目次
類を見ないクサビ型で空気抵抗値は国内最小
レオーネ、ジャスティ、レックス、サンバーと非常によくできたモデルながら、いずれも地味なラインアップしか持たなかった80年代初頭の富士重工業。イメージを刷新することとアメリカ市場へ打って出る策として、従来のイメージを覆すスポーティな装いのクーペとしてアルシオーネは開発された。発売もアメリカが先行して85年1月に、国内では同年6月になってからと、いかにアメリカ市場を意識していたかを物語る。
アルシオーネ最大の特徴は、そのスタイル。極端なウエッジシェイプはボンネット高を可能な限り下げたことで際立ち、フロントノーズにはリトラクタブルヘッドライトを採用。これにより空気抵抗値は0.29と、国産車で初めて0.3を切ることに成功。また室内も外観に負けないくらい前衛的なデザインとされた。
当初のキャッチコピーは「4WDアバンギャルド」。地味な富士重工業らしからぬ意欲作だった。ところがエンジンや足回りはレオーネクーペRXのキャリーオーバー。それでもスタイルに憧れ続けた人は多く、このVRオーナーも2台目のアルシオーネだという。
外観
1985年1月にアメリカで先行発売されたアルシオーネは同年6月に1.8モデルだけ国内発売された。4WDアバンギャルドというキャッチコピー通り、鋭く前衛的なスタイルは好みがハッキリ分かれる。87年に国内でも2.7モデルが発売される。2気筒足した水平対向6気筒で150psを発生。4WDはアクティブトルクスプリット式に進化。1991年に生産終了
リトラクタブルヘッドライト
低いボンネットとリトラの組み合わせは80年代ならでは。リップスポイラーは純正
サンルーフは着脱可!
チルトのみのサンルーフは脱着することが可能。オーナーは外したことがないとか
ホイールサイズ:5.5J×14
タイヤサイズ:185/70HR14
純正指定は70偏平だが65のミシュランを履く。ホイールは珍しいダンロップRX-2でP.C.D.が140だから貴重品
標準
電子制御エアサスは標準状態だとフロントタイヤとホイールの間隔は100mm
最高
エアサスを上げると2、3分ほどで最高状態になる。その時の間隔は130mm
最低
エアサスを下げるのは上げるより時間が短い。最低時の間隔は85mm
エンジンルーム
EA82型は135ps
前期だとグロス表記で後期ネット表記だと120psの控えめな1781cc水平対向4気筒エンジン。トルクは20kgmあるのでストレスはない
乗らない時間が長いと思わぬトラブルが出る
この前期型VRのオーナーはクルマのために山梨へ移住。現在58歳で、若い頃に見たアルシオーネの姿に一目惚れした。20代になって中古車を手に入れたが、当時Y31セドリックも所有していた。ところが都内へ転勤になり2台持ちは無理になる。その時のアルシオーネは程度がイマイチだったこともあり手放してしまうことになる。
それでも憧れの気持ちは冷めなかった。50代になり子育ても一段落したころ、たまたまショップの売り物を発見。それが現車で1オーナー・フルノーマルの極上車。迷わず手に入れた。ただ、都内では青空駐車だったから、思い切って山梨へ移住。念願のガレージハウスを建てた。
極上なので手はかからないそうだが、思わぬところに落とし穴。年に数えるくらいしか乗らないのでシリンダーヘッドの油膜が切れる。エンジンをかけると異音がするようになってしまった。直したくても部品はない。専門の工場により油脂類で静かにはなったが、今後の課題。
エンジンだけでなく、あらゆる部品がすでにない。維持するには苦労が多そうだが、アルシオーネだけのクラブに加入している。取材時にも駆けつけてくれたクラブの仲間は古参のひとりで、たいていのトラブルは経験済み。周囲の助けもあって、これまで深刻な事態にはなっていないそうだ。
室内
外観以上に前衛的なインテリアは元飛行機屋といった風情たっぷり。ダッシュ割れがなく新車から屋内保管のよう
サテライトスイッチ 右は正面サイドとも灯火類が並ぶスイッチ。正面上はデフォッガー 左は空調が正面に並びサイドのスイッチはワイパー類で統一されている
サイドブレーキレバーの脇にエアコンの温度と強弱のスイッチを配置 エアコンと内気循環スイッチはサイドレバーの根元
純正でバケット形状のシート。前期のヘッドレストは樹脂製で後期はモケット張りになる。 乗車定員は4名で完全2名乗りのリヤ。シートカバーは純正オプション
このアルシオーネ4WD VRターボの記事は、令和に残るクルマ改造雑誌『G-ワークス』(毎月21日発売)2022年6月号に掲載されたものです。