世界最高峰の足「ビルシュタイン」を日本で支えた「阿部商会」

ビルシュタインと言えば、泣く子も黙る世界最高峰の足回りという印象を持つ人が多いのは間違いない。

ブルーとイエローのイメージカラーが印象的な世界最高峰のサスペンション「ビルシュタイン」。

日本に1台の“前線基地”!? ビルシュタイン「サポートバス」とは? 画像ギャラリー

1954年、創設者オーガスト・ビルシュタインの息子ハンス・ビルシュタインは、フランスのド・カルボン博士の考案したガス封入式ダンパーの原理を数々の開発実験を経て実用製品化に成功。1957年、実用化されたガス封入式単筒ダンパーはメルセデス・ベンツに採用され、その高性能に対する評価を不動のものとしていく。

1960年代より、モータースポーツにも歴史を刻むこととなる。1967年にはニュルブルクリンクADAC1.000Kmにて、ポルシェに装着され勝利へと導いたことから始まり、ル・マン24h、F-1、NASCARなど、世界のトップカテゴリーのレースやラリーで輝かしい結果を残し続けていった。

とは言え、日本国内で、海外におけるモータースポーツシーンでの活躍や純正採用のストーリーだけで、マニアックな足回り部品が「知る人ぞ知る」ではなく、「誰もが憧れる」ブランドと導いたのは、その輸入販売を続けてきた「阿部商会」の存在だ。

阿部商会の創業はビルシュタインよりも古く、1948年、東京神田に、株式会社阿部商会を設立したことに始まる。わずか戦後3年目のことだ。そこから自動車に関する世界中の「良いもの」だけを日本のマーケットに届けてきた。

ちなみに今年還暦となる筆者は、子供の頃から阿部商会の輸入販売するタイヤ、ホイール、補助ライトなどのブランドを自動車雑誌で知り、憧れ、いつか自分の愛車を手に入れたときには装着したいと夢見させてもらい育った自動車少年だった。この場を借りて、感謝を述べたいほどだ。

日本に1台の動く開発拠点「サポートバス」

そのように歴史に裏付けされた確かな選択眼と技術力を持つ両社はお互いにリスペクトし合うのは当然であり、日本車向けビルシュタインの展開については、阿部商会にその開発を任されているという。

そのための「移動開発拠点」となる「サポートバス」が今回のシン・モーターファンフェスタで公開された。

サイドにスライドアウトする「開発現場」を有する日本に1台のビルシュタイン「サポートバス」。

見た目にはキャンピングカーか、あるいはレントゲン車か?と思わせるような外観だが、荷台部分には横方向へスライドアウトして大きく拡張するルームが設えてあり、そこで様々な作業が可能となる。撮影はある程度制限されたが、見せていただいた「開発現場」は想像以上に整然としており、その場でダンパー内のシムを入れ替え減衰力を変えたり、オイルやガスの交換、計測など、本来なら「ファクトリー」あるいは「R&Dセンター」でやるようなことを、現場に横付けしたサポートバス内で瞬時に対応することが可能なのだ。

自動車メーカーのテストコース、あるいはサーキットのピット横で、テスト車両が帰ってくるたびにすぐ仕様変更や計測と行うことができる。「持ち帰って変更した仕様を次のテストにお持ちします」なんて悠長なことを言わずに済むし、テストコースやテストドライバー、その他スタッフ、それぞれの交通費さえも、時間とともにコスト面でも大幅に軽減できると想像がつく。

最新のビル足は乗り心地と愉しさを両立

さて、そのような歴史を持ち、日本市場にも大きな力を入れてきたビルシュタインが仕上げた最新の足回りを試させて頂く機会を得た。

まずはBMW M2。装着されるビルシュタインは、「EVO SE」。電子制御式システムに対応した車高調整式サスペンションだ。

ビルシュタイン「EVO SE」を組み込んだBMW M2。

その特徴は、ノーマルで電子制御サスペンション装着される車両において、その純正モニターなどを利用して切り替える電子制御ユニットをそのまま利用し、ビルシュタイン交換後もドライブモードを純正同様に制御できる部分にある。

M2の場合、「COMFORT」「SPORT」「SPORT PLUS」の三段階に減衰力調整が可能となっている。もちろん、COMFORTがもっともソフトであるが、それでもシッカリとしたスポーツを楽しめる足に交換されていることは伝わってくる。

純正モニターによるドライブモードの切り替えが可能だ。

けれど、それは決して不快なものでなくコンフォート性能を活かし、むしろ段差の乗り越えなどの初期の当たりはかなりマイルドに感じた。その初期の感覚は、SPORTでも変わらずしなやかな感覚は残したまま、ロールやピッチが素早く受け止めるように感じる。

さすがにSPORT PLUSでは初期からグッと路面の変化を伝えるが、それでもいわゆるチューニングカーの跳ねるようなお行儀の悪さとはまったく違い、あくまでも高性能なレースマシンに近づく印象。富士スピードウェイレベルの国際規格高速サーキットを攻めるのに最適な動きを伴うだろうと想像できる。

さらに驚いたのが、B14/車高調整式サスペンションキット・コンフォートスペックを組み込んだABARTH595の乗り味だった。よくMINIの走りを「ゴーカート感覚」と表現されるが、それをさらに機敏に、楽しさを増したような感覚が印象的だった。そう聞くと「ヒョコヒョコとした落ち着きのない動き」を想像するかもしれないが、それがまったく逆なのだ。

ABARTH595の乗り心地が良くなり、なおかつ走りが愉しくなる。ローダウンスタイルも魅力的だ。

普通に走る限り、乗り心地が良くなったことと、足がシッカリ動いていることが伝わってくる。にも関わらず、「やや軽くなったかも?」と感じるようなステアリングを切るとスパッと向きを変えてくれる。そのギャップが愉しすぎて、マニュアルのトランスミッションとともにずっと乗っていたくなる。

FIAT500やABARTH595は、リヤサスの正しい動きを担保しながらローダウンするのが困難とされるが、それらを両立させているのも嬉しい。

足回り交換というと、スポーツ性を狙って乗り心地はある程度犠牲になるもの…そういった考えは今や大昔の遺物。最新のビルシュタインならば、乗り心地を犠牲にするどころか、むしろ快適も得られながら、しっかりと楽しめる足回りが手に入る。ビルシュタインの足回りは、阿部商会が80年に迫る経験から得た間違いない選択肢であることが、とても良く理解できた試乗だった。