GSX-8TTは、スズキが送り出したミドルクラスのネオレトロスポーツだ。同時に登場したネイキッドモデルのGSX-8Tと同様に、車体とエンジンの基本構成をGSX-8S系と共有している。その走りはどのようなものなのか。GSX-8Tとの違いなども含めて説明していくことにしよう。

往年のレーシングマシンをオマージュ

GSX-8TTのデザインは、T500などスズキの歴史的モデルから着想を得たネオレトロスタイル。GSX-8Tにヘッドライトカウルやアンダーカウルを追加。ビリヤードのエイトボールをイメージした8のエンブレムを装着している。カラーリングも1970〜80年代のロードレーサーをイメージしたものだ。

他メーカーのネオクラシックモデルのように、歴代の名車を強く直接的に再現するのではなく、エッセンスを取り入れながらも過度な懐古主義には走っていない。そのあたりにスズキのネオクラシックに対するスタンスが表れているように感じられる。デザインのベースはイタリアで描かれ、それを日本で最終的なパッケージへまとめ上げたという。

エンジンは、これからの時代を見据えて開発された776ccの水冷並列2気筒270度クランク。ロングストローク気味の設定により、実用域での力強さと高回転での吹け上がりを両立し、コンパクトにまとめることで軽快なハンドリングにも寄与している。

これまでスズキがこのクラスで販売してきたSV650は、コストパフォーマンスに優れたモデルとしてヨーロッパで人気を集めてきた。一方でGSX-8TTは、ライバルと比較してもやや高めの価格設定となっている。性能や質感、装備で勝負する方向で開発されただけに、電子装備も充実している。3段階のトラクションコントロール、モードセレクター、電子制御スロットル、双方向クイックシフター、ローRPMアシスト、イージースタートシステムなどを搭載する。

全長2115mm、全幅775mm、全高1105mm、最低地上高145mm。ネオクラシックな外観をまといながら、寸法とパッケージは現代のミドルスポーツそのものだ。フレームはスチール製で、GSX-8系プラットフォームらしい高い直進安定性と軽快性を両立している。

ホイールベースは1465mm、キャスター角は25度、トレールは104mmに設定される。8TTにはホイール色と連動したストライプや専用3D“8TT”ロゴが与えられ、8Tとの差別化が図られている。国内メーカー希望小売価格は138万6000円だ。

ストリートで感じた完成度の高さ

最初に走らせたのはストリートだった。ここで感じたのは、扱いやすく、しかも力強い、とても乗りやすい特性である。トップギアで3000rpm前後のクルージングをしていても、十分なトルクがあるため余裕があり、適度なツインの鼓動感とともに走っているだけでも楽しい。低中速トルクが非常に太いため、追い越しのような場面でも高いギアのままスロットルを開けるだけで加速してくれる。バランサーの効果も高く、776ccのツインでありながら高回転まで回しても振動は少ない。非常に完成度の高いエンジンだ。

クイックシフターはアップ/ダウン両対応の双方向タイプだが、ある程度速度が出ていないとシフト時のショックがわずかに出る場面もある。基本的にはスポーティな走行時に使うことを想定しているようで、不要なときはスイッチでオフにできるのだが、テスターは街乗りでもクィックシフターを使って走った。低速でも不快なほどのショックがあるわけではなかったからだ。

市街地でクルマの後ろについてゆっくり走ったときに気になったのは、スロットルを戻した際の駆動系のショックである。開け始めはスムーズにパワーが出る一方、戻した瞬間にはツインらしいエンジンブレーキが立ち上がり、さらにチェーンを含めた駆動系の遊びもあって、カツンという感触を覚える場面があった。パワーモードを変更してもエンジンブレーキの効き方に大きな変化は感じられなかった。スロットルを丁寧に戻せば問題はないが、頻繁に加減速を繰り返す状況では少し気になった部分である。

ワインディングで印象が大きく変わる

市街地では乗りやすいバイクというイメージが強かったのだが、ワインディングでペースを上げていくと印象は大きく変わった。予想もしていなかったくらいにスポーティな面が顔を出してきたのだ。スロットルを大きく開けたときの加速は実に力強く、厚みのあるトルクで車体を前へ押し出していく。3500rpmも回っていればかなり力強い領域に入るので、立ち上がりで多少回転が落ちていても、スロットルを開ければ猛然とダッシュしていく。ミドルクラスらしい扱いやすさを残しつつ、ビッグバイクに迫るくらいの力強さを感じさせる。

試乗場所によって印象が変わったということは、裏を返せばスロットルの開け方によってフィーリングが大きく変わるということでもある。右手の操作に応じて自在にパワーを引き出せる感覚があり、そこにこのエンジンの面白さがある。なお、これはBモードでの話だ。Aモードを選ぶとさらにパワフルになり、パワーの立ち上がりが鋭く、レスポンスもよりダイレクトになる。ただし、開け始めから力が強く出るぶん、ストリートで普通に走るときにはやや扱いにくく感じる場面もある。スポーティに走りたいとき向けのモードと考えるのが自然だろう。

コーナリングでは、フロントまわりの安定感が高く、それが大きな安心感につながっている。イメージしていたよりもわずかに外へラインが広がるような感覚はあるが、それが神経質さのない安定感にもつながっている。GSX-8Tとの差は、ハンドリングに関して言えばほとんど変わらない。ヘッドライトカウルのぶんだけバンク初期のステアリングレスポンスがわずかに穏やかになったようにも感じられるが、もともと安定感のある車体だけから違いも出にくい。

ツーリングペースでワインディングを流すぶんには非常に素直だが、ペースを上げていくと、ある段階からはフロントを積極的に曲げていく意識が必要になる。バイク任せでも走れるが、それだけでは引き出し切れない奥行きがある。こここそがGSX-8TTの面白いところだろう。フロントフォークは比較的しっかりしたセットで、ブレーキングで荷重をかけ、そのままフロントを使って向きを変えていくような走らせ方ができれば、この車体のポテンシャルをさらに引き出せるかもしれない。

ストリートを普通に走っているときには、完成度こそ高いものの、突出した個性はまだ見えにくい。しかし、コンパクトな車体と高いコーナリングポテンシャル、そして中速域から厚く盛り上がるトルクによって、ワインディングでは非常に楽しく走れるバイクだということが分かった。ネオクラシックとしても、ネイキッドスポーツとしても、非常に魅力的な1台である。

ポジション&足つき(身長178cm・体重78kg)

ポジションは軽い前傾で、ストリートでもツーリングでも疲れは少ない。ミドルクラスとして特別にコンパクトな車体ではないが、またがると数値以上にコンパクトに感じられる。ビッグバイクビギナーでも扱いやすいサイズ感だ。

シート高はGSX-8Tの815mmに対して810mm。数値上はわずかに低いが、実際にまたがった印象では大きな差は感じにくい。このクラスでは平均的な数値といえる。テスターの体格では両足のかかとが接地し、ひざも軽く曲がる。装備重量は203kgで、ビッグバイクとしては取り回しも比較的しやすい部類に入る。

ディテール解説

フロントタイヤは120/70ZR17M/C(58W)のチューブレス。純正装着はダンロップSPORTMAX Roadsport 2で、軽快な切り返しと安定した接地感のバランスを狙っている。

 

フロントブレーキはφ310mmダブルディスクにラジアルマウント4ピストンキャリパーの組み合わせ。ABSを標準装備している。

 

エンジンは776ccの水冷DOHC並列2気筒。ボア×ストロークは84.0×70.0mm、圧縮比は12.8:1で、最高出力は82.9PS(61kW)/8500rpm、最大トルクは78Nm/6800rpmを発生する。

 

270度クランクを採用し、SV650系を思わせる鼓動感のあるフィーリングを狙った最新776ccツイン。2軸一次バランサー「スズキクロスバランサー」により、コンパクトさと低振動を両立している。8TTには専用アンダーカウルが標準装備され、8Tよりもスポーティでレーサーライクな印象が強くなっている。

 

トランスミッションは6速。クラッチにはSCAS(スズキクラッチアシストシステム)を採用し、双方向クイックシフターも標準装備する。走行中はクラッチ操作なしでシフトアップ/ダウンが可能だ。

 

排気系は2-into-1レイアウトを採用し、コレクター内部に2段式触媒を内蔵してEuro 5+に対応。外側にはステンレス製マフラーカバーを装備し、質感とヒートシールド機能を両立している。

 

リアサスペンションはKYB製リンク式モノショックを採用。アルミ製スイングアームと組み合わせ、直進安定性とコーナリング時のコントロール性を両立する。リアショックはプリロード調整機構付きだ。リアタイヤは180/55ZR17M/C(73W)。

 

リアブレーキはφ240mmシングルディスクに1ピストンキャリパーを採用。フロントの強い制動力を補いながら、車体姿勢の安定と速度調整を担う。

 

シートは1960〜70年代風のタック&ロールデザインを採用しつつ、内部には高密度フォームを使用。シート高は805mmで、前方を絞った形状により足着き性にも配慮されている。

 

リアシートを外すと故障診断用カプラーにアクセスすることができる。

 

8TT専用のヘッドライトカウルは、1970年代後半〜1980年代初頭のミニフェアリング付き車をイメージしたもの。単なる飾りではなく、高速域での風圧低減や防風性の向上にも寄与するとされる。

 

ハンドルはテーパー形状のアルミバーを採用し、アップライトでコントロールしやすいライディングポジションを実現。バーエンドミラーと組み合わせることで、クラシック感と後方視界の確保を両立している。

 

左スイッチボックスには藻へどの切り替えとライトの上下、ウインカー、ホーンボタンがある。MODEのボタンを押し、矢印でセレクトするだけなのでモード切替の操作は簡単だ。

 

赤いノブはエンジンストップと一体になったスターターボタン。下はハザードランプのスイッチ。電子制御スルットルなのでスロットルワイヤーは存在しない。

 

メーターは5インチカラーTFT液晶。ネオレトロな外観に対し、表示系は現代的。速度・回転数・ギヤ・燃料・時計・水温・外気温・電圧・燃費・航続距離・各電子制御の状態・警告などを表示する。

 

テールランプはLEDを採用。ウインカーもLEDを採用。全体のネオレトロデザインを損なわないよう、コンパクトで軽快な印象にまとめられている。

主要諸元

型式 8BL-EM1AA
全長 / 全幅 / 全高 2,115mm / 775mm / 1,160mm
軸間距離 / 最低地上高 1,465mm / 145mm
シート高 810mm
装備重量 ※1 203kg
燃料消費率 ※2 国土交通省届出値:定地燃費値 ※3 34.5km/L(60km/h) 2名乗車時
WMTCモード値 ※4 23.4km/L(クラス3、サブクラス3-2) 1名乗車時
最小回転半径 2.9m
エンジン型式 / 弁方式 FRA1・水冷・4サイクル・2気筒 / DOHC・4バルブ
総排気量 775cm3
内径×行程 / 圧縮比 84.0mm × 70.0mm / 12.8:1
最高出力 ※5 59kW〈80PS〉 / 8,500rpm
最大トルク ※5 76N・m〈7.7kgf・m〉 / 6,800rpm
燃料供給装置 フューエルインジェクションシステム
始動方式 セルフ式
点火方式 フルトランジスタ式
潤滑方式 圧送式ウェットサンプ
潤滑油容量 3.9L
燃料タンク容量 16L
クラッチ形式 湿式多板コイルスプリング
変速機形式 常時噛合式6段リターン
変速比 1速 3.071
2速 2.200
3速 1.700
4速 1.416
5速 1.230
6速 1.107
減速比(1次 / 2次) 1.675 / 2.764
フレーム形式 ダイヤモンド
キャスター / トレール 25° / 104mm
ブレーキ形式(前 / 後) 油圧式ダブルディスク(ABS) / 油圧式シングルディスク(ABS)
タイヤサイズ(前 / 後) 120/70ZR17M/C(58W) / 180/55ZR17M/C(73W)
舵取り角左右 35°
乗車定員 2名
排出ガス基準 平成32年(令和2年)国内排出ガス規制に対応
  1. 装備重量は、燃料・潤滑油・冷却水を含む総重量となります。
  2. 燃料消費率は、定められた試験条件のもとでの値です。お客様の使用環境(気象、渋滞等)や運転方法、車両状態(装備、仕様)や整備状態などの諸条件により異なります。
  3. 定地燃費値は、車速一定で走行した実測にもとづいた燃料消費率です。
  4. WMTCモード値は、発進、加速、停止などを含んだ国際基準となっている走行モードで測定された排出ガス試験結果にもとづいた計算値です。走行モードのクラスは排気量と最高速度によって分類されます。
  5. エンジン出力表示は「PS/rpm」から「kW/rpm」へ、トルク表示は、「kgf・m/rpm」から「N・m/rpm」へ切り替わりました。〈 〉内は、旧単位での参考値です。