新型トヨタ・ノア/ヴォクシー開発責任者インタビュー:「『必ずいいクルマにする』」と、お客様のニーズ一つひとつの解決策を必死に考え実現しました」

「必ずいいクルマにする!」新型トヨタ・ノア/ヴォクシー の開発責任者が語る「なぜここまでできたのか」

新型トヨタ・ノア(左)、ヴォクシー(右)とトヨタ車体の水間英紀チーフエンジニア
新型トヨタ・ノア(左)、ヴォクシー(右)とトヨタ車体の水間英紀チーフエンジニア
1月13日に発売された新型トヨタ・ノア/ヴォクシー。先々代の二代目より開発の指揮を続けており、現在はトヨタ車体の取締役・執行役員 開発本部本部長としての重責も担う、水澗英紀チーフエンジニアに、さまざまな新機軸が盛り込まれた経緯について聞いた。

REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
PHOTO●遠藤正賢、トヨタ自動車

新型ノア/ヴォクシーはトヨタ車体の社運がかかったプロジェクト

MF 今回の新型ノア/ヴォクシーはとても力が入っているように感じられて驚きました。ノア/ヴォクシーの開発は、毎回気合いが入っているものなのでしょうか?
水澗さん 私は二代目と三代目、そして今回の四代目を担当していますが、毎回力は入れています。ですが、今までとひとつ違うのは、トヨタ車体が事業責任者になり、開発費を出しているんですね。そして、パワーユニットや先進安全装備はトヨタ自動車に開発を委託しているという形を採っています。ということは、トヨタ車体の社運をかけて、必ず成功させるという執念が大きいんです。
ですから通常は、我々製品企画のメンバーが企画書を作って、デザイナーがデザインを作って、これを実現させようという形で開発は進んでいきますが、トヨタ車体の設計者一人ひとりが「必ずいいクルマにする」と自分たちで考えて、アイデアを出して、提案してくれた部分が非常に大きいです。

新型ノア/ヴォクシーにはACCに加え、自動車専用道路を0~40km/hで走行中に一定の条件を満たすと加減速・操舵を自動で行う「アドバンストドライブ(渋滞時支援)」も設定された
新型ノア/ヴォクシーにはACCに加え、自動車専用道路を0~40km/hで走行中に一定の条件を満たすと加減速・操舵を自動で行なう「アドバンストドライブ(渋滞時支援)」も設定された

また今回は、先進安全装備が数多く採用されていますが、先代ではよくお客様に「ACC(アダプティブクルーズコントロール)はなんでないの?」と言われてきた分、次はその我慢していただいたお客様に対して、しっかり期待を超えるものを提供したいと思っていました。
そのように、最新のものを提供したいという風に考えるなかで……先進装備はトヨタ自動車のものですが、そのトヨタ自動車のエンジニアが、トヨタ車体の依頼に対してネガティブなことをまったく言わずに、逆に「身近なクルマだからこそ、数が出るクルマだからこそ、自分たちの開発した技術を広められる、自分もその成果を直に感じられる。これがやっぱりエンジニアとして非常にやりがいを感じる」という風に捉えていただきました。

トヨタ車体の水間英紀チーフエンジニア
トヨタ車体の水澗英紀チーフエンジニア

MF 水間さんご自身は、先代の時はトヨタ自動車の人で、今回はトヨタ車体の人になっていらっしゃるんですか?
水澗さん はい、2018年に転籍していますので、完全に今は本籍がトヨタ車体です。ただ、チーフエンジニアとしては、トヨタ自動車にも指示を出さなければならないものですから、トヨタ自動車を兼務はしています。

MF では、トヨタ自動車側が本気になってくれたのは、水間さんがトヨタ自動車に「やれよ!」と言えたから……?
水澗さん そんなことはありませんけれど(笑)、やっぱりノア/ヴォクシーは身近なクルマであり、販売台数的にも非常に健闘している車種ということで、その重要性を……いま世の中はグローバルなクルマばかりで、日本専売車種は少ないですが、そのなかで自分の周りにもに乗ってる人が大勢いる身近なクルマであり、知名度もあって台数も出ているので、協力を得やすいですよね。

フリーストップバックドアとからくり式ステップ

全車に標準装備される「フリーストップバックドア」
全車に標準装備される「フリーストップバックドア」

MF ミニバンではトヨタさんがいて、日産さんのセレナやホンダさんのステップワゴンといった強力なライバルがいるなかで、開発はどう進んでいくものなのでしょうか? やりたいことがたくさんある一方、ライバルに対抗するためのネガ潰しのようなこともしなければならないと思いますが……。
水澗さん ライバルがしたから自分たちもしなければならない思うことはゼロではありませんが、ライバルを確かめて勉強させてもらってうえで「次にやろう」といったことはありますね。例えばバックドアの中間停止機構です。このクラスの全長は4.7mですよね、基本的に5ナンバーサイズですから。それが、バックドアを開けると約5.7mになるんですね。日本の駐車場の多くは5.4m以下で作られているので、そうすると全開できません。ですので、バックドアの使い勝手を向上させるために、セレナさんはガラスハッチにし、ステップワゴンさんは「わくわくゲート」を作りました。
そのなかで先代ノア/ヴォクシーのバックドアは使いにくいという声をいただいていたので、「ではどうするのがいいのか?」と考えた時、少ししか開けられなかったら何も使えませんので、5.4mぐらいの範囲で使える方法は何かを考えると、「もうちょっとあれば開くのに」という所まで行くんですよ。
で、「どこでも止められるのがきっと一番いいよね」と。「じゃあどうやって止めるか」ということになり、僕からリクエストを出したのは、「どこでも止められるような機構を作ってほしい」と。

MF それを、パワーテールゲートでなくともできるように……。
水澗さん はい、その結果できたのが「フリーストップバックドア」です。

からくり式の「ユニバーサルステップ」。この機構の設定に伴い、2列目のフロア高は先代より20mmアップの380mmに高められている
からくり式の「ユニバーサルステップ」。この機構の設定に伴い、2列目のフロア高は先代より20mmアップの380mmに高められている

MF からくり式のステップも同様に?
水澗さん はい。先代は、とにかく乗降性を良くするために、フロアを限界まで下げたんですね。もう1mmでも下げようと。ですが、どこまで下げても高齢者の方は乗り降りしにくくて、踏み台を積んでいる方とかもいらっしゃるんですね。そうなるとやはり補助ステップがあるべきだろうと。しかし、どこのメーカーでも補助ステップは、後付けすると20万円以上します。これを画期的に安くしたいと考えました。
ですから、「シンプルな構造で画期的に、お客様に提供しやすいステップを作ってくれ」とお願いしました。その結果できたのがあの「ユニバーサルステップ」です。お客様のニーズに対し、何としても実現させようと、トヨタ車体の設計者が必死に考案しました。
ああいうものは、一品ものはできても、量産に耐えうるものを作るのはじつは難しいんですね。信頼性や搭載性=サイズ 原価、質量……全部成立させないといけないんです。思いつきでは、とてもあの完成度までたどり着かないんです。
バックドアも、強度を支える部分が板厚5mmぐらいのものすごいギヤで受け持っていながら、壊れることがないように、いろんな機構を中に入れ込んで、それを常識的な範囲のサイズと原価に収めるのに、本当に苦労してくれました。

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著者プロフィール

遠藤正賢 近影

遠藤正賢

1977年生まれ。神奈川県横浜市出身。2001年早稲田大学商学部卒業後、自動車ディーラー営業、国産新車誌編…