ただのヒットモデルじゃない!タクトは “スクーター時代” の始まりにいた
1980年に登場したタクトは、それまでの“ソフトバイク”の延長ではなく、ひとつの完成されたコミューターとして登場したモデルだった。
開発コンセプトは明確で、「経済的で便利な乗り物」。これまで二輪車にあまり関心のなかった人たちも含め、ハイグレードで幅広いファッション感覚をもち、所有することの喜びを満たしてくれて、かつ省エネルギーに適した“乗りもの”を期待する人たちへ市場が広がることを予測して開発。
初代タクトは、軽量でコンパクトな車体に広いフットスペース、セル始動(当時はキック始動が一般的だった。そのため女性や不慣れな人にとって始動性が悪いとバイクを諦めてしまうことも)、扱いやすい操作系と、日常で使うための機能が高いレベルでまとめられていた。
当時の資料によると販売計画はなんと月1万5000台! この数字からも分かるように、ホンダは“スクーターの時代が来る”ことを見据えていたのである。その読みもズバリ的中。タクトは“良心的”な存在として受け止められた。

1980年9月に登場した初代タクト(画像はキック式のDX)
ファミリーバイクの普及を背景として、経済的に便利な乗り物として、コンパクトでゆったりと乗れる扱いやすいスクーターとして誕生。パワートレインは、2スト空冷単気筒エンジンを採用し、最高出力は3.2psを発揮する。
100万台という数字がすべてを物語る
タクトの本当のすごさは、数字を見るとよく分かる。1982年時点でシリーズ累計は約72万台。そして1984年頃には累計100万台を突破している。
わずか数年でこの規模。さらにニ代目タクトでは販売計画が月3万台規模へと拡大。いや、これはもう“人気車”のレベルじゃない。ホンダ自身も「スクーター時代を作り上げた」と表現しているが、この数字を見るとむしろ納得しかない。タクトは売れていたというより、市場そのものを押し広げていく存在だったのだ。

1982年9月にフルモデルチェンジして二代目に(画像はタクトフルマークカスタム)
初代タクトと比較して、シャープな線と面で構成したデザインを採用。一体化したヘッドライトとウインカーランプやリアコンビネーションランプが、乗用車感覚のスタイルを強調。2スト空冷単気筒エンジンは新設計され、最高出力は4.0psを発揮する。
“便利+デザイン”で一気に広がったタクト
タクトがここまで支持を広げた理由は、実用性だけではない。1982年発売のニ代目ではデザインが洗練され、燃費性能も76km/ℓ→100km/ℓへ向上。さらに1984年発売の三代目では、親しみやすさとファッション性を意識したスタイルへと進化していくのである。
その三代目発売の翌年となる1985年にマイナーチェンジ版として登場したのが、タクトの名をより一層世間に知らしめた【クレージュ・タクト】通称“クレタク”だ。補足すると、クレージュ・タクトというモデル自体は、1983年に初登場しており、こちらは1985年モデルの三代目。三代目のほうが丸みを帯びたデザインでそれがウケた。
フランスのファッションブランド「COURREGES(クレージュ)」とのコラボによって生まれたこのモデルは、パステルカラーをまとったボディと専用デザインを採用。それまでのスクーターとは明らかに違う、“ファッションとしての1台”だった。 ※その後は専用ヘルメットやブルゾンといった関連アイテムも展開され、単なる移動手段ではなく“スタイル”としての価値を提案していたのも特徴だ。資料によると販売計画は限定1万台。当時としては決して多い数字ではないが、それでも強い印象を残したのは、このモデルがそれまでにない価値を提示していたからだろう。
便利なだけじゃない“持っていること自体が楽しい”そんなスクーターのあり方を、タクトはこの時点でしっかり形にしていた。だからこそクレタクは、今でも語られる存在になっている。

1984年5月にフルモデルチェンジして三代目に(画像はタクトフルマークカスタム)
二代目タクトと比較して、曲線と直線を基調とした親しみやすいマイルドデザインを採用。フロントパネルの内側に新たにキーロック付きのインナーボックスを新たに採用。MF(メンテナンスフリー)バッテリー、ハロゲンヘッドライト(30W/30W)などを標準装備とした。2スト空冷単気筒エンジンは、最高出力5.0psを発揮する。

三代目のマイナーチェンジ版として1985年に登場。 エンジンは吸排気系を改良し、最高出力は5.0ps→5.4psまでアップしている。
王道なのに、ちゃんと“時代の顔”も持っていた
タクトは王道モデルでありながら、その時代の空気をしっかり取り込んでいた。
1985年(三代目)の改良では最高出力を5.4PSへと高め、装備もさらに充実。1986年には実用性をより高めた【タクトフルマークS】が登場(四代目)。そして1987年には、フルフェイスヘルメットも収納できる大型センタートランク「メットイン」を内蔵した新型スクーターとして、【タクトフルマーク】が登場するのだ(五代目)。さらに1989年には、世界初となる電動式オートスタンドを装備した六代目が登場。トップアイドルの“キョンキョン”こと小泉今日子をイメージキャラクターに起用したことも話題になった。
タクトは“実用車”の枠を超え、しっかりと“時代の顔”を持つ存在へと進化していったのである。

1987年1月にフルモデルチェンジして五代目に。フロントインナーボックスやリヤキャリアはもちろん、シート下にはフルフェイスヘルメットが収納できるスペースを確保。機能スペースを充分に確保しながらも、フラッシュサーフェイスの流麗なスタイルにまとめ上げている。2スト空冷単気筒エンジンは、最高出力5.8psを発揮する。

1989年3月にフルモデルチェンジして六代目に。市販車として世界で初めて駐車時のスタンド掛け操作を、キー操作だけで行える電動式オートスタンド(スタンドアップ機構)を採用。2スト空冷単気筒エンジンは、最高出力6.0psを発揮する。
そして今も、“ちゃんとしている”
タクトはその後もモデルチェンジを重ね、現在までラインナップを継続している。
2015年モデルでは「ニュースタンダードスクーター」を掲げ、エンジンは空冷2ストから水冷4ストロークeSPエンジンとなり燃費は80km/ℓを実現。年間販売計画は4万5000台と現代でもしっかり支持されている。
派手さはない。でも使いやすくて、ちゃんと頼れる。タクトは、強烈な個性で語られるモデルではないが、気がつけばそこにいる相棒のような存在。
1980年の初代から月1万5000台 → 月3万台 → 累計100万台へと広がり、スクーターという文化そのものを支えてきたタクト。「実用性・上質感・時代に合わせた進化」それを積み重ねてきたからこそ、今も現役でいられるのだろう。“やっぱりタクトってちゃんとしてたよな”そう思わせる説得力が、このシリーズにはあるのだ。

2015年3月に登場。張りのある大きな曲面を基調に、厚みのある立体的なデザインを採用。シート下には20ℓのトランクを設けヘルメットの収納を可能に。アイドリングストップ機構など環境性能も高い。優れた燃費性能で軽快な走りをかなえる4スト水冷エンジン「eSP」は最高出力4.5psを発揮する。
※この記事は月刊モトチャンプ2025年3月号を基に加筆修正を行っています
![by Motor-Fan BIKES [モーターファンバイクス]](https://motor-fan.jp/wp-content/uploads/2025/04/mf-bikes-logo.png)