日本製鋼所三菱ケミカル:世界最大級のGaN基板製造実証設備で4インチGaN結晶の成長を確認

NEDOの「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」において、日本製鋼所と三菱ケミカルは、パワーエレクトロニクス用大口径バルク窒化ガリウム(GaN)基板の実証開発に取り組んでいる。本実証開発では2021年5月に竣工した世界最大級のGaN基板製造実証設備を使い、高品質なGaN基板の低コスト製造技術「SCAAT-LP」を用いた4インチGaN基板の量産に向けた結晶成長試験を進めており、このたび4インチGaN結晶が計画通りに結晶成長していることを確認した。

 窒化ガリウム(GaN)は、高い耐久性を持つ超高効率デバイスの実現を可能とする素材です。大幅な消費電力の削減により二酸化炭素(CO2)排出量の削減につながることから、環境負荷の低減が期待されている。このため、さらなる省エネルギーを実現する高輝度・高出力レーザや、高効率照明、新世代ディスプレイへの応用のほか、情報通信、パワー半導体などさまざまな分野での応用が見込まれている。このような背景の下、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業「低炭素社会を実現する次世代パワーエレクトロニクスプロジェクト※1」において、日本製鋼所と三菱ケミカルは、2017年度から2019年度まで、日本製鋼所M&E室蘭製作所内に建設したパイロット設備において三菱ケミカル独自の液相成長技術(Super Critical Acidic Ammonia Technology:SCAAT)を活用した高品質、かつ高い生産性を実現するGaN基板の低コスト製造技術「SCAAT-LP」の開発に取り組み、4インチの均一な結晶成長を確認した。パイロット設備は低圧酸性アモノサーマル法※2を利用した結晶成長を実現するために、高温高圧オートクレーブ※3(圧力容器)を有することが特徴であり、日本製鋼所の持つ豊富な圧力容器の製造実績が生かされた。

 さらに2020年度からスタートしたNEDOの助成事業「戦略的省エネルギー技術革新プログラム※4」で日本製鋼所と三菱ケミカルは、同事業で導入した大型実証設備で「SCAAT-LP」を用いた4インチGaN基板の量産に向けた実証実験に取り組んでいる。今回のオートクレーブはパイロット設備に比べ大幅なスケールアップを行ったことで、GaN基板の大量製造が可能となっており、これまで計画通りに4インチ結晶の成長を確認している。

オートクレーブ大型化イメージ
<実証設備の概要>
・所在地:日本製鋼所M&E(株)室蘭製作所内
・総面積:266m2
・主要設備:大型オートクレーブ装置、加熱ヒータおよび制御装置、アンモニア供給・吸収設備、高純度ガス精製装置など

【1】大型実証設備の順調な稼働
 日本製鋼所と三菱ケミカルは大型実証設備を2021年5月から稼働し、複数回の結晶成長試験を行った結果、計画通り順調な設備の運用を確認した。また事前に原料・種結晶をオートクレーブ内へ設置することや、溶媒となるアンモニアの供給、オートクレーブの昇温・保持・降温といった一連の結晶成長プロセス、結晶の取り出しなどの各工程において安全性・生産性に大きな問題がないことを確認した。

【2】4インチGaN基板上の結晶成長を確認
 日本製鋼所と三菱ケミカルは大型実証設備を用いて結晶成長試験を実施中であり、既に4インチ種結晶への結晶成長が可能であることを確認した。長時間にわたるオートクレーブの運転において結晶成長域全体にわたっての成長が確認でき、パイロット設備で開発した結晶成長技術「SCAATT-LP」が大型実証設備においても再現できている。

 今後、日本製鋼所と三菱ケミカルは大型実証設備での結晶成長試験を継続、より高い生産性を可能とし、2022年度初頭からの市場供給を開始する予定。なお、本成果の基盤となる基礎研究部分は、「文部科学省官民イノベーションプログラム」による東北大学ビジネスインキュベーションプログラム(BIP)※5の結果より得られたもの。日本製鋼所、三菱ケミカル、および東北大学多元物質科学研究所秩父研究室は、2012年から大口径・高品質・低コストGaN基板製造のための基礎から開発を共同で進め、低圧酸性アモノサーマル法(LPAAT法)と称する将来の量産に向けての基本技術を確立した。

※1 低炭素社会を実現する次世代パワーエレクトロニクスプロジェクト
研究開発項目:GaNパワーデバイス等の実用化加速技術開発/GaNウエハの革新的製造技術の開発【助成事業】
事業期間:2017年度~2019年度
事業概要:https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100011.html
※2 低圧酸性アモノサーマル法:通常の温度・圧力では溶解しない溶質を高温・高圧の超臨界流体中に溶解させ、炉内の温度勾配に応じた溶解度差を利用して種結晶上に溶質を再結晶させるソルボサーマル法の一種。超臨界アンモニア中へのGaNの溶解を促進させる鉱化剤として、ハロゲン化アンモニウム(NH4X,X=F,Cl,Br,I)などの酸性鉱化剤を用いている。大口径GaN基板の量産に適した大型製造設備の実現を可能とする、比較的低い圧力条件(従来技術の約半分の100MPa程度)で結晶成長を行う技術。
※3 オートクレーブ:内部を高圧力にすることで化学反応を早く進行させることが可能な圧力容器であり、耐圧性かつ化学反応によって腐食されない材質が使用される。大きさは数十センチメートル単位のものから、数十メートルに至る大型の装置まで様々。
※4 戦略的省エネルギー技術革新プログラム
研究開発項目:パワーエレクトロニクス用大口径バルクGaN基板の実証開発【助成事業】
事業期間:2020年度~2021年度
事業概要:https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100039.html
※5 東北大学ビジネスインキュベーションプログラム(BIP)
2015~2017年度:「高効率レーザーダイオード・高エネルギー変換効率パワースイッチング素子用GaN基板の酸性アモノサーマル法による実証」

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