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電動車両がライフサイクルで発生するCO2排出量の約半分は、原料の抽出と加工を含めた、製造段階で発生している。2番目に大きな排出源が車両の作動である。これは車両を充電するのに使用されるエネルギーの種類、充電効率、車両の効率、それに運転スタイルによって決まる。リサイクル過程と車両のライフサイクル終了時の材料抽出処理では、CO2をそれほど生成しない。
これら個々のCO2排出要因に対して、バッテリーは車両のライフサイクル中のCO2排出量に大きな影響を及ぼす。例えば、タイカンが製造されたときに生成されるCO2の約40%を、バッテリーが占めている。言い換えれば、エネルギーキャリア=バッテリーのサイズは、EVの二酸化炭素排出量に根本的に関与している。しかし、市場でのEVの成功を決定するのも、このバッテリーである。バッテリーのサイズは、ドライバーの期待とニーズを満たす必要がある。
アメリカの自動車メーカーが実施した調査によると、空のバッテリーで立ち往生することへの懸念は、EVを購入するドライバーの主な障壁である。バッテリー容量と効率の向上は、EVが顧客の要求に、より適合するための進化であることを意味する。現在、一部のメーカーは600 kmを遥かに超える航続距離を誇るモデルを発売しているが、一方で、より狭い範囲を移動するための小さなEVの人気も高まっている。
バッテリーサイズの最適なバランスを見つける
この課題に取り組むために、ポルシェは先駆的なアプローチを取っている。優先順位と使用例を分析することで、相反するとされる要件の間で適切なバランスをとることができるバッテリーサイズを特定している。例えば、ポルシェのドライバーはダイナミックな運転体験を高く評価しているが、同時に、短い充電時間で長距離をカバーできることを期待している。統計によると、ポルシェドライバーの大多数は1日あたり80km未満しか運転しておらず、1週間に行われる移動の約80%は450km未満であるという。
一般的には、大型のバッテリーを搭載した車両は高い動力性能を誇る、と考えられている。ところが、ニュルブルクリンクの北コースでシミュレーションしたラップタイムは別の事実を示唆する。仮想タイカンターボS(85.1kWhバッテリー・車重2,419kg)が7分39秒5でラップすると計算した。このバッテリー容量を70kWhに減らすと車両重量は2,310kgとなり、ラップタイムは10分の7秒遅くなる。ところが車両重量は軽いから、0~100km/h加速は2.90秒であり、これは参照車両より0.02秒速い。0~200km/hは9.51秒であるが、これは仮想タイカンターボSよりも約10分の8秒遅い。これらのシミュレーションは、車両の軽量化がバッテリー容量の低下を補うものではないことを示している。
100kWhのバッテリーを搭載すると、車両重量は107kgも重くなる。より強力なバッテリーにもかかわらず、ラップタイムは7分42秒4まで増加し、0~100km/hは3.04秒かかり、0~200km/h加速は9.71秒。130kWhバッテリーでは車両重量は2,743kgにまで大幅に増加し、ラップタイムは7分48秒2、0~100km/h加速は3.28秒、0~200km/h加速は10.48秒となる。
800ボルトの技術と高効率DC充電
ポルシェの調査結果は、 生産におけるCO2排出量を削減するにはバッテリーが小さいほど良いのに対して、中型バッテリーは最高のドライビングダイナミクスを提供することを示している。大型バッテリーは、一般的にはより長い航続距離とより短い移動時間を提供すると考えられている。しかし800ボルトの技術と効率的な直流充電プロセスにより、タイカンはさらなる100kmをカバーするためのエネルギーを蓄えるのに、わずか5分しか必要としない。タイカンはすでに長距離をカバーしているのだ。
航続距離、パフォーマンス、持続可能性のバランスをとる方法を検討する際、ポルシェは移動時間に重点を置いてきた。この点では、100kWh程度のバッテリーサイズが最適である。今後さらにバッテリー開発が進展することで、動力性能は高まり、充電時間は短縮される。そしてCO2排出量の削減においても、一層の進展が期待できる。将来発売される第2世代のEVのライフサイクルにおけるCO2排出量は第1世代の約4分の1となる。車両のCO2排出量の削減に最大の貢献をするのは、バッテリー技術そのものである。