メルセデス・ベンツW206型Cクラスのサスペンション——安藤眞の『テクノロジーのすべて』第72弾

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メルセデス・ベンツ新型Cクラス(W206)のデリバリーが、そろそろ開始される。モーターファンでも「新型Cクラスのすべて」を作成しており、そろそろ刊行されるころだ。いつもの通り、僕もメカニズム解説ページを担当させてもらったが、そこに書き切れなかった話を紹介したいと思う。
TEXT&PHOTO:安藤 眞(ANDO Makoto)

 新型Cクラスのメカニズムで僕が注目したのは、ジオメトリーの新しくなった前後のサスペンションだ。形式的には前ダブルウィッシュボーン(ベンツ流では“4リンク”)/後マルチリンクと変わっていないが、いろいろと興味深い変更が見られる。

 フロントサスのジオメトリーは、目視した範囲では違いはわからない。大きく変わっているのは、スタビライザーの配索方法だ。

 スタビライザーリンクの取付位置は、タイヤ入力点に近いほうが効率は高くなるから、なるべく外側に付けたい。ダブルウィッシュボーンなら、設計的にはナックルに付けられれば“松”、アッパーまたはロアリンクの最外端に付けられれば“竹”、ダンパーやスプリングより内側に付けているようでは“梅”である。

 しかし、フロントサスはストロークするだけでなく、転舵もするため、スタビライザーの配索スペースは非常に狭い。僕も現役設計者のころにはずいぶん苦労したが(CADも2Dしかなかったからねぇ)、ストロークしてもフル転舵しても干渉せずに通せる場所は、非常に限られるのだ。

 そういう目でCクラスのスタビを見ると、旧型は“梅”。ロアリンクのほぼ中央の、ダンパーがマウントされる内側に付いている。これではレバー比が悪いので、スタビを太くせざるを得ないし、入力時にはロアリンクのボディ側ブッシュに余計な力がかかり、フリクションが増す。初めて見たときは「ベンツでもこんな設計をするんだな」と思ったものだ。

 ところが新型となったW206系Cクラスは、スタビのリンクをナックルの上端、アッパーリンク取り付け点の隣に持ってきた。やはり従来型の設計の拙さは認識していたのだろう。ナックルに付けるには転舵に対応する必要があるが、ボールジョイントを上下軸にすることで解決を図っている。

 ベンツの設計コンセプト「最善か無か」に当てはめれば、W205が無なら、W206は最善である。

 リヤサスペンションの改良も興味深い。ベンツ式マルチリンクの特徴でもある交差式アッパーリンクをやめているのだ。

 この件については「新型Cクラスのすべて」にも書いているので、そちらを参照願いたいが、ヒントはトーコントロールリンクの位置。W205はアクスルより前に付いていたが、W206は後側に付いているのだ。これは後輪操舵の“リヤ・アクスルステアリング”を成立させる意図もあったはずだが、後輪操舵のない仕様でも、良い方向に作用している。

 さて、一連の取材を終え、外したホイールを装着し直してもらっているときに、もうひとつ興味深いことに気付いた。ホイールボルトは当然、トルクレンチで締めるのだが、自分の経験則より力を込めて締めているように見えたのだ。

 もしやと思い、「どのくらいのトルクで締めているんですか?」と聞いてみたら、150Nmというではないか。一般に国産乗用車は、小さいクルマでも大きいクルマでも相場は100Nm。車重やパワーの違いには、PCDや本数で対応するから、ボルトのサイズや強度は同じで締め付けトルクは変わらないのだ(そうすればボルトナットを共通化できる)。

 強いトルクで締めれば軸力が上がり、ホイールの締結剛性が高まって、微少操舵時の応答性も良くなる。そういえばレクサスISも、ホイールスタッドからホイールボルトに変更することで、サイズをM12からM14に上げていた。取材の際には締め付けトルクに言及はなかったが、もしかするとこちらも上げているのでは? と調べてみたら、103Nmから140Nmになっていた。

 ベンツがいつからそうしているのかまでは調べていないが、こういう細かいところでは、今でも日本車の一歩先を歩いているようだ。

著者プロフィール

安藤 眞 近影

安藤 眞

大学卒業後、国産自動車メーカーのシャシー設計部門に勤務。英国スポーツカーメーカーとの共同プロジェク…