マツダの新ロータリーエンジンは直噴「16X」の進化版? 13B型RENESISとどう違う?

マツダがついに復活させたロータリーエンジン。MX-30 e-SKYACTIV R-EVが搭載する。
マツダMX-30のPHEVモデル「e-SKYACTIV R-EV」に搭載されることで久しぶりに復活したロータリーエンジン。その型式は8C型だ。発電用とはいえ、大復活を遂げたロータリーエンジンは、どんなエンジンで、どう進化したのか? RX-8が搭載していた13B-MSP(RENESIS)型とどう違うのか。

マツダのロータリー史上初と言っていいフルチェンジ版

MX-30のPHEVモデル「e-SKYACTIV R-EV」が搭載するのは、830cc × 1ローターのロータリーエンジンだ。ターボ過給はなしだ。

量産されていた最後のロータリーエンジン、13B-MSP(RENESIS)型は654cc × 2ローター(1308cc)だった。こちらもターボ過給はなしだった。

1ローターと2ローターの違いよりも、ロータリーの心臓部である「トロコイド寸法」がまったく違うのだ。

8C型発電用1ローターロータリーエンジン

MX-30 e-SKYACTIV R-EVの新8C型
排気量:830cc × 1ローター
トロコイド寸法
e値(偏心量): 17.5mm
R値(創成半径): 120.0mm
b値(ハウジング幅): 78.0mm

RX-8が搭載していた13B-MSP(レネシス)型2ローターロータリーエンジン

RX-8の13B-MSP(RENESIS)型
排気量:654cc × 2ローター(1308cc)
トロコイド寸法
e値(偏心量): 15.0mm
R値(創成半径): 105.0mm
b値(ハウジング幅): 80mm
圧縮比:10.0

である。

K値(R値/e値)を大きくすることは、レシプロエンジンのロングストローク化に相当する。単室容積が同じなら、e値が大きいほどR値は小さくなり、機械的にはメリットが得られやすい。
ローターハウジング=トロコイド曲線

e値とはeccentricity=偏心量 エキセントリックシャフト軸中心とローター中心間の距離、R値は創成半径でローター中心とアペックス頂点間の距離のことだ。

じつは、マツダのロータリーエンジンは
10A型(単室容積491cc)、12A型(573cc)、13B型(654cc)、20B型(654cc)すべてe値(偏心量):15.0mm R値(創成半径):105.0mmという数値は変わらない(例外は13A型)。当然ながらレシプロエンジンにおけるストローク量に相当する「K値(R/e)も変わらない。排気量の違いはレシプロエンジンにおけるボアに相当するb値、つまりローターの幅を拡げることで生み出してきた。

だから、ここから見ても新ロータリーエンジンは、これまでのマツダ・ロータリーとはまったく違うベースを持っているといえる。

実現した「直噴化」

新型8Cロータリー。燃料供給は直噴である。

今度は燃料供給を見てみよう。

新8C型: 直噴(DI)
13B-MSP(RENESIS)型: ポート噴射(PFI)

8C型は直噴になったのだ。ポート噴射だと混合気の多くが燃焼室の奥で燃焼しきれず、未燃焼ガスとして排出されてしまう。直噴化したことで、噴射時に燃料を微粒化できるために、低温でも充分に燃料を気化させられる。

圧縮比も
新8C型: 11.9
13B-MSP(RENESIS)型: 10.0

と高圧縮比化された。

吸排気は、サイドポート。13B-MSP(RENESIS)型でペリフェラルポートからサイドポート化されたのを継承している。サイドハウジングは13Bの鋳鉄からアルミ合金へと変わったことで15kgの軽量化に成功した。

燃費向上のためにEGR(Exhaust Gas Recirculation)システムを採用した。低回転・低負荷での運転が多いEGRシステムを使うことでレシプロエンジンに比べて表面積が大きいロータリーエンジンの燃焼室による冷却損失を低減し、燃費を向上させられる。

燃焼室の機密性を確保するためのアペックスシールは、13B型と同じ2分割の鋳鉄製。幅を2.0mmから2.5mmに拡大。耐摩耗性を向上させた。また、ハウジング内部のトロコイド表面のめっきを変更して摩耗や摩擦抵抗の低減を図ったという。サイドハウジングの表面にはプラズマ溶射を追加したことも摩擦抵抗の低減につながっている。

8C型ロータリーはローター幅76mmというコンパクトなサイズでモーター、減速機、発電機と同軸配置・一体化を実現している。パワーユニットは全幅840mm以下だ。

8C型ロータリー
排気量:830cc × 1ローター
トロコイド寸法
 e値(偏心量): 17.5mm
 R値(創成半径): 120.0mm
 b値(ハウジング幅): 78mm
圧縮比: 11.9
燃料供給: DI
インテークポートタイプ: サイド
インテークポート: 2
エキゾーストポート: サイド
エキゾーストポート: 2
アペックスシール: 2.5mm幅、2分割・鋳鉄
最高出力: 74ps(55kW)/4700rpm
最大トルク: 116Nm/4000rpm

13B-MSP(RENESIS)2ローターロータリー

エンジン型式
13B-MSP型(RENESIS)
排気量:654cc × 2ローター(1308cc)
トロコイド寸法
 e値(偏心量): 15.0mm
 R値(創成半径): 105.0mm
 b値(ハウジング幅): 80mm
圧縮比: 10.0
燃料供給: PFI
インテークポートタイプ: サイド
エキゾーストポート: サイド
アペックスシール: 2.0mm幅、2分割鋳鉄
最高出力: 215ps(158kW)/7450rpm
最大トルク: 216Nm/5500rpm

やはり「16X」が進化したのが8C型

2009年の東京モーターショーで発表された16Xロータリーエンジン。トロコイド寸法を見直し、燃料供給も直噴化された。しかし、16Xを搭載したクルマは登場しなかった。

ここまで見てくると、13B-MSP(RENESIS)から8Cへ一気に進化したように思えると、そうではない。

2007年の東京モーターショーで公開された「次世代ロータリーエンジン 16X」こそが、おそらく8C型の原型だ。16Xは

・トロコイド寸法の見直し
・直噴化
・サイドハウジングのアルミ化
・単室容積800cc×2ローターで1.6Lの排気量

というだった。

当時取材したMotor Fan illustrated取材陣は
16Xのトロコイド寸法を

左が16Xのローター、右が13B-MSP(RENESIS)のローター。サイズの違いは一目瞭然だ。

排気量:818cc × 2ローター(1636cc)
トロコイド寸法
 e値(偏心量): 17.5mm
 R値(創成半径): 120.0mm
 b値(ハウジング幅): 75.0mm
と予想していた。e値とR値は8C型とぴったり一致している。奇しくも市販ロータリーエンジンのなかでこれまで一度だけディメンジョン変更に踏み切った13A型と同じe値とR値である。

16Xは、発電用ではなく2ローターで駆動用のロータリーエンジンとして企画されたものだ。とはいえ、16Xから開発を続けた結果が発電用8C型だと言えそうだ。

それほど時間を置かずに、きっと日本でも8C型ロータリーを試す機会があるだろう。コンパクトで低振動なロータリーの特性がどう活かされているか、楽しみだ。

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