水陸両用車「AAV7」を操縦するのは「元戦車乗り」!? 陸地と水上で何が違う?

陸上自衛隊が2018年より正式に導入した水陸両用車「AAV7」。陸上自衛隊では過去にない種類の車両だが、乗員は機甲科隊員、つまり戦車隊員が充てられた。履帯式車両であることは変わらないが、能力や運用など違いに戸惑うこともあるようだ(写真/筆者)
島嶼防衛で大きな役割を担う、水陸両用車「AAV7」。先週に引き続き、AAV7を装備する「水陸機動団 戦闘上陸大隊」を取材した。2回目の今回は大隊長 佐藤誠一郎2等陸佐にAAV7の操縦や運用について伺った。【自衛隊新戦力図鑑】
TEXT:綾部剛之(AYABE Takayuki)

戦車とは違う、AAV7の運用

――佐藤大隊長に伺います。戦闘上陸大隊は機甲科部隊であり、AAV7の乗員の皆さんは、もともと戦車乗りだったとのことですが、水陸両用車を運用するにあたって、戦車との違いを感じるところはありますか?
佐藤誠一郎 2佐(以下敬称略):戦車は「火力・防護力・機動力」の3要素を特徴とする車両ですが、AAVは火力に劣るところがあり、一方で「輸送力」という新たな要素が加わるという点が、大きな違いだと考えています。
乗員構成にも大きな変化がありました。戦車は車長・砲手・操縦手の3名で運用し、車長は指揮に専念できるのですが、AAVでは車長席に搭載火器があるため、車長は指揮をしながら火器を操作しなくてはいけません。これまで戦車を指揮していた車長は戸惑っているようです。また、後部に普通科隊員を乗せるため、これら隊員を掌握し、人数の確認や携行銃器の安全管理を行なうリアクルーは、これまで機甲科になかった役職です。

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戦闘上陸大隊長 佐藤誠一郎 2等陸佐。機甲科隊員として、水陸両用車を扱うことについて、お話を伺った。

――火力が劣るとのことですが、運用や戦闘にあたってどのような問題があるでしょうか?
佐藤:AAVは最大でも40mm擲弾しか持たないため、対機甲戦闘ができません。ともに戦う水陸機動連隊(普通科部隊)も、対機甲火力は乏しいため、敵が装甲車両を持っている場合、火力に不安があると感じています。

日米共同訓練でカリフォルニアの海岸に上陸した戦闘上陸大隊のAAV7。武装は銃塔に固定された12.7mm機関銃と40mm擲弾銃であり、相手にできるのは人員か非装甲の車両に限られる。機甲科隊員としては、心許ないようだ(写真/アメリカ海兵隊)

――現在、防衛装備庁の主導で国産の新型水陸両用車が開発中ですが、仮に火力を強化するなら、どの程度が欲しいと考えていますか?
佐藤:機甲科隊員としては105mmが欲しいとは思うのですが、やはり洋上航行や人員輸送といった用途を考えれば技術的な限界もあると思います。それを考えるとRCV(87式偵察警戒車)やFV(89式装甲戦闘車)に搭載されているような、25~30mmの機関砲でしょうか。この口径なら徹甲弾も撃てますから、戦車は難しいとしても、ある程度の装甲目標にも効果を発揮できます。

海上を進む戦闘上陸大隊のAAV7。ウォータージェット推進により航行するが、最大でも13km/hと決して高速とは言えない(写真/アメリカ海軍)

――火力以外の点で、国産水陸両用車に期待することはありますか?
佐藤:海上機動の高速性と安定性です。AAVの水上速度は時速13km/hで速いとは言えず、また、荒波のなかでは木の葉のように揺れてしまい、乗車している隊員たちが船酔いになりやすいのです。我々としても、できるだけ短時間に上陸できるよう計画を立てますが、海上自衛隊側としては艦艇を陸に近づけたくないというジレンマがあります。短時間で、なおかつ安定した航行で上陸できることが望ましいですね。

――ありがとうございました。

防衛装備庁が開発中の国産水陸両用車のイメージCG。水上高速性など、既存の水陸両用車両を大きく上回る能力を持ち、また無人運用能力も備えるようだ(イラスト/防衛装備庁資料より)

崎辺は南西諸島防衛に向けた一大防衛拠点となる

さて、戦闘上陸大隊の拠点である崎辺分屯地周辺は現在、大型艦も停泊可能な岸壁を整備する工事が進められている。これは、海上自衛隊 佐世保基地の艦艇収容能力の不足を補うことが第一の目的ではあるが、戦闘上陸大隊にも大きなメリットがある。これまで、乗船のたびに離れた岸壁まで大型トレーラーでAAV7をピストン輸送する必要があり、隊員の負担も大きかったが、隣接する大型岸壁の整備により、有事の即応性が一気に向上する。

2021年、アメリカ海軍の補助施設として用いられていた崎辺半島突端の地区(12.9ヘクタール)が日本に返還された。防衛省は崎辺分屯地とも隣接するこの土地に岸壁や弾薬整備場などを建設する(画像/佐世保市資料より)

また、海上自衛隊では水上艦艇部隊の再編成が予定されており、佐世保には「水陸両用戦機雷戦群(仮称)」が置かれる見込みだ。文字通り水陸両用戦を主体とする部隊であり、佐世保を本拠地とする水陸機動団とガッチリ連携して戦うことになる。今後、崎辺地区は陸上自衛隊と海上自衛隊が同居することとなり、水陸両用作戦の一大拠点となっていくことが期待されている。

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著者プロフィール

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綾部 剛之

軍事関連をメインとした雑誌/書籍の編集者。専門は銃器や地上兵器。『自衛隊新戦力図鑑』編集長を務めて…