KOVE・450EnduroRe……100〜110万円(予価)

ラリーで築いた「オフ」の評価

KOVEといえば450ラリーのイメージが強いのではないだろうか。450㏄のシングルは42PSを発揮し、30Lの燃料タンクを備えるとともに過酷なラリーレイドを走り切るべく耐久性も重視された設計で、他社では見られない独自性がファンに広く受け入れられた。事実、ツーリングマシンとしても、そしてそのツーリング先のオフロード路を本格的に楽しむにもうってつけの構成で熱狂的なフォロワーも多い。

この450ラリーに加え、パラツインの800ラリーなどラインナップを増やしたことでますますKOVEは「オフ車」のイメージを強めている。そんな中、新たにデビューを控えているのがこの450 Enduro Re。コンペモデル感全開なのはラリーと同様だが、こちらは「エンデューロ」という車名どおり、ラリーよりも軽量に、よりコンペ志向に仕上がっている。KOVEブランドのさらなる飛躍につながりそうな新型車である。

何かに似ているが何にも似ていない

初めに明確に断っておきたいのは、これはあくまで「プロトタイプである」ということだ。先の大阪モーターサイクルショー・東京モーターサイクルショーで実車が展示され多くのファンを惹きつけていたが、試乗できたのはまさにあの展示車なのだ。

KOVE JAPANが中国の本社に無理を言って「サイクルショーで展示するために、とにかく2台! 出してください!」と頼み込んでものであり、よって完成車とは程遠い、あくまで開発途中のプロトタイプである。そのため細かなアラはまだまだあるのだが、世界で初めて実車を試乗する機会だというからまずは味見として走ることができたという次第だ。小さなアラは本製品がデビューするタイミングまでには、しっかりと仕上げてくれるだろう。

実物は特徴的なブルーグリーンな外装が眩しく、各部のフィニッシュや立てつけの良さなど、少なくとも外装関係やルックスの仕上がりは上々だ。450㏄のこういったモデルが合法的に日本の公道で走っているのは他にない(あるいはあったとしてもかなりマニアなレア車両もしくはグレーゾーンのコンペモデルベース)ことを思えば、それだけで存在価値は高く、ラリーがそうであったように「他にはない魅力」を確かに放っている。

一方で各部を見ると既視感もある。例えばまずはエンジン、外観はホンダのユニカムを採用するCRFにとてもよく似ているし、「タイスコ」と書かれたブレーキキャリパーはそこはかとなくNISSIN感がある。さらに細かいところではスロットルワイヤ周りはヤマハっぽく、右スイッチボックスはかつてアプリリアなどイタリアメーカーが使っていたものとしか思えない。

ただ、後発メーカーが先発メーカーから着想を得るのは歴史が証明してきたところ。実はエンジンはラリーが採用していたゾンシェン製のものから完全自社生産ユニットへとチェンジしたし、YU-ANのサスペンションもとても高いレベルにあると感じる。タイスコキャリパーも「もしかしてNISSINと同じパッドが使えるんじゃない?」と思えば逆にありがたいではないか。

ちなみに外観はホンダと似たユニカムエンジンだが、その中身が実際にユニカムかどうかは「詳細なスペックやデータ、パーツリストなどがまだ一切届いていないため、確かな返答はできないのです」とのこと。繰り返しになるが、本当にあくまでプロトタイプなのである。

フルパワー61馬力をユーロ5+に対応

自社製エンジンはコンペ仕様フルパワーでは61馬力を発揮するという。新規に作ったエンジンでそんなにパワーを出せるとは、KOVEの技術力はかなり高いのですね?と聞くと、他にも様々なエンジンを作っており、エンジンを作る技術は急速に身に着けてきたそう。またダカール参戦などレースシーンへ積極的に関わってきたのもこうした急成長を助けているだろう。ホンダがかつてマン島参戦によって世界に躍り出た話とどこか被るような気もしてしまい、ますます新進気鋭のKOVEを応援したくなってしまう。

その61馬力ユニットをユーロ5+に対応させ、また公道で十分使える耐久性も持たせたこのEnduro Reのパワーは47.5PS。フルパワーからはだいぶ削られてはいるが、それでも47馬力である。スズキのDR-Zが(排気量的に不利とはいえ)38PSだと考えると、Enduro Reのハイパワーっぷりを実感するというもの。加えて半乾燥重量120㎏なのだ。もはやこれはコンペモデルと捉えて良さそうで、むしろよくこれを合法的に公道で走れるように仕立てたものだ、と感心してしまう。とてつもなく過激な乗り味を想像し、いくぶんビビりながら試乗に臨んだ。

ハードルは「高い」

合法的に公道を走れはするが、だからといってDR-Zのように誰にでもオススメできるかと言ったら…またがった時点でそんな気持ちは消し飛んだ。シート高は960㎜、そのシートは堅く、足つきはかなり厳しい。エンジンに市販車の優しさはなく、セルスターターを長めに押した後に「キョダタタタッ‼」とまさにコンペモデル的な味付けで始動する。

アクセルをひねると「ガオッ! ガオッ‼」と嚙みつくように吹け上がり、レスポンスのスルドサやフライホイールの軽さなどを実感。その時点で(筆者のように)「オッカナイな…」とひるむライダーも多そうである。

低速でヨチヨチと走り出すといとも簡単にストール。ダイレクトな繋がり感をもつクラッチとアイドリング付近のトルクの細さはまさにコンペモデルのソレで、一般的な市販車のようなテキトーな操作は受け付けない。そしてエンストすると簡単には足を着けず、再びシートの高さを認識することになる。DR-Zが「エキスパートも満足させるけれど、初心者も歓迎ですよ」と謳っていたのに対して、Enduro Reは明確に「エキスパート向けです」と言っているように、快適性や使いやすさよりも絶対的な性能を最優先させている姿勢をバシバシと発しているのだ。

気を引き締めて試乗に挑む

試乗日は朝まで雪が降っていて極寒、またコースが非常に難しいヌッタヌタ路面になってしまっていたことなど、バイクだけでなく試乗シチュエーションもなかなかハードルが高かったのだが、覚悟を決めて、アクセルを大きく開けて走り出す。

初めからコンペモデルだと思って走れば、低速で取りまわしていた時のような難しさは徐々に気にならなくなってくる。しっかりアクセルを開けていれば速いなんてものではない。アクセル全開からちゃんとレブリミッターまで当たるまで回し切るのは、ひらけた路面があってもなかなか難しいほどチカラがある。激しいフケ上がりや無尽蔵のパワーを知ると、しっかり車体をホールドできる車体構成やダイレクトなクラッチなどが全て協働し始めて、当初の「怖い」という感情の中に「楽しい」「すげぇ」といった感情が入り込んでいって、徐々にそのパーセンテージが増えていくのがわかった。

YU-ANのサスペンションはフロント310㎜、リア290㎜のストロークを確保。公道オフ車でここまで?という気もしたが、パワーを積極的に使っていると車体とのマッチングの良さも実感。コンペモデルベースとは言え車体に硬さはなく、筆者のようにオフロード走行のウデが心もとなくともそのしなやかさと軽量な車体には助けられた。もう少し走るシチュエーションさえ良ければ素直に「楽しい‼」と思える時間も多くなったことだろう。

ただあまりのパワーとそれに見合った車体ゆえ、やはり楽しいのはアクセルを大きく開けていけるハイスピードな場面に思えた。ある程度安定したグリップが見込める路面でパワーにもてあそばれているのは大変に楽しかった一方で、難しい低速場面だとエンジンの低回転域の心細さやシンプルに足が付きにくいこと、またプロトタイプゆえにインジェクション設定がまだ不確実で不意のエンストを引き起こすことも加わって、おっかなびっくり感は否めなかった。そういった低速場面でも自信をもってこのバイクを扱うにはかなりのライダースキルが必要に思えた。

どんな場面で?

ほぼコンペのEnduro Re。さてこのバイク、どこでどう使おうか?と考える。もちろんオフロードコースで走らせれば大変に楽しいだろうが、だったら本当のコンペモデルでもいいだろう。その名の通り、一部公道も走るようなエンデューロレースが活躍の場なのだろうか?

というのも、日本によくある細かい林道ではさすがにちょっと持て余しそうなのである。このパワーや車体を楽しむにはどこまでも続くダート路もある北海道や、合法的に走れる砂浜など広く開けた場面でなくては、と思ってしまうと、どこで楽しむのが正解なのか考えてしまう。

しかしそんな悩みはCBRやGSX-Rといったスーパースポーツと同じことなのだと思う。完全にもてあますパワーなのに、あえて公道で乗るという無意味さや背徳感、所有欲、特別感などそういったものをごちゃまぜにしたうえでそこに理由が生まれるのだ。軽くてパワーがある、それだけで正義。しかも合法で車検もちゃんと通る。極端な話、別にオフロードを走る必要もないだろう。ストリートでこれに乗っていても楽しいだろうし注目度も高い。

こんなモデルを合法的に公道で乗れるのだから8月ごろと言われているデビューが楽しみ。あとは価格なのだが、予価100~110万円とされる中、KOVE JAPANでは「為替などのタイミングもありますが、何とか99万円で出したいですね!」と期待の高まる言葉で試乗会を締めてくれた。






よく見ればミラーや灯火類を装着した公道モデルであることはわかるのだが、その佇まいはどう見てもコンペモデル。YUANXING製タイヤがかなりオフロード色が強いこと、またまさにコンペモデルと言えるシート形状などからその本気度合いが伝わってくる。そのシート高は960㎜となかなか激しい数値だが、実はメーカー純正とは別に、KOVE JAPANがテクニクスと共同開発したローダウン版(910㎜)も設定することになっている。これは別記事で紹介予定だ。

足つきチェック(身長185cm)

筆者は185㎝と長身で足つきについてはあまり問題を感じたことはないが、それでも910㎜というシートはなかなかハードルが高く、ブーツを履いていても踵は着かず、腰高感は相当に高い。また足をおろす場所にちょうどステップがあるため、よけいに足が開いてしまう。あえて少し後ろに座るとステップの後ろに足をおろせるだけでなく、その分サスも沈むため足つきはいくらか改善する。

ディテール解説

倒立のサスペンションはYU-AN製のフルアジャスタブルタイプ。調整は上部に設けられたノブによるもので工具は不要。ストロークは310㎜を確保する。形状はNISSINによく似ているキャリパーはTAISKOというブランド。ホースが純正でメッシュタイプということもあってか、フィーリングも制動力も十分以上だ。

ダブルクレードルフレームは高強度鋼材、リア周りはアルミのスイングアームに18インチホイール。ピギーバックタイプのリアサスもYU-AN製のフルアジャスタブルで、ストロークは290㎜。

コンパクトなエンジンはまさにモトクロッサー的。左側はシリンダーヘッド近くにABSユニットが位置し、またセルモーター後方にはアクセスしやすい所にバッテリーがある。車体右側から見るとヘッド形状はホンダCRFによく似ており、ヘッド周りはどう見てもユニカムのようだが、現時点ではまだはっきりしたことは言えないそうだ。ベースとなったモトクロッサーは61馬力なのに対し、ユーロ5+に対応するこの公道バージョンでは47.5馬力に抑えられた。エンジンの内部部品などは公道向けに耐久性を上げるなどしてあるのですか?と聞くと、詳細はまだ未定ながらラリーの方のタフさを考えるとこのEnduro Reも公道走行に耐える十分なマージンは確保されることでしょう、とのこと。

一見、2ストロークのチャンバーのようにも見えるエキパイ部は、中にキャタライザーが入っているためこのような形状に。ほぼコンペモデルのままユーロ5+に対応させる苦労がうかがい知れる。しかしモナカ合わせ形状のエキパイは何だか妙にカッコ良い。サイレンサーもカッコよく跳ね上がっていて、一人乗り設計としたこともこのコンペ感あふれるスタイリングを実現できている要素だと感じる。

スリムでハードなシートは前後の移動も容易で非常にスポーティ。長距離を走ることはあまり考えたくないが、一体感はかなり高い。

ミラーが目に入るハンドル周りのビューだけが公道向けバイクに感じる部分か。ハンドル位置や切れ角などはわりと自然で、この部分ではハードルの高さは感じなかった。なおタンクは形状がスリムながら容量は9.5Lを確保するのもありがたい。

スイッチボックスは左側にABSのキャンセルやハザードを備え、ウインカースイッチやホーンボタンは一般的な配置で使いやすい。キルスイッチとセルボタンのみの右側は一昔前のアプリリアなどに使われていたものと同じようだ。

コンパクトながら速度計が大きく、またタコメーターも備えるメーターはとても見やすく感じた。左下の車体のイラストはABSがフロントのみカットか、前後ともカットかをわかりやすく表示してくれた。ただプロトタイプの現車はABSエラーが出てキャンセルができないというマイナートラブルも。本製品までには細かい煮詰めに期待したい。

2段構えのヘッドライト、被視認性の高いウインカー、意外と面積が確保されていて安全性が高そうなテールランプなど灯火類はLEDでスマートに。車体がもつスポーティなイメージを邪魔していない。