スバルのこだわり! FWDとAWDで異なる最高出力のモーターを使い分ける【スバル・ソルテラ(パワーユニット解説)】

スバル・ソルテラ
スバル・ソルテラが搭載するe-アクスル。
FWDとAWD、2種類の駆動方式を用意するスバル・ソルテラ。ユニークなのは、駆動方式によってモーターの最高出力を使い分けていること。そこには走りに対するスバルらしいこだわりが込められていた。

TEXT●安藤 眞(ANDO Makoto)

バッテリー容量は71.4kW 航続距離は460km(FWD)〜500km(AWD)

 スバル・ソルテラのプロトタイプ実車レポート第4回目は、パワーユニット編をお届けしよう。

スバル・ソルテラ
FWDとAWD、2種類の駆動方式がソルテラには用意されている。

 モーターはFWD仕様とAWD仕様では異なっており、FWD仕様のアウトプットは150kW/265Nm、AWD仕様は同じスペックのモーターを前後に置き、システム出力160kW/337Nmを発揮する。片側あたり80kW/168.5Nmというスペックだ。

トヨタbZ4X
FWD仕様の場合、フロントモーターの最高出力は150kW。AWD仕様の場合は、フロント&リヤモーターともに最高出力は80kWとなる。システム最高出力はFWD仕様が150kW、AWD仕様が160kW。※写真はトヨタbZ4X

 FWD仕様のリヤに80kWモーターを追加してもAWDにできるはずで、そうすれば80kW仕様のフロント用e-アクスルユニットは作らずに済んだのでは? と突っ込めば、「滑りやすい路面で緻密なトルク制御を行う際、150kWと80kWに同じ制御分解能を適用したら150kW側が粗くなるし、重く高コストになるから」とのこと。このあたりはスバルのこだわりが反映された部分だろうか。

スバル・ソルテラ
モーター、トランスアクスル、インバーターを一体化したe-アクスルを採用する。

 スバルのこだわりと言えば、どちらのe-アクスルもディファレンシャルギヤが車両の中心軸上になるよう搭載されており、ドライブシャフトは左右等長になっている。いわゆる「シンメトリカル」なレイアウトで、スバルが絶対条件として提案したものだそうだ。

 モーターの設計はトヨタの主導。ローター&ステーターはトヨタの量産車から流用したのかと思ったら、出力/トルク値の近いものが見当たらないので、新開発されたものと思われる。

 走行用バッテリーには、リチウムイオン電池を採用。サプライヤーはトヨタとパナソニックが合弁して設立したPPES(プライム プラネット エナジー&ソリューションズ)だ。

 総電力量はグロスで71.4kWhなので、実力値は66〜67kWhといったところ。フル充電あたりの走行可能距離は、FWDが530km、AWDが460km程度になる見込みだ。67kWh使うとして電費を計算すると、前者は7.9km/kWh、後者は6.9kWhとなかなか優秀(実力はカタログ値の80%以上が目標)。

トヨタbZ4X
71.4kWhのリチウムイオン電池を床下に搭載する。※写真はトヨタbZ4X

 航続距離が460kmでは、SUVとしては物足りないと思う人もいるかも知れないが、充電のことを考えると、71.4kWhという電池容量は“絶妙の設定”と言える。ソルテラはチャデモ充電器の最大値である150kW出力に対応しているが、ここから30分で得られるのは75kWh分。効率を90%として計算すると、67.5kWh分しか充電できない。しかも“30分ルール”があるから、実際に充電に使える時間を25分とすれば、56.25kWhになる。さらに急速充電では電池容量の80%までしか充電できないから、受け入れ可能なのは71.4×0.8=57.12kWh。こんな大雑把な計算でも、充電器出力と受け入れ可能な量はほとんど一致する。

 さらに言うと、現状で高電圧受電設備を設けずに設置できる普通充電器の出力が最大6kWだから、12時間の充電で72kWh。たとえば出かけた先の宿泊施設に6kW充電器があれば、到着時に電気を使い切っても、翌朝までには満充電になっている計算。非常に合理的なバッテリー容量設定ではないか。

 そのバッテリーは、板金製のケースに収められている。温度管理システムは水冷式で、冷却水通路はバッテリーケースの外部(下)に設定。想定以上の衝突時に、万が一水冷系が破壊されても、冷却水がケース内に漏れ出さないようにするためだ。さらに冷却水自体も、電気抵抗の高いクーラントを専用開発しており、万一ケース内に冷却水が浸入しても、ショートしないよう配慮されている。

トヨタbZ4X
床下に搭載されるバッテリーはパックの内側と外側に補強材を設定。路面干渉時や衝突時にバッテリーを保護する。

 冷却水通路はバッテリーケース外に剥き出しになるため、床下一面をアルミ合金のシェアパネルでカバー。路面干渉による損傷を防いでいるほか、床下のフラット化による空力性能の向上も期待できそうだ。

 リチウムイオン電池の最高許容温度は一般に45度とされており、地域によっては外気温の方が高くなり、冷やせなくなる可能性もある。そこでバッテリー系の冷却水は直接空冷するのではなく、エアコンの冷媒を使用して、チラーと呼ばれる熱交換システムを介して冷やされる。こうすれば酷暑時だけでなく、走行風の利用できない急速充電中でも、安定してバッテリーが冷却できる。

 逆に極寒時の充電中はバッテリーを温める必要があるため、エアコンをヒートポンプとして稼働させる。氷点下では外気温から熱を得られないため、エアコンのコンデンサーを介して高温冷却系が接続されており、電気ヒーターによって温められた冷却水から熱を汲み上げる。電池セルが−20度まで冷え切ってしまっても、0度弱まで昇温できるため、充電時間を30%程度、短縮できるのだ。

スバル・ソルテラ
ソルテラはステアリングヒーターと前後席シートヒーターを装備。気温は低いときは空調を使うよりも、人体を直接暖めるステアリング&シートヒーターを使用した方が節電になる。
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スバル・ソルテラ(FWD車) 諸元表 ※[ ]内はAWD車

■ボディサイズ
全長×全幅×全高:4690×1860×1650mm
ホイールベース:2850mm
室内長×室内幅×室内高:1940×1515×1160(ノーマル/ソーラールーフ仕様)/1145(ガラスルーフ仕様)mm
車両重量:1930kg〜[2020kg〜]
乗車定員:5名
最小回転半径:5.7m
最低地上高:210mm

■パワートレーン
モーター種類:交流同期電動機
モーター定格出力:フロント150kW
モーター最高出力:フロント150kW[フロント80kW/リヤ80kW]
モーター最高出力(システム):150kW[160kW]
総電力量:71.4kWh
総電圧:355V
一充電走行距離(WLTCモード):530km前後[460km前後]
AC充電器最大出力:6.6kW
DC充電器最大出力:最大150kW

■シャシー系
サスペンション形式:Fマクファーソンストラット・Rダブルウイッシュボーン
ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク・Rベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:235/60R18[235/60R18または235/50R20]
ステアリング:ラック平行式電動パワーステアリング
※日本仕様、社内測定値

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著者プロフィール

安藤 眞 近影

安藤 眞

大学卒業後、国産自動車メーカーのシャシー設計部門に勤務。英国スポーツカーメーカーとの共同プロジェク…