目次
開発の背景
深溝玉軸受は最も代表的な転がり軸受で、産業機械から自動車まで幅広いアプリケーションに搭載されており、低フリクションで高速回転に適しているのが特長。電動車では、主にeAxleなどの駆動ユニットの軸に搭載され、軸を保持しモータで発生した駆動力をタイヤに滑らかに伝える役割を担っている。

右:深溝玉軸受の構造
電動車の普及が進む中、その開発にあたり、航続距離の延長が大きな課題となっており、搭載される駆動ユニットには小型軽量化と高効率化が要求されている。そのため、駆動ユニットに搭載されるモータは、小型軽量化と高出力を両立するため、高回転化が進んでいる※1。結果として、駆動ユニットに搭載される深溝玉軸受には、小型軽量化、幅狭化、低フリクション化、高速化が要求されている。
軸受の幅狭化とは、軸受の幅寸法を短縮することを指す。幅狭化された軸受は、今後、シェア拡大が見込まれる2軸/同軸構造eAxleの市場において、特に高いニーズが見込まれている。
eAxleは大別すると3種類(平行3軸eAxle、2軸構造eAxle、同軸構造eAxle)が存在しており、現状はこのうち平行3軸eAxleがシェア9割以上と主流になっているが、車両の小型化に有利な2軸および同軸構造eAxleのシェアは拡大傾向にあり、2030年には2割を超えると予測される※2。2軸および同軸構造eAxleは、入力軸と出力軸が同軸に配置される構造であるため、平行3軸構造eAxleよりもユニットの軸長が増大する傾向がある。そのため、ユニット軸長を短縮できる「幅狭化」軸受は今後、さらに需要が伸びると予想。本開発品の搭載により電動車駆動ユニットの小型軽量化に加え、軸受の低フリクション化などによって電費向上に貢献する。電動車向けに市場投入を開始し、2030年までにグローバルで年間40億円の売上が目指される。

開発品の特長
従来品に対して強度や寿命といった性能は高水準で維持しつつ、次の4つの特長が実現された。
- 小型軽量化:外径約10%短縮、重量約51%低減(従来品比)
- 幅狭化:幅38%短縮(従来品比)
- 低フリクション化:トルク25%低減(従来品比)
- 高速化:高速回転(dmn※3 214万以上)を達成(従来品:dmn180万)
開発品の技術
概要
今回、新技術として開発された「幅狭組合せ樹脂保持器」(下図①)を採用した他、NSKの既存技術(下図②~⑤)が組み合わせられている。NSK技術①により、幅狭化と高速化が実現された。NSK技術②③では、「小型軽量化に伴う、衝撃荷重に対する強度低下」、NSK技術④⑤では「小型軽量化に伴う、寿命低下」、という課題をそれぞれ解消し、小型軽量化と低フリクション化が実現された。

個別技術紹介
NSK技術①「幅狭組合せ樹脂保持器の新開発」:
軸受の幅狭化と高速化を実現。従来品の保持器は、一方向から組付ける構造で変形しやすく、変形を抑制するために保持器を幅広に設計する必要があった。そこで、剛性を向上させた保持器が新開発され、本開発品に採用された。軸受の両側から1対の保持器を組付ける構造のため変形しづらく、保持器の幅狭化が可能となり、軸受の高速化も実現された。

開発品の効果
開発品により、電動車における駆動ユニットの軸長短縮を含めた小型軽量化に加え、軸受の低フリクション化などによって電費向上に貢献する。平行3軸eAxle、2軸構造eAxle、同軸構造eAxle、ハイブリッド車の駆動ユニットなど、様々な駆動ユニットに搭載可能。

【注釈】
※1 モータ出力は、回転数とトルク(モータを回転させる力)の積に等しく、これは、回転数とモータ回転部の径²の積に比例する。そのため、出力を下げずにモータ回転部の径を小さくするためには、高回転化が必要。
※2 車格が大きいDセグメント以上向けのeAxleにおける、種類別シェア推移予測。2025年3月時点時点NSK調べ。
※3 dmn:軸受の高速回転性能を示す指標。軸受の内外径平均値(dm)と回転数(n)の積から求められる。