初公開! 陸上&海上自衛隊統合運用の新造輸送艦「にほんばれ」は、まるで民間商船みたい!?

輸送艦「にほんばれ」の前に整列した海上輸送群の隊員たち。群司令を筆頭に、その大半は陸上自衛官で占められ、事実上「陸上自衛隊の輸送艦部隊」でもある(写真/筆者)
4月6日、海上自衛隊の一大拠点たる呉基地(広島県)で陸・海自衛隊の共同部隊「自衛隊海上輸送群」の編成式典が行なわれた。南西諸島の防衛のため、離島への物資輸送を担う輸送艦部隊であり、式典にあわせて新造輸送艦「にほんばれ」の艦内が初めて公開された。【自衛隊新戦力図鑑】
TEXT:綾部剛之(AYABE Takayuki)

輸送艦「にほんばれ」引き渡し式

中谷防衛大臣より、初代群司令となる馬場公世1等陸佐に隊旗が授与される。それを見つめるのは海上輸送群に所属する陸・海の隊員たちだ。輸送艦部隊でありながら、現在の人員124名の大半は陸の隊員で占められ、群司令である馬場1佐も陸上自衛官だ。陸・海・空の枠を超えた部隊編成や連携を、専門的に「統合(Joint)」と言い、現代戦には不可欠の要素となっているが、まさに海上輸送群は陸・海の「統合部隊」であり、中谷大臣からも「(陸・海の隊員が)力をあわせて海上輸送」にあたる海上輸送群は「新しい時代の統合運用の“さきがけ”」であるとの激励の言葉があった。

中谷元防衛大臣から群司令 馬場公世1等陸佐に隊旗が授与される(写真/筆者)
この日の式典では、陸・海混成の音楽隊による演奏が行なわれた(黒っぽい制帽が陸自、白い制帽が海自)。このような組み合わせでの演奏を、筆者は初めて見た。まさに陸・海統合部隊を象徴する演奏だ(写真/筆者)

この日、編成式典(編成完結式)とあわせて「にほんばれ」の引き渡し式(造船会社から防衛省・自衛隊への引き渡し)も行なわれた。艦首にランプウェイ(渡し板)を持ち、海岸に直接乗り上げて車両や物資を陸揚げする「ビーチング」能力を持った艦であり、大きな港湾施設のない離島にも、物資を輸送することができることが最大の特徴だ。

編成完結式とあわせて輸送艦「にほんばれ」の引き渡し式も行なわれた。まもなく輸送艦「ようこう」も引き渡される予定であり、海上輸送群は輸送艦2隻体制でスタートする。艦首が大きく観音開きになり、そこからランプウェイが伸びて車両や物資を陸揚げする(写真/筆者)

艦内は、まるでフェリーみたい?

編成完結式に続いて、「にほんばれ」の艦内が公開された。艦の大部分を占めているのが車両・物資を積み込むためのスペースであり、車両なら十数両、20フィート・コンテナは十数個を積載できるという。この部分は“大きな箱”のような構造であり、艦首側にビーチングのためのドアとランプウェイを持つ。また、海が荒れている場合は大波により海水が入ってきてしまうため、両側に排水用の開口部が設けられている。

艦の大部分を占める物資の積載スペース(艦中央から前方に向けて撮影)。正面の門のような部分が開いて、車両や物資を陸揚げする(写真/筆者)
艦尾側。離岸のための大きな錨が艦尾に繋がれている。クレーンは主に艦の食料等の比較的軽量な荷物を積み込むためのもの(写真/筆者)

また、艦尾側には大きな錨が設置されている。この錨はビーチングする際、事前に海中に投下・固定しておき、離岸するとき錨鎖(チェーン)を巻き上げることで船体を海側に引き戻す役割を持つ。これがなければ、艦は海岸に乗り上げたままニッチもサッチもいかなくなってしまうのだ。続いて、艦内を案内してもらったが、一般的な商船と同様のつくりになっており、護衛艦的な内装との違いに驚かされた。本艦はあくまで非武装の輸送用船舶なのである。

艦内の廊下と階段。まるで民間商船だ。「にほんばれ」の武装と呼べるものは、艦首の両側に設置された機銃座のみのようだ(写真/筆者)

現時点で海上輸送群の所属輸送艦は「にほんばれ」(基準排水量2400トン)と「ようこう」(同3500トン)の2隻のみだが、2028年までに合計10隻体制を目指している。これまで海上自衛隊が輸送艦「おおすみ」型(同8900トン)を3隻持つだけだったことを考えると、自衛隊の海上輸送力は飛躍的に増強されると言えるだろう。

キーワードで検索する

著者プロフィール

綾部 剛之 近影

綾部 剛之

軍事関連をメインとした雑誌/書籍の編集者。専門は銃器や地上兵器。『自衛隊新戦力図鑑』編集長を務めて…