当時のスズキは10インチ車と12インチ車が揃う充実ぶり
アドレス110と聞いて姿形をすぐに思い出せる読者は、いまでは少なくなったと思う。1998年に登場した2ストスクーターだが、併売していたアドレスV100の陰に隠れてしまい、7年の寿命を全うしたモデル(2型までアリ)。フリークの間では「アドイチ」という愛称で呼ばれることも多い。
搭載するエンジンは、低速から力強いトルクを発揮する新設計の空冷2ストローク113㏄。50ccモデルとは違ってゆとりあるボディを持ち(※スズキではミドルスクーターと称した)、前後12インチホイール、27ℓのシート下収納など、そのスペックは現在の基準に照らしても遜色ない原付二種スクーター(二種スク)である。
ではなぜこの優秀なモデルが7年で消えてしまったのか? それは、当時のユーザーが「原付並みの小さな車体にパワフルなエンジン」を求めていたからだろう。大柄なボディはビッグスクーターで。原付二種はアドレスV100が最良だったというわけだ。
ちなみに98年当時のスズキの原付二種以上のスクーターを見てみると、スカイウェイブ250/400、アヴェニス125/150、ヴェクスター125/150、アドレスV100、アドレス110と、とても贅沢なラインナップ。
もしかしたら、スカイウェイブシリーズを筆頭に、12インチ以上を標準ホイールサイズと決め、二種スクのラインナップを刷新する計画があったのかも。しかしながら、アヴェニス、そしてアドレス110は、自社10インチ勢(ヴェクスターシリーズとアドレスV100)のほうが人気が髙かった。そしてアドレスV100のパッケージは4ストエンジン化して、アドレスV125として長く愛されていくのである。
走行性能は群を抜いてエキサイティング!
当時のニーズのど真ん中ではなかったアドレス110だが、筆者はここに断言したい。コイツの走行性能は当時の90〜125ccスクーターのなかで、群を抜いてエキサイティングだったと。
これは独自のフレーム形状から来ていると思う。今では普通となった足元のトンネル形状が効いていて、ステム周りからリヤまでしっかりとつながっている感覚がある。しかもバッテリーという重量物をフロントカウル内に収めるという画期的なレイアウトで前後重量配分を調整(一般的にスクーターは極端なリヤヘビー)。モーターサイクルのような「操る喜び」を感じさせてくれた。
また、荒れた路面やコーナーリングでは破綻限界が実に分かりやすく、同時期に所有していたBMW・K100RSを差し置き、奥多摩まで週末ツーリングに使っていたほどだ。
すっかり虜になってしまった筆者は、スチールホイールを採用する1型と、アルミホイールを採用する2型を新車で購入し、6年間乗り継いだ。2型ではスクリーン付け根にゴムを噛ませビビり音を改善。さらにシート表皮の改良(滑りやすかった)や、エンブレムの立体化、クリアレンズウインカー採用など変更は多岐に渡っていた。もし買うなら2型がおすすめだ。ただセッティングなのか加速や最高速は1型のほうが良かったような気がするけれど。
話は戻るが乗り味については筆者に特異な経験がある。3年前に別のスクーターでほぼ同じ乗り味を体験したのだ。アドレスV100の兄貴分、ジェンマクエスト90(1986年登場)がソレだ。
モトチャンプの企画で中古車を試乗した際、「あれ?昔どこかで……」と感じ、記憶の中で神格化されたアドレス110のライディングフィールと即時直結した。80年代初頭の軽量スクーター、蘭、薔薇に対し、高級感を追求したジェンマクエスト90が、なぜ「操る喜び」を持っていたのか。
以下は筆者の想像なのだが(語りたい)、80年代中盤はファッションスクーター(DJ・1やHi)の高性能化、スポーツイメージ付加が進んだ時期。ジェンマは同80㏄からのモデルチェンジにあたり、時流に合わせ、いわゆるスポーツ性を高めてきたのではないだろうか。その結果、希代の走行性能を持つクエスト(制覇という意味)90が完成した。が、これは4年の短命で、アドレスV100にとってかわられるという運命を辿った。シート下収納という時流に飲まれ、ジェンマクエスト90は走行性能を十分にアピることなく、引導を渡されてしまったわけである。
そんなジェンマクエスト90と運命すら共通するアドレス110の走行性能の高さは、クエスト90開発陣の、V100に対する「リベンジ」だったのかもしれない。しかしそのリベンジは成功せず10インチ天下が続くことになったわけだ。
2スト50cc全盛期が終わり、4スト化へ移行していた2000年代、国内モデルの2ストスクーターでは最大排気量マシンとなるアドレス110。タマ数は少ないかがら程度の良いモデルも今ならまだ探せる。買うなら急いだほうがいい。
SPECIFICATIONS
■エンジン:空冷2スト単気筒(113㏄) ■最高出力:10㎰/6000rpm
■重量:90㎏ ■当時価格:23万9000円
※この記事は月刊モトチャンプ2022年6月号を基に加筆修正をしています


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