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「2040年までにEV・FCEV販売比率100%」の目標は維持しつつ、四輪電動化戦略を軌道修正

2021年の就任以来、三部敏宏社長は、ホンダが掲げる「人々に自由な移動の喜びをサステナブルに提供し続ける」というビジョンのもと、「環境」と「安全」を最重要課題として取り組んできた。特にカーボンニュートラルと交通事故死者ゼロの実現を2050年の目標に据え、その実現に向けてEVの推進や次世代ADAS(先進運転支援システム)の開発を進めている。

ただし、昨今のEV市場は、アメリカやヨーロッパにおける環境規制の緩和や充電インフラの課題などにより想定ほどの伸びを見せておらず、ホンダも2021年に発表した「2040年にEV・FCEV販売比率100%」という目標に向けた中間戦略を見直す必要に迫られることとなった。特に2030年時点のEV販売比率は当初の30%を下回る見通しだ。その一方で、 充電インフラの課題がないハイブリッド車の需要は拡大すると予想される。こうした未来予想の変化に伴い、EVへの投資やバリューチェーン構築のスケジュールが修正することとなったというわけだ。
ホンダの四輪事業戦略の軌道修正の方向性は、「知能化を軸とするEVおよびハイブリッド車の競争力強化」と「パワートレーンポートフォリオの見直しによる事業基盤の強化」の2点である。

高速道路から一般道まで全行程を支援する次世代ADASを2027年に導入
知能化の中核となるのは、2027年の導入を目指す次世代ADASだ。目的地までの全行程を支援可能とする機能を独自開発し、北米・日本・中国の主要EV/ハイブリッド車に幅広く展開する。加えて、電力確保やSoCの冷却といった課題があって現在はハイエンドモデルのみに搭載が限られる次世代ADASだが、高効率なエネルギーマネジメントを実現するハイブリッドシステムとホンダ独自のMM(マンマキシマム・メカミニマム)思想を活かして小型車にも搭載できる設計とする。
2027年以降の4年間で13モデルのハイブリッド車をグローバルで展開
ハイブリッド車については、次世代e:HEVやプラットフォームの進化により、10%以上の燃費向上を目指すとともに、走りの質感向上も図る。コスト面でも2023年モデル比で30%以上の低減を目指し、今後の中核商品群として位置づけている。特に北米市場では環境性能と走行性能を両立する大型HVモデルの投入も計画しており、2027年以降の4年間で13モデルのハイブリッド車をグローバルで展開する。2030年の四輪販売台数は現状規模の360万台以上を目指すが、ハイブリッド車は220万台で現状2倍以上となり、販売の中核を占める見込みだ。
EV戦略については、2026年に「Honda 0」シリーズの第一弾モデルを投入する。ASIMO OSの搭載などにより「超・個人最適化」されたSDV(ソフトウェア定義型車両)としての価値を提供するという。また、さらなる次世代モデルでは業界トップクラスの高度なAI演算能力を持つSoCをルネサスと共同開発し、SDVの価値向上を図る。
こうした四輪戦略を支えるのが、EVとハイブリッドを柔軟に生産可能な混流ラインの構築や、地産地消を基本とするレジリエントなサプライチェーンである。とくに米国では国内生産比率・現地調達比率ともに高く、需要や政策の変化に柔軟に対応できる体制を整えているが、今後も地産地消の考え方をベースに不測の変化にも強いサプライチェーンを強化していく。
2028年にインドで電動車専用工場を稼働。電動二輪車市場でもトップシェアを目指す
一方、二輪事業は引き続き堅調で、2025年3月期の販売台数は2057万台、世界シェアは約40%に達し、37の国と地域で過去最高を記録した。今後もインドなどグローバルサウスを中心に市場拡大が見込まれており、電動化とICE(内燃機関)両輪による商品展開を進める。特に2028年にはインドに電動車専用工場を稼働させる予定で、電動二輪車市場でもトップシェアを目指すとしている。
電動化戦略の実現に向けた10兆円の投入資源額は3兆円減額
収益面では、EV投資の一部後倒しによって電動化に向けた資源投入額を当初の10兆円から7兆円へと見直し、ハイブリッド車への投資は必要最小限に増額。2027年以降5年間で12兆円以上のキャッシュ創出を目指し、株主還元も1.6兆円以上を維持する方針だ。

新しいHマークを2027年以降はEVだけでなく次世代ハイブリッド車にも採用
また、三部社長は、「パワートレーンの選択にとらわれず、ホンダらしい新価値を提供していく」ことを強調し、その象徴として2027年以降に投入する次世代モデルのEVおよびハイブリッド車に、新たなHマークを採用すると発表した。
