連載

自動車エンブレム秘話

CHEVOLET CORVETTE

ユリの花が描かれた理由|クロスフラッグに込められた意味

コルベットはシボレーのモデルでありながら「ボウタイ」エンブレムを装着しない。
コルベットはシボレーのモデルでありながら「ボウタイ」エンブレムを装着しない。

アメリカン・スポーツカーの代名詞とも言えるコルベットは、誕生当初からブランド共通のエンブレムではなく専用の「クロスフラッグ」を掲げてきた。GM(ゼネラルモーターズ)グループの中でも、コルベットは明確に“例外”として扱われてきた。その特別な立ち位置は、エンブレムそのものにも表れている。

コルベットのエンブレムは、2本の旗が交差する独特のデザインを基本としている。そのうち1本は、モータースポーツの世界で勝利を意味するチェッカーフラッグ。もう1本には、シボレーの一員であることを示す “ボウタイ” とユリの花があしらわれている。

このユリは“fleur-de-lis” (フルー・ド・リス)と呼ばれる伝統的な意匠で、フランス語でユリの花を意味する。品格や伝統、誠実さなどを象徴するモチーフとして、フランス語圏では紋章に広く用いられてきたものである。コルベットのクロスフラッグに描かれたフルー・ド・リスは、フランス語圏(スイス)にルーツをもつ創業者ルイ・シボレーの出自を背景にブランドの成り立ちを示す象徴としてとり入れられている。

コルベットだけに与えられた「クロスフラッグ」

1953年に誕生した初代から、コルベットは独自のエンブレムを使用している(写真: GM Heritage Archive)。
1953年に誕生した初代から、コルベットは独自のエンブレムを使用している(写真: GM Heritage Archive)。

コルベットのエンブレムであるクロスフラッグは、量産スポーツカーとして誕生しながらも「走り」を強く意識していたモデルの性格と、シボレーというブランドの血統を、ひとつの図案に凝縮したものと言える。シボレーのモデルが一貫してボウタイを掲げてきたのに対し、コルベットは1953年に登場した初代モデルからあえて専用のクロスフラッグ・エンブレムを採用してきた。

これは単なるデザイン上の差別化ではなく、ブランド内での役割を明確に示す意思表示だったのだろう。コルベットは、シボレーの技術力と夢を象徴する旗艦モデルとして位置づけられていた。クロスフラッグは、その特別な役割を示すのにふさわしい“別格の印”だったのである。

時代とともに磨かれてきた象徴|歴代コルベットのエンブレム

初代コルベットのステアリングホイール中央に装着されたクロスフラッグ(写真: GM Heritage Archive)。
初代コルベットのステアリングホイール中央に装着されたクロスフラッグ(写真: GM Heritage Archive)。

クロスフラッグの基本構成は誕生以来70年以上にわたって受け継がれているが、その表現は時代ごとに進化している。1950年代のクラシカルで柔らかな造形から、近年のシャープで立体感の強いデザインへ。エンブレムの変遷を追うと、コルベットが常に「最新であること」を追求してきたことが感じられる。クロスフラッグは単なる装飾ではなく、デザインと技術革新の履歴書のような存在だと言えるだろう。

GMグループのブランドたち

GMは多様なブランドを所有している。グループ全体を統括するGMのエンブレムは、「GM」の2文字を配したミニマルなものだ。これは複数ブランドを束ねる企業としての中立性と、現代的な企業イメージを象徴している。

その一方で、GMCは明確な役割を担うブランドだ。力強い「GMC」のレタリングが示すように、同ブランドはピックアップトラックやSUVを主軸とし、耐久性や実用性、事業用途を強く意識した車種展開を行っている。エンブレムに装飾性はほとんどなく、「道具としての信頼性」をストレートに表現している点が特徴だ。

そうしたGMCとは対照的に、ビュイックはGMグループの中で伝統と上質さを担う存在である。3つの盾からなる「トライシールド」は、創業者デヴィッド・ダンバー・ビュイックの家紋に由来するとされ、ブランドの歴史と格式を象徴してきた。北米では比較的ラグジュアリーなブランドとして位置づけられ、その核にある「品格」がエンブレムによって表現されている。

キャデラックは、この連載の第27回で紹介したようにGMグループの頂点に位置する。貴族的な「クレスト」をルーツとするエンブレムは、アメリカン・ラグジュアリーの象徴として威厳を放ち続けている。

旗が語るコルベットという存在

コンセプトカーの"CX"と"CX.R ヴィジョン・グランツーリズモ"にもクロスフラッグが見える。
コンセプトカーの”CX”と”CX.R ビジョン グランツーリスモ”にもクロスフラッグが見える。

こうしてGMグループの各ブランドを俯瞰すると、コルベットのクロスフラッグが「シボレー」というブランド名を前面に出さず、モデル単体で思想を語る独特な存在であることがわかる。勝利を意味するチェッカーフラッグと、ルーツを示すもう一つの旗。それらを交差させたクロスフラッグにはアメリカン・スポーツカーの理想が掲げられているとともに、コルベットが「特別であり続ける理由」を語っているようだ。

現在、日本では「コルベット」のみが販売されているシボレー。

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シボレー(Chevrolet)を象徴する“ボウタイ”エンブレムは、ピックアップトラックからスポーツカー、SUV、EVに至るまで、車種や時代を超えて掲げられてきた。100年以上にわたりアメリカの自動車産業を支えてきたシボレーブランドにおいて、このシンプルな形状は単なる装飾ではなく、ブランドの歩みや価値観を映し出す存在でもある。今回は、GMを支える中核ブランドとしてのシボレーの歴史を踏まえながら、“ボウタイ”エンブレムの誕生と変遷、その意味を紹介する。

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