーパーリーンバーンでクリアしようということなのだろう。
SKYACTIV-Z 4気筒エンジンは2.5L
現在のSKYACTIV-Xが思ったほど普及しない理由のひとつはコストだ。高応答エアサプライ(機械式スーパーチャージャー)、70MPaという超高圧噴射圧のインジェクター、EGR、各種センサー類などがコスト増を招く。次期SKYACTIV-Zは、「できるだけシンプルな構成にしたい」とのことだった。
排気量は2.5Lだという。
2.0LのSKYACTIV-XエンジンのEGR率が約35%だから、同じ過給レベルで同じ出力レベルなら2.5Lの排気量があれば、EGR率は52%まで上げられる計算だ。
SKYACTIV-Xの2.0Lから排気量をアップし、λ>2でも必要な出力を得るためだ。シリンダーに大量の空気を送り込むためのデバイスは、Xと同様に機械式スーパーチャージャーを使うのか、あるいは電動ターボチャージャーを使うのか。そのあたりはわからない。
2022年の本誌のインタビューでマツダの中井英二執行役員は、SKYACTIV-Xの「次」について、こう語っていた。
「これからはさらにリーンに燃やす。いまリーン燃焼をふたつやっている。ひとつは空気を大量に入れるλ>2の空気過剰の燃焼で、もうひとつは大量EGRを使う方法。結果的にはどちらもリーンになる。ものすごく燃料を薄くすることでどちらもNOxの排出量は下がるが、λ=1で燃やせば三元触媒を使えるところがガソリンICEは魅力だ」
マツダが内燃機関にこだわる理由のひとつは、CN(カーボン・ニュートラル)燃料の存在だ。CN燃料が実用化されればエンジンの未来は開ける。ただし、CN燃料の価格は、なかなか現在のガソリン並みになりそうもない。廣瀬氏は、「CN燃料がガソリンの2倍になるなら、燃費も2倍にすればいいんですよ」と言う。
SKYACTIV-Zが「究極の自動車用内燃機関」になるとマツダは考えているから「Z」の文字を使うのだろうが、これも廣瀬氏は「でも、SKYACTIV-Z1、Z2、Z3と続くかもしれませんよ」と笑った。当然、電動化への布石も怠っていないマツダだが、エンジン開発の手を緩めることはない、ということなのだろう。