スバル初のストロングハイブリッド、その強みは燃費だけではなかった! 【スバル・クロストレック試乗】

冬といえば雪、雪といえばスバル。日本のみならず、北米でも積雪地域におけるスバル車への信頼度はすごぶる高い。というわけで、今回、スバル・クロストレックのストロングハイブリッド車で走ったのは、積雪で全国1位の記録を誇る青森県の酸ヶ湯(すかゆ)。スノードライビングの印象を...と意気込んだものの、試乗当日は生憎(!?)の晴天で、路面に雪の姿はほぼなし。それでも、S:HEVの頼もしさは存分に味わうことができた。

「より静かに、快適に」を目指したこだわりの技術が随所に!

スバル・クロストレックに設定されたS:HEVグレードは、e-BOXER(ストロングハイブリッド)と呼ぶスバル初のストロングハイブリッドシステムを搭載する。マイルドハイブリッド(MHEV)のe-BOXERに追加する形で設定された。MHEV版のe-BOXERはエンジンをメインに走行し、モーターはアシスト役として機能するが、e-BOXER(ストロングハイブリッド)(まぎらわしいので、以下S:HEV)はモーターをメインに走行し、モーターの苦手領域をエンジンがカバーして走る。主従関係が逆だ。

今回の試乗の目的地となったのは、青森県の酸ヶ湯温泉。世界有数の豪雪地帯として知られる八甲田に位置する。
スバル・クロストレックのストロングハイブリッド搭載モデルは2024年12月5日に発売が開始された。価格は383万3500円から。
オールシーズンタイヤが標準装備だが、試乗車はスタッドレスタイヤ(ヨコハマ・アイスガード7)を装着。

その日最初に「START」ボタンを押した際、e-BOXERはエンジンが始動し、触媒を活性化するために触媒暖機モードに入る(エンジン回転高めでアイドルする)。バッテリー残量などにもよるが、S:HEVは基本的に、エンジンは始動しない。バッテリーに蓄えた電気エネルギーで駆動用モーターを働かせる。バッテリー残量やドライバーのトルク要求、あるいはヒーターの要求などで走行中にエンジンが始動すると、そのタイミングを狙って触媒を暖機する。

だからS:HEVの場合、毎朝の出勤で使うようなシーンでは隣近所の耳を気にすることなく、STARTボタンを押すことができる。ボリューム的に少々派手な触媒暖機モードを覚悟する必要はない。はずだ。冬の青森市でそのあたり確かめたかったのだが、クルマに乗り込む時点でエンジンはかかっており、充分暖まっていたので確認できなかった。次の機会で確かめたいと思う。

ストロングハイブリッドは2.5L水平対向エンジンと、88kWの駆動用モーター、発電用のモーター、フロントデフ、電子制御カップリングからなるトランスアクスルを組み合わせている。1.1kWhの駆動用バッテリーは荷室のフロア下に搭載。
出力/回生の状況がひと目でわかるパワーメーターも備わる。

いずれにしてもS:HEV、発進時は基本的にEV走行となる。青森市内のホテルから酸ヶ湯温泉に向かう途中、制限速度70km/hの高速道路を利用したが、高車速域でもEVモードで走る。バッテリー残量(総電力量は1.1kWhだ)が少なくなると自動的にエンジンは始動するが、意識をエネルギーモニターにでも振り向けていない限り、エンジンの存在を感じ取るのは難しい。ましてや助手席や後席の乗員がエンジンのオンオフの状態に気を取られることはないだろう。終始、静かで快適な移動空間という印象である。

暖房はエンジンの余熱を利用する。S:HEVの始動時はEV走行が基本なので、暖房の立ち上げを早くするためにPTCヒーター(500W)を空調制御ユニットに追加している。また、エンジン暖機後にエンジンが停止した場合(停車中またはEV走行中)はヒーター水回路に暖まったエンジン冷却水が循環するよう、暖房用ウォーターポンプを追加。暖房のためにエンジンが再始動するのを抑制している。快適なEV走行をできるだけ長引かせるためだ。

小さな電動ウォーターポンプとはいえ、エンジン停止中に稼動するのが基本だから、音や振動が気になりやすい。そこをスバルの開発陣は意識しており、神経質なまでに手を打った。その甲斐あり、走行中も停車中も、気になる音は皆無だ。

試乗車は最上級グレードの「Premium S:HEV EX」。渋滞時ハンズオフに対応するアイサイトX、12.3インチフル液晶メーターなどを標準装備する。
寒い季節にうれしいフロントシートヒーターはクロストレック全車に標準装備。
グレーの本革シート(写真)は「Premium S:HEV EX」にオプションで用意される。マイルドハイブリッド車の上級モデル「Limited」にもブラック/グレーの本革シートをオプションで用意。

音といえば、S:HEVのために開発した(駆動用と発電用の)2モーター・トランスアクスルも音に気を使って開発が行なわれた。2モーター・トランスアクスル自体はTH2Bと呼ぶ2代目で、TH2Aと呼ぶ初代は先代クロストレックPHEVに搭載されていた(国内未導入)。TH2Aは音の面でにぎやかだった反省から、TH2Bでは動力伝達の構造を一部変更している。その甲斐あり、シチュエーションを問わず気になる機械的なノイズは耳に入ってこない。空調系といいパワートレーン系といい(きっと他の領域もそうだろう)、音と振動(NV)に対しては徹底して排除に取り組んだ様子がうかがえる。

ストロングハイブリッド用のトランスアクスル、TH2B(のカットモデル)。

酸ヶ湯温泉に向けてはずっと上り勾配で、外気温計の数字はみるみる小さくなっていった。試乗時は(寒さ対策に加えパソコンやカメラなどで)重装備の成人男性3名が乗車していたが、まったくストレスを感じることなく、上り勾配を走ることができた。強い加速を試みるとエンジン回転は上昇するが、室内への音の透過はよく抑えられており、騒々しくは感じない。

青森市〜酸ヶ湯温泉間のドライブでは、純ガソリンエンジン車(1.8L水平対向4気筒ターボ+チェーン式CVT)のレヴォーグ・レイバックにも乗る機会があった。そこまで大きな違いと言うつもりはないが、アクセルの踏み込みに対する応答はモーターが主役のクロストレックS:HEVのほうが明らかにいい。アクセルを踏んでいるのに加速が感じられず「ん?」となる瞬間がない(レイバックにストレスを感じたわけでもない、と言い添えておく)。

前後輪をプロペラシャフトでつないだ機械式4WDは、大トルクを後輪へ伝達できるメリットがある。また、前後輪の回転バランスが崩れにくく、積雪路面のようなコンディションでも安定して走りやすい。

感心したのは乗り味だ。クロストレックに限らずスバルのクルマに総じて共通する特徴だが、感激するほど乗り心地がいい。段差やうねりに合わせて上下に動くのは感じる。その際の収まりがいい。実にしなやかだ。強い衝撃は感じないし、逆にヤワでもない。上下の動きはとりわけ心地いい。

ストロングハイブリッド車のWLTCモード燃費は18.9km/L。マイルドハイブリッド車(4WDモデル)の15.8km/Lと比べると、燃費は約20%向上している。そうした低燃費性能に加えて、優れた静粛性など走りの質感の高さもストロングハイブリッドの特徴だ。

といって左右の動きやロール、ピッチに難があるわけではなく、素直だし、意のままである。全長4480mmの大きすぎない車両サイズは除雪した雪で幅が狭くなっている道では有効で、扱いやすさにつながっている。今回の試乗では気になる燃費をきちんと確認できていないこともあるが、クロストレックのS:HEV、もっと乗っていたいと感じさせる新顔だ。

SUBARU クロストレック Premium S:HEV EX
全長×全幅×全高:4480mm×1800mm×1575mm
ホイールベース:2670mm
車重:1660kg
サスペンション:Fストラット式/Rダブルウィッシュボーン式
駆動方式:4WD
エンジン
形式:水平対向4気筒DOHC+モーター
型式:FB25
排気量:2498cc
ボア×ストローク:94.0mm×90.0mm
圧縮比:11.9
最高出力:160ps(118kW)/5600pm
最大トルク:209Nm/4000-4400rpm
燃料供給:DI
燃料:レギュラー
燃料タンク:63L
駆動用モーター:MC2型交流同期モーター
最高出力:88kW(119.6ps)
最大トルク:270Nm
駆動用バッテリー:リチウムイオン電池
 容量1.1kWh
トランスミッション:リニアトロニック
燃費:WLTCモード 18.9km/L
市街地モード15.4km/L
郊外モード20.6km/L
高速道路モード19.7km/L
車両本体価格:405万3500円(ルーフレール装着車388万8500円)
道路の脇にそびえる雪の壁を見れば、酸ヶ湯の降雪量の凄さが窺い知れる。
スバル・クロストレックPremium S:HEV EXの後ろ姿。
試乗ルートのほとんどは、ご覧のとおり、しっかりと除雪済み。試乗の大半はアスファルト路面でのドライブとなった。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…