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上肢のみで運転できるフランツシステム、下肢のみで運転できるテックマチックシステム<Dタイプ>の試乗に続き、今回紹介するのは、介護車両2タイプ。1タイプ目は車いす利用者を乗せて移動ができる車いすスロープ車。今回取材しているホンダアクセスでは車いす仕様車と呼んでいます。こちらは、10年間累計販売台数No.1を誇るN-BOXをベースとしたN-BOX 車いす仕様車を体験。もう1タイプはリフトアップシート。こちらは、フリード+の助手席リフトアップシートを体験します。
スロープ車なのに、4人乗り仕様としても使える便利さ
N-BOX 車いす仕様は、セカンドシート位置に車いす利用者1名が乗車できるタイプになります。
セカンドシートを出した状態では前後2名ずつの4名乗車、リヤシートを畳んだスペースに車いす利用者が乗車した場合、前2名、後ろ車いす1名の3名乗車になります。
ですので、例えば普段は自分の世帯の買い物や子供の通学の支援などに使う足グルマとして使い、ときには祖父母など、同居または近所に住む車いす利用者の親類の病院などへの送り迎えに使うといった使い方ができる1台です。
車いす乗車に限らない後席。
「それなら我が家にも導入しやすいわ〜」というご家庭もあるのではないでしょうか。
じつは同じハイト系の軽自動車で、車いすスロープ車というと、ホンダ・N-BOX 車いす仕様車のほかに、スズキ・スペーシア車いす移動車、ダイハツ・タントスローパーがあります(このほか、軽規格の1BOXバンでもラインアップがあります)が、この使い勝手が少しずつ異なります。
ホンダ・N-BOX 車いす仕様車は、4名乗車から車いす乗車モードへ切り替える際、リヤシートが足元にダイブ。リヤシートのシートバックがラゲッジスペースと同じ高さになり、フロントシートの直後までのスペースが有効利用できる仕様。介護用品などを置いておいたり、日常リヤシートにおいてあるものを置いておくようなスペースがあります。
スズキ・スペーシア車いす移動車は、リアシートの格納方法が商業車系でよく見るタイプ。シートバックを前に倒したあと、座面ごとさらに前に引き起こすように倒すタイプになります。ですので、前席と車いすの間にリヤシートが畳まれた状態で置かれている状態になります。通常の車いすに座っているとして、下肢も膝が直角に近い状態まで曲がり、車いすのフットレストに足を載せておける状態であるならば、レッグスペースは十分。
一方で、もし膝が曲げにくい、下肢を上げておかなくてはならない等の事情がある場合、リヤシートが邪魔をする可能性があります。その点、リヤシートが前にダイブするN-BOXは、足元スペースの広さもメリットになると思います(もちろんN-BOXであっても足りない場合もあると思います)。
ダイハツ・タントスローパーも、スペーシア同様、車いす利用者が乗車する場合、後席を前に倒すタイプです。が、実は取り外すこともできるとうたわれています。
このほか、一長一短がありますが、さっと切り替えられて、スペースが広いというのが利点となるケースも多そうです。
乗り心地重視で車高ダウンはしないスロープ車
そして、ホンダの車いす仕様車の特徴のひとつが、どのサイズのモデルもエアサスなどの車高ダウン装置を採用していないこと。
他社ではエアサスなどで車高を落とせるようにするのが一般的(軽自動車の架装では他社も同じように非採用)なのですが、あえてホンダはステップワゴンクラスでも通常モデルと同じものを採用しています。
デメリットを先に言うと、スロープ長が長めになってしまうこと。
車高が下がらない分、乗降時のフロア高が高くなってしまうので、スロープの斜度(坂道の傾き)を抑えるためにスロープ長くなりがちに。これによってライバル車と同じ駐車スペースを使っても、作業場所を含めた「全長」が長くなる分、乗降しにくいケースも出てくるかもしれません。
メリットとしては、乗り心地の良さが挙げられます。コレが大事。
車いすスロープ車系で用いられるエアサスは、走行状況に応じてバネレートを調整するようなアクティブ制御はなく、基本的に乗降をしやすくするために車高を落とす役割で装備されたもので、走行時は乗り心地が硬めのものが多く、ちょっとした道路の段差でも突き上げるような動きがあります。クルマ用シートのような厚いクッションを持たない車いすのシートでは走行時の振動をダイレクトに感じやすく、いっそう乗り心地がシビア。そこでホンダではリヤ・サスペンションをどのクラスのボディでもノーマルと同様のものとしてるのです。
特にリヤタイヤの近くに座ることになる、N-BOXなどではこのメリットが出ていると車いすで試乗してみて感じました。
一定のスピードで引き上げられる安心感
また、N-BOXを含めて、ホンダの車いす仕様車は、全車電動ウインチを標準装備しています。これは常に一定の速度で乗り込めることの安心感を重視したからであるとのこと。
手動となる場合、介助者によっては、押し上げはじめは少し加速感が強かったり、固定位置直前で急減速するなど、それなりに加減速を伴うことが多くなりがちです。その点、電動タイプは動き始めてしまえば、乗車完了まで等速直線運動的な動きとなるので、車いす利用者も予測がつきやすく、頭が大きく揺すられる等の動きを抑制できることもメリットです。
車いすに座っての試乗、実際に電動ウインチで引っ張り上げて乗せてもらうと、その安心感がよくわかります。人がガッと力を込めて押し上げるのに比べると遅いスピードであることも大事。結局、それなりに押す側に筋力がないと、ウインチと同じ遅めの速度で押し上げるのは大変でした。
乗り込んで車いすで走行試乗スタート。
最初に感じるのが、ヒップポイントが後傾していることの安心感。これも計算された傾斜度ということで、通常の直角な座面とシートバックの車いすでそのままの角度で固定されるより、若干チルトしたほうが乗車姿勢として適切ということのよう。加減速時に腰がずれにくく快適でした。
そしてエアサスではないことのメリットもすごく感じられます。
たとえば我が家のトヨタ・エスクァイア車いす仕様車スロープタイプ1。上下水道の工事などで掘り起こされて、次の工事までざっくりアスファルトを貼ってあるような路面って、住宅街の中などにありますよね。こういった舗装の荒れた場所をスロープ車のエアサスで走り抜けると、ドタドタとリヤが暴れるのがわかります。角は若干丸いとはいえ、突っ張る感じで突き上げも大きい乗り心地です。サードシート位置は特に顕著。
介助側の立場になると
いっぽう介助側の立場になると、4名乗車の状態から車いす仕様に変更する際、操作しようとするその視線の先に次に引っ張る紐があったり、動作時に点滅するボタンがあったりと、直感的に動かせるようになっていることに感心しました。
白眉なのは、車いす利用者用のシートベルトの装着方法。
腰ベルトと肩ベルトの2つ分割されているのは他社も同じなのですが、ホンダの場合は「一筆書き」で装着ができます。腰ベルトを車いすの進行方向右側から引き出して、車いす利用者の腰まわりを経て左側のシートベルト・バックルにロック。その後、その近くにある肩ベルトを斜めに引き上げて行くと、天井に肩ベルトのバックルがあるという寸法。
一般的には肩ベルトも上から引き下ろしてきて、フロアのシートベルトバックルにロックするので、この作業だけで介助者は2度しゃがむことになります。これが意外と面倒。ベルトを持ちながら車いすを抱き込むようにしゃがんでバックルに導く動作なので、負担が大きい作業になります。これを2度やらずに、ロックしたら、そのままもうひとつを引き上げながら立ち上がればいいので、実質作業は半分になります。
こういった細かいところに気を配ることができる作りての努力の積み重ねが、使いやすい福祉車両として結実していることが、わかりました。
助手席リフトアップシート車のフリードに疑似高齢者が試乗!?
1995年にアクティ・バンをベースにした車いす仕様車をリリースしたホンダ。これが介護車両のラインアップのスタートだったのですが、その2年後には初代ステップワゴンベースのサイドリフトアップシート車が登場しています。
2012年にハイブリッド車として初設定されたのが、今回紹介するフリードの初代モデルでした。
リフトアップシート車については、助手席が対象の助手席リフトアップシート車と、セカンドシートが対象のサイドリフトアップ車があります。
今回の試乗はフリードの助手席リフトアップシート車。車種やリフトアップシートの位置によって、ハイブリッドや4輪駆動が選べるものがあります。
ちなみに、リフトアップシート車は、シートが車外に出てくる際にピラーやドアなどをよける経路が決まってしまうため、下肢の症状いかんで実際に使える車種が決まってくる場合があります。
たとえば、膝があまり曲がらない場合、ドアのヒンジが近くにある助手席リフトアップシート車だと、つま先があたってしまってシートを回せないということがあります。
またドアを全開にした状態での作動が前提なので、駐車スペースによってはスライドドアが使えるサイドリフトアップシート車のほうが使い勝手がいい場合もあります。
このあたりクリアされている場合、夫婦などでは助手席に着けたいというリクエストが多い傾向はあるそうです。
便利さを噛みしめるべく左右異なるウェイトを装着! 仮想高齢者となってテスト!
といったところで試乗。
今回試乗に際し、日本ケアフィット共有機構さんの協力により、高齢者疑似体験キットが用意されていました。
腕や足首に左右で重量の異なる重りバンドを巻き、筋力の低下による動作の遅さや、平衡感覚の変化などを体験。
そのほか膝に特殊プレートの入ったサポーターを装着、屈曲が妨げられる状態での関節の動きなどを体験します。
また片手には杖ももち、動きにくい体を支えながらの歩行なども体験しました。
こうなると膝も上がりにくく、普段はカンタンなミニバン系のシートへの上り下り(ちょっとだけ)もアシストグリップを使ったりしながらのほうがラクという状態に。
車外に出てきたシートに座ってしまえば、あとはボタンを押し続けていれば、上昇しつつ回転しつつ走行位置までシートが移動してくれます。
降車もしかり。車外にせり出したシートにより低い位置に座った状態になるので、そこから立ち上がるなり、車いすに移乗するなりすることができます。
最近、他社ではリフトアップチルトシートタイプも増えてきています。こちらは座面が車外へ出切らず、先端が下がった状態で停止します。
メリットは車外へのシートの出代が少ないため、雨のときなど濡れにくいということや、チルトしたシートにより尻位置が高く、膝を深く曲げない状態で停止するため、自然に足をつけて立ち上がりやすいポジションになるということです。
ですので、どちらかというと、歩けないまでも一旦立ち上がっていられる人に向いている装備と思われます(とはいえもちろん、降車の際に一旦立ってその脇に車いすを持ってくれば移乗は容易です)。
いっぽうでリフトアップシート車は、シート座面が低いところまで水平を保って降りてくるタイプ。
車いすですぐ横に乗り付けて、中腰ないしお尻を浮かせてシートに移乗するというスタイルも可能です。
「よっこいしょ」と一休みしながら、乗り換えるような場合に適しているといえます。
いずれも適材適所、同乗者の症状に合わせての車種選びが肝要になるということなのだと思います。