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戦車とは違う、AAV7の運用
――佐藤大隊長に伺います。戦闘上陸大隊は機甲科部隊であり、AAV7の乗員の皆さんは、もともと戦車乗りだったとのことですが、水陸両用車を運用するにあたって、戦車との違いを感じるところはありますか?
佐藤誠一郎 2佐(以下敬称略):戦車は「火力・防護力・機動力」の3要素を特徴とする車両ですが、AAVは火力に劣るところがあり、一方で「輸送力」という新たな要素が加わるという点が、大きな違いだと考えています。
乗員構成にも大きな変化がありました。戦車は車長・砲手・操縦手の3名で運用し、車長は指揮に専念できるのですが、AAVでは車長席に搭載火器があるため、車長は指揮をしながら火器を操作しなくてはいけません。これまで戦車を指揮していた車長は戸惑っているようです。また、後部に普通科隊員を乗せるため、これら隊員を掌握し、人数の確認や携行銃器の安全管理を行なうリアクルーは、これまで機甲科になかった役職です。

――火力が劣るとのことですが、運用や戦闘にあたってどのような問題があるでしょうか?
佐藤:AAVは最大でも40mm擲弾しか持たないため、対機甲戦闘ができません。ともに戦う水陸機動連隊(普通科部隊)も、対機甲火力は乏しいため、敵が装甲車両を持っている場合、火力に不安があると感じています。

――現在、防衛装備庁の主導で国産の新型水陸両用車が開発中ですが、仮に火力を強化するなら、どの程度が欲しいと考えていますか?
佐藤:機甲科隊員としては105mmが欲しいとは思うのですが、やはり洋上航行や人員輸送といった用途を考えれば技術的な限界もあると思います。それを考えるとRCV(87式偵察警戒車)やFV(89式装甲戦闘車)に搭載されているような、25~30mmの機関砲でしょうか。この口径なら徹甲弾も撃てますから、戦車は難しいとしても、ある程度の装甲目標にも効果を発揮できます。

――火力以外の点で、国産水陸両用車に期待することはありますか?
佐藤:海上機動の高速性と安定性です。AAVの水上速度は時速13km/hで速いとは言えず、また、荒波のなかでは木の葉のように揺れてしまい、乗車している隊員たちが船酔いになりやすいのです。我々としても、できるだけ短時間に上陸できるよう計画を立てますが、海上自衛隊側としては艦艇を陸に近づけたくないというジレンマがあります。短時間で、なおかつ安定した航行で上陸できることが望ましいですね。
――ありがとうございました。

崎辺は南西諸島防衛に向けた一大防衛拠点となる
さて、戦闘上陸大隊の拠点である崎辺分屯地周辺は現在、大型艦も停泊可能な岸壁を整備する工事が進められている。これは、海上自衛隊 佐世保基地の艦艇収容能力の不足を補うことが第一の目的ではあるが、戦闘上陸大隊にも大きなメリットがある。これまで、乗船のたびに離れた岸壁まで大型トレーラーでAAV7をピストン輸送する必要があり、隊員の負担も大きかったが、隣接する大型岸壁の整備により、有事の即応性が一気に向上する。

また、海上自衛隊では水上艦艇部隊の再編成が予定されており、佐世保には「水陸両用戦機雷戦群(仮称)」が置かれる見込みだ。文字通り水陸両用戦を主体とする部隊であり、佐世保を本拠地とする水陸機動団とガッチリ連携して戦うことになる。今後、崎辺地区は陸上自衛隊と海上自衛隊が同居することとなり、水陸両用作戦の一大拠点となっていくことが期待されている。