【海外技術情報】スタンフォードのエンジニアが考案した新たな3D印刷方法:複数材料を高速で印刷する

スタンフォード大学のエンジニアが、現在利用可能な最速の高解像度プリンターよりも5倍から10倍も高速に、さらに1つのオブジェクトに対して複数の種類の樹脂を使用できる3D印刷方法を考案した。
TEXT:川島礼二郎(KAWASHIMA Reijiro)

3D印刷の進歩により、デザイナーやエンジニアはプロジェクトをカスタマイズしたり、さまざまなスケールで物理的プロトタイプを作成したり、また従来技術では作成できなかった構造を作成できるようになった。しかし3D印刷技術は一つの限界に直面している。その一つが「印刷速度」であり、もう一つが「特定の材料が必要である」ということ。ほとんどの場合、一度の印刷で一つの材料を使用する必要がある。

2022年9月末、スタンフォード大学は、同大学の研究者が、単一のオブジェクトに複数種類の樹脂を使用して高速にプリントできる3D印刷技術を開発したことを発表した。科学雑誌Science Advancesで最近発表されたこの設計は、現在利用可能な最速の高解像度印刷方法よりも5~10倍高速であり、より優れた機械的・電気的特性を持つより厚い樹脂を使用できる可能性も秘めている。

タイトル画像は、ウクライナの国旗の青と黄色で3D印刷したキエフの聖ソフィア大聖堂のモデルである。そこで使われたのが3D印刷技術『iCLIP』メソッドだ。1つのオブジェクトに対して複数種類(ここでは複数色)のレジンを使用していることが分かる。開発に携わったスタンフォード大学のJoseph DeSimone氏は以下のように述べた。

「この新しい技術は、3D印刷の可能性をひろげます。これまでより遥かに高速に印刷できるようになり、デジタルマニュファクチャリングの新時代の到来を告げるだけでなく、複雑なマルチマテリアルオブジェクトを1つのステップで製造できるようになるのです」

樹脂の流れをコントロール

新しいデザインは、連続液体界面生産(CLIP)と呼ばれるDe Simone氏と彼の同僚が2015年に作成した3D印刷の方法を、改良したものである。CLIPでは、上昇するプラットフォームが、樹脂の薄いプールからオブジェクトをスムーズに引き出す。表面の樹脂はプールを通して投影される一連のUV画像により適切な形状に硬化されるが、酸素の層がプールの底での硬化を防ぎ、樹脂が液体のままである「デッドゾーン」を作成する。

CLIPのスピードの決め手はデッドゾーンである。固形物が浮き上がると、その後ろに液状レジンが入り込み、滑らかな連続印刷が可能になる。しかしこれは常に起こるとは限らない。特に、ピースが急速に上昇したり、樹脂が特に粘性である場合である。インジェクションCLIP(iCLIP)と呼ばれる新しい方法では、研究者は上昇するプラットフォームの上にシリンジポンプを取り付け、重要なポイントに樹脂を追加した。

スタンフォード大学の機械工学の博士課程の学生であり、論文の筆頭著者であるGabriel Lipkowitz氏は以下のように述べた。

「CLIPにおける樹脂の流れは、非常に受動的なプロセスです。対象物を引き上げて、吸引によって材料が必要な場所に運ばれることを期待しているのです。この新しい技術により、樹脂が必要な領域に積極的に樹脂を注入できるようになります」

樹脂は、デザインと同時に印刷されるコンジットを通じて配送される。コンジットは、オブジェクトが完成した後に削除することもデザインに組み込むこともできる。

マルチマテリアル印刷

追加のレジンを個別に注入することにより、iCLIPは印刷プロセスにおいて複数のタイプのレジンを使用した印刷を可能にする。新しいレジンごとに独自のシリンジが必要である。研究者は、それぞれ異なる色に染色された樹脂で満たされた3つの異なるインジェクターでプリンターをテストした。彼らは、聖ソフィア大聖堂をウクライナ国旗の青と黄色で、独立記念館をアメリカの赤、白、青で印刷するなど、いくつかの国の有名な建物のモデルを各国の国旗の色で印刷することに成功した。Lipkowitz 氏は続けた。

「多彩な素材や機械的特性を備えたオブジェクトを作成できることは、3D印刷の究極の目標です」

iCLIPが複数のレジンで印刷できる可能性があることを実証することに成功した DeSimone氏とLipkowitz氏、それに彼らの同僚は、各印刷物の流体分配ネットワークの設計を最適化するためのソフトウェアの開発に取り組んでいる。そして設計者が樹脂タイプ間の境界を細かく制御できるようにして、印刷プロセスをさらに高速化したいと考えている。

「デザイナーは、オブジェクトを非常な高速で印刷するために、流体力学を理解する必要はありません。私達は将来、流体分配ネットワークを自動的に生成するだけでなく、多様な樹脂を管理して複数材料での印刷を達成するための流量を決定できる、効率的なソフトウェアを作成します」

参考:スタンフォード大学ニュース https://www.stanford.edu/

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著者プロフィール

川島礼二郎 近影

川島礼二郎

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系…