走行安定性における知見の集大成!人類の悲願を30年前に実現
土砂降りの信号待ち。グローブ内はすでにビショビショ、カッパ(レインウェア)の継ぎ目からじんわりと雨水が染み込む。シールドは水滴で見えない……。こんなときバイク乗りは隣に停車したクルマを見ながらこう思うだろう。「あー、せめて屋根があったらなあ」。そんな人類共通の悲願を達成したモデルが過去にあった。ホンダの「キャビーナ90」だ(50㏄モデルも有)。
新設計フレームに89年にモデルチェンジを受けたリード90系エンジンを搭載。一人乗り専用のソファシートと金属ポールで支持された屋根、ポリカーボネート製スクリーン(ウォッシャー付きワイパーも装備)という車体構成だった。これは量産市販車としては初めて二輪車に採用された装備である。
当時の筆者はリード90を所有しており、最高速はメーター読みで82km/hをマーク!していた。なので、人類史上これまでにないパーソナルコミューターが誕生したと歓喜するのと同時に、「これで80km/h出して大丈夫?」と、一抹の不安がよぎったのを覚えている。というのも、筆者は当時アルバイトで社外製のルーフを装着した三輪スクーターの「ジャイロX」を運転していたことがあり、かの三輪でも40km/h程度で横風にあおられてふらつくことがあったからだ。
しかし、そんな不安をホンダは見事にクリアしていた。以下、発売から10年後に程度良車を個人売買で手に入れた筆者のインプレッションだが、まず嬉しいのは670mmという低いシート高。普通よりちょっぴり短めそして足の短い筆者でも余裕で両足が届く。それにもかかわらず、シート下収納スペースは36ℓと大容量。テニスラケットも入る広さがあった。
エンジンは、空冷2サイクルを搭載し車重が110kgもあったたためスタートこそ出足で多少もたつくものの、巡航速度や最高速はルーフのないリード90とほぼ同等!だったのには驚いた。しかも全速度域に渡りルーフの重さや風の影響は感じることがほとんどないという、魔法のようなコミューターに仕上がっていたのだ。
なぜこのようなマジックをホンダは達成することができたのか? これは、86年に発売された、同社「フュージョン(250㏄のビッグスクーター)」の技術知見が使われたというのが持論だ。
フュージョンはリヤ寄りの重量配分に加えて、バネ下の重いユニットスイング、さらにエンジンマウントは防振リンクを介しており剛性を出すのは難しい。これを2人乗りで高速巡航させることは至難だったに違いない。その結果、同エンジンを積む10インチスクーターである「フリーウェイ」に対し、長いホイールベース、前12インチに後ろ10インチという異径ホイール、太いタイヤを採用している。
キャビーナ90とリード90 を比べると、ホイールベースはキャビーナのほうが45mm長く、ホイール径の組み合わせはリード90の前後10インチに対して、フュージョンと同じフロント12、リヤ10インチ。タイヤはリード90の前後100/90‐10サイズに対し、フロント100/90‐12、リヤ110/80‐10と、リヤタイヤを太くしており、フュージョンの特徴と合致している。ちなみに後ろにどっかりと座るシッティングポジションまでフュージョンとほぼ同じである。
その結果、キャビーナは「バランスの取りにくいスクーターをうまく走らせる」という知見をうまく生かし、希代の走行安定性を獲得している。 つまりキャビーナは単なるキワモノ的スクーターではなく、80年代のホンダが独自に培った、スクーターの走行安定性における知見の集大成と言えるモデルなのだ。レーサーレプリカでいえばNSR、しかもプロアーム最終モデルに匹敵するテクノロジーの塊と断言していい(あくまで筆者の意見です)。
他社から追従モデルが出なかったのは決してセールス上の問題ではなく、技術的な問題であった……そう思うのは筆者だけだろうか。
パーフェクトと思われた“キャビちゃん”の弱点とは
走行安定性との兼ね合いか、実際に雨の中を走るとルーフは小ぶりすぎて、肩口は普通に濡れる。また、車重に対してドラムブレーキでは不安を覚えることがあり(実際にはきちんと停止できるのだけれど)、ヘビーカスタマーの間では、スズキZZの12 インチ×ディスクブレーキに換装するブレーキ強化が密かに流行ったものであった。
そんなネガティブ面がありながらも、「屋根がある」という安心感はやはり絶大。リード90の駆動系パーツが使えるため、まだまだ延命可能なキャビーナ90。もし機会があればホンダスクーターテクノロジーの粋を味わってほしい。
SPECIFICATIONS
■エンジン:空冷2スト単気筒(89㏄) ■最高出力:8.2㎰/6750rpm
■重量:110㎏ ■当時価格:29万9000円
※この記事は月刊モトチャンプ2022年5月号を基に加筆修正をしています



![by Motor-Fan BIKES [モーターファンバイクス]](https://motor-fan.jp/wp-content/uploads/2025/04/mf-bikes-logo.png)