期待のミッドサイズSUV CX-60 直6ディーゼルとPHEVではキャラクターが大きく異なる

マツダCX-60 ラージアーキテクチャーの直6ディーゼルと2.5ℓ+PHEVをパワートレーン視点で試乗

マツダCX-60 PHEVモデル(e-SKYACTIV PHEV)のプロトタイプ
ラージアーキテクチャーの第一弾がCX-60だ。プラットフォームもエンジンもトランスミッションも電動化デバイスも、なにもかも新たに開発したCX-60。そのプロトタイプをマツダ美祢自動車試験場で試乗した。マツダの意図を読み取りながら、まずはパワートレーンをじっくり味わってみよう。
TEXT:世良耕太(SERA Kota)

あえてカモフラージュ柄にした意図

美祢試験場に用意されていたマツダCX-60には、厳重なカモフラージュが施されていた。エクステリアだけでなく、インテリアも、である。当時すでにヨーロッパでは「新型クロスオーバーSUV」のCX-60が発表されて数週間が経っていた。当然、エクステリアもインテリアも公開されていたし、当地のメディアが動画で詳細な映像を配信していた。見られて困ることはそんなにない、はずである。

e-SKYACTIV-D 3.3ℓ直6ディーゼルと48V MHEVの組み合わせ
PHEVモデルの内装。プロトタイプなので、内装もまだ試作段階だ。

しかし、カモフラージュである。マツダの狙いは参加者の意識をエクステリアやインテリアに向けさせないためだったのだろう。目に入ってしまえば気になり、あれやこれや質問したくなってしまうからだ。平凡で見るべきものがなければ隠さなくてもよかっただろうが、そうはいかないことをマツダは自覚していたのだ。「デザインについてはまた今度」と、マツダのある人物はそっと耳打ちしてくれた。

4月7日の国内発表を控えて行なわれた『MAZDA ラージ商品群技術フォーラム』の主題は、「パワートレーン」と「プラットフォーム」だった。それだけでも、脳がいっぱいになるには充分な情報を浴びることができた。正直、全身カモフラージュでよかったと思う。そうでなかったら筆者の小さな脳みそはパンクしていたに違いない。今回はパワートレーンに焦点を絞って印象をお届けしていこう。

マツダのビルディングブロック構想。LARGE群の技術要素がこれだ。

4月7日に配布された資料を確認すると、CX-60のエンジンバリエーションは大別して2種類、細かく分類して4種類あることがわかる。大別から先にいくと、2.5L直列4気筒自然吸気ガソリンエンジンと、新開発の3.3L直列6気筒ディーゼルエンジンだ。いずれも、新開発の8速オートマチックトランスミッション(AT)を組み合わせる。

ガソリンの「SKYACTIV-G 2.5」と8速ATの組み合わせが、CX-60の入口になるだろうか。CX-5を検討していたけれども、ちょっと手を伸ばせば、「あれ? CX-60が買えるじゃん」と誘導するような位置づけが想定される。主力はディーゼルのSKYACTIV-D 3.3と8速ATの組み合わせ。本命はSKYACTIV-D 3.3に48Vマイルドハイブリッドシステム(MHEV-48)を組み合わせたe-SKYACTIV-D 3.3になるだろう。

e-SKYACTIV-D3.3(直6ディーゼル+48Vマイルドハイブリッド)

e-SKYACTIV-Dのスケルトン。 直6ディーゼルを搭載したAWDモデルだ。
直6ディーゼルエンジン搭載モデルの前後重量配分は45:55だという。PHEVモデルは50:50だ。
SKYACTIV-D3.3のスペックは254ps/550Nm。48Vのマイルドハイブリッドシステムと組み合わせる。

MHEV-48は縦置きトランスミションの湿式多板クラッチ(そう、トルクコンバーターではなく、湿式多板クラッチを発進デバイスに用いる)の後方に、最高出力12.4kW、最大トルク153Nmのモーターを搭載する。運動エネルギーの回生とアシスト(力行)を行なうことにより、燃費を「さらに」向上させるのが狙いだ。もっとも、マツダはMHEV-48ではない“素”のSKYACTIV-D 3.3と8速ATの組み合わせでも、車両重量が約1900kgに達するCX-60を、小さく軽いCX-3(SKYACTIV-D 1.8搭載。1370kg)と同等のWLTCモード燃費(19km/L)で走らせると予告している。

3.3Lの排気量は重量級のクルマを力強く走らせるに充分なトルクを発生させつつ、良好な燃費と優れた排ガス性能を実現するためだ。空気をトルクのために目一杯使わず、意図的に余らせて燃料とよく混ぜ、きれいに燃焼させるために使う考えだ。

カモフラージュされたe-SKYACTIV-D 3.3に乗り込み(試乗車はすべて左ハンドル仕様だった)、ダッシュボードの車両中央寄りにあるエンジンスタートボタンを押すと、ディーゼルらしいエンジン音がしっかり耳に届く。音の角は取れているので煩わしくはないが、「意外にしっかり聞こえるな」という印象だ。一定速で走っているときは淡々としているが、アクセルペダルを強く踏み込んで加速の意思を鮮明にしたときは、ドライバーの気分を盛り立てるような音に変化する。意図して音を作り込んだという。

SKYACTIV-D3.3のレッドゾーンは5100rpmあたりから。最高速度は220km/hと発表されている。
SKYACTIV-D3.3は写真のようにカプセル化されている。

確かに、「それいけっ!」とアクセルペダルを強く踏み込んだときのエンジンサウンドは、気分の盛り立て役になる。音だけ勇ましいわけではなく、加速も強烈で、それらが相乗効果となって気持ち良さにつながる。CX-60の車体は大きな力や加速力をしっかり受け止めてドライバーを不安にさせることがないので、安心してアクセルを踏み込むことができる。全開を多用するような走りを含めてテストコースを約30分間試乗し、メーターが示す燃費は6.7L/100km(14.9km/L)だった。湿式多板クラッチの発進時の振る舞いはトルクコンバーターに比べて不利と一般的にはされているが、公道で量産仕様を確かめるまで、判断は保留としたい。

e-SKYACTIV PHEV (直4 SKYACTIV-G2.5+PHEV)

e-SKYACTIV-PHEVのスケルトン。 AWDモデルだ。バッテリーは床下に17.8kWh分を積む。
こちらがPHEVモデルのプラットフォーム。
エンジンは縦置き化された2.5ℓ直4SKYACTIV-G2.5。圧縮比13.0で最高出力は191ps/261Nm。これに175ps/270Nmのモーターを組み合わせる。EV走行距離は61-63kmである。

CX-5やCX-8が横置きに搭載する2.5L直列4気筒自然吸気エンジンを縦置きに変更しつつ吸排気をチューニングし、最高出力129kW、最大トルク270Nmを発生する駆動用モーターと17.8kWhもの電力量を持つリチウムイオンバッテリーを搭載するのがe-SKYACTIV PHEVだ。おそらくはCX-60のフラッグシップの位置づけとなる。買い物や通勤など、日常ユースは電気自動車として使い、エンジンは遠出の際に航続距離を確保するために積んでいると、このクルマの立ち位置を理解するのが基本だ。

しかし、型にはまった使い方をするにはもったいないキャラクターを、マツダ初のプラグインハイブリッド車(PHEV)は備えている。アクセルペダルを強く踏み込むと「スイッチ入った」のがはっきりわかるほど、キャラクターが変わる(SPORTモードに切り換えると、即座に臨戦態勢になる)。さすが、ロードスターでいい音づくりをした経験があるメーカーのクルマだなと感心させられるほどに、直列4気筒自然吸気エンジンは回転の上昇とともに官能的なサウンドを響かせてドライバーの気持ちを高ぶらせてくれる。

加速とエンジンサウンドの相乗効果で興奮がピークに達しようかというフェーズではスピーカーから人工的な音を発して一段と気分を盛り上げようと演出するのだが、筆者にはこの部分だけは過剰に感じられた。(カモフラージュされているけれども)クルマの内外観から視覚的に得られる情報から受ける印象や、操作に対するフィードバックや乗り味から受ける印象は「ナチュラル」や「有機的」といったワードがぴったりくるので、人工的な味つけはどうにもそぐわない気がする。CX-60に関心を持つ層がこの演出をどう受け止めるかに興味がある。

それはそれとしてe-SKYACTIV PHEV、同じCX-60なのにディーゼルエンジン搭載車とはまるでキャラクターが異なることは確か。ディーゼルエンジン搭載車が正統派ミッドサイズSUVなら、e-SKYACTIV PHEVは異端のSUVであり、環境性能の高さとスポーツ性の両面を合わせ持っているのが特徴だ。

SKYACTIV-G2.5はほぼフロントミッドシップの位置に搭載されていた。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…