待望のWRXのMT車は600台限定のコンプリートカー

2026年1月の『東京オートサロン2026』で初披露され、4月9日に発売されたWRX「STI Sport #」は、現行VB型WRXでは国内初となるMT車だだが、初披露時やその後の展示・デモランでは明らかにされていなかったが、発売の際にはバランスドエンジンを搭載ほか、専用装備を奢った600台限定のコンプリートカーであることが明らかになり、話題を呼んだ。
発表後は「プロトタイプ」が展示・デモラン披露・同乗試乗に登場していたが、これはまだバランスドエンジンを搭載していないモデルだった。

そして、4月19日に富士スピードウェイで開催された『シン・モーターファンフェスタ2026』では、ついにバランスドエンジンを搭載した個体が初お目見え。なんと、試乗車が用意され抽選に当たった幸運な20名がステアリングを握ることができた。

幸運にもバランスドエンジンを搭載したWRX「STI Sport #」と非搭載のWRX「STI Sport # PROTOTYPE」を試乗することができたのだが、その試乗レポートは下記の記事を参照いただくとして、せっかくなのでちょっと変わった視点でWRX「STI Sport #」を眺めてみたいと思う。
スバルの元祖バランスドエンジン搭載モデル「レガシィRS type RA」

スバルはコンペティションでのパフォーマンスを追求するため、たびたびバランスドエンジン搭載モデルを設定してきた。その最初のモデルが初代レガシィのトップグレード「RS」を競技ベース車両とした「RS type RA」である。

この初代レガシィ「RS type RA」はバランスドエンジン搭載車ながらスペック上はノーマルの「RS」から変更が無い点はWRX「STI Sport #」と同様だった。

しかし、そこはバランスドエンジンだけあって、ノーマルよりも明らかに吹け上がりが鋭く、パワー感・トルク感のリニアリティが向上していた。筆者の個体は登録から35年を経ているだけにコンディション的には新車と比べようもないが、7年落ちだった購入当時ですらそのフィーリングにはいたく感動したことを覚えている。

昨今はパーツの精度も上がり、公差も少なくなっているため「STI Sport # PROTOTYPE」と「STI Sport #」の差は「RS」と「RS type RA」ほどの差は感じない。ポート研磨などの”チューニング”も行なわれていないが、それでもパーツの重量を揃えた水平対向エンジンのバランスの良さは特筆ものと言えるだろう。

進化を感じるTY75型マニュアルトランスミッション
WRX「STI Sport #」に搭載されるマニュアルトランスミッションはTY75型の6速MT。このTY75型は、1984年にデビューした3代目レオーネから採用されたものだ。もちろん、当時は5速でAWDもパートタイムだった。

1986年にレオーネRX/IIでスバル初のフルタイムAWDとなり、1994年にはインプレッサWRXでDCCD(ドライバーズコントロールセンダーデフ)が組み込まれ、2009年の5代目レガシィ(BM型/BR型)で6速仕様が登場するなど進化を重ねた。WRX「STI Sport #」に搭載されるのは、この6速仕様のTY75型である。
デビューから実に42年、一度は市販車から消えたスバル製マニュアルミッションのTY75(BRZはFR用のアイシン製)が、2026年、ブランクを経て復活したわけだ。1989年に登場し2025年をもって完全に退役したEJ型エンジン(36年)よりもロングセラーの名機なのだが、ここまで変わっていると何をもって「TY75」なのかが気になるところではあるが、スバルでは最古級の型式名になるだろう(一説にはさらに古いものもあるらしいが、確証は得てない)。
TY75はもちろん初代レガシィRSにも搭載されていたのだが、スバルとしては初の200psオーバーとなるエンジンに対してTY75は役不足だったようで、荒く扱うとすぐに壊れることから”ガラスのミッション”と呼ばれていた。それでもGC型インプレッサのパワーアップには対応し続け、最終的には300ps・36kgm(S201)まで対応した。

この問題が解決するのはより高トルク(約69kgm)に対応する新開発の6速MTであるTY85が登場する2000年(2代目インプレッサWRX)になってからである。

TY75型の6速MTと5速クロスミッション
筆者はレガシィRS以前に前述のレオーネRX/IIを所有していた。レオーネRX/IIのトランスミッションは副変速機を備えた「デュアルレンジ」だったほか、デフロック機能も備わる、まさに黎明期のフルタイムAWDだった。

システム的には非常に面白く、かつ抜群の悪路走破性を備えていたものの、ミッションフィールはお世辞にも良いとは言えなかった。節度感こそあるものの、シフトゲートへレバーを動かす時の”グニャリ”とした手応えを今も覚えている。これも8年落ちの中古車だったゆえの個体差だったのかもしれないが、残念ながらこれ以降レオーネのMTに乗る機会は訪れていない。

そこからレガシィRS type RAに乗り換えたわけだが、そのシフトフィールは感動モノだった。ガッチリ感こそ無いものの、各ゲートとレバーの節度感はしっかりしており、そレバーはとてもスムーズに動く。特にしっかりと回転を合わせて変速した際のフィールは”バターにナイフを入れる”が如くスッスッとレバーがゲートに吸い込まれていく。

type RAは競技使用を前提としたノーマルよりもギア比が低いクロスミッションが標準装備となっており、5速のみやや離れてはいるが、ほぼフルクロスというギア比。このクロスっぷりはSTI初代社長である故・久世隆一郎氏の肝入りだったと耳にしたことがある。
ノーマルのRSや他グレード、あるいはGC型インプレッサWRX、後の歴代レガシィのMT車ではtype RAのクロスミッションほどにミッションフィーリングに感動した覚えがないので、このクロスミッションが特別か、たまたま当たり個体だった可能性も否めない。

ノンオーバーホールの現在では残念ながら往時のフィーリングにとても及ばないが、ガラスが砕けることもなく機能し続けているのはありがたい限りだ。

そしてWRX「STI Sport #」のトランスミッションである。短い試乗時間、4速に入れるのがやっとのコース設定では到底その真価までは体感できなかったであろう。にも関わらず、そのシフトフィールはtype RAに乗った時の感動を呼び起こしてくれた。

上述の操作感と感動フィーリングが35年を経て再現され、なおかつより上質に仕立てられている。バランスドエンジンは当然としても、ノーマルエンジンでもこのトランスミッションをいつまでもこねくり回して走り続けたいと思わせるに十分な感動だった。

願わくば、バランスドエンジンや専用装備を省いた”素”のWRXのMT車を、たとえ受注生産という形でも、カタログモデルにして欲しい。それだけの魅力がTY75型6速MT搭載のWRXにはあると思う。

FA24ターボ+TY85型6速MTの可能性
ファン待望の現行型WRXの6速MT車がTY75型でDCCDも無いと考えると、先代WRX STI(VA型)から後退しているとも捉えられるかもしれない。しかし、開発責任者の小林正明氏はWRX「STI Sport #」は”気軽に楽しめるMTスポーツを目指した”としており、そのコンセプトは見事に実現されていると言って良いだろう。

一方で、スーパー耐久シリーズ(ST-Qクラス)に投入されているハイパフォーマンスX Ver.IIはCNG(カーボンニュートラル燃料)車ながらFA24ターボ+TY85型6速MTを搭載している。そのベースと思われる『ジャパンモビリティショー2025』で披露されたパフォーマンスB STIコンセプトも同様のくみわせで、展示車にはDCCDも装備されていた。

このコンセプトカーについてスバルも市販の可能性を完全には否定しておらず、将来に的にはFA24ターボ+TY85(6速MT+DCCD)の市販車……今回のように限定コンプリートカーの可能性が高そうだが……が登場する可能性もゼロではない。
TY75にせよTY85にせよ、「パフォーマンスシーンでブランドを際立たせる」ことを標榜するスバルがMTモデルを継続的にリリースしてくれることに期待したい。
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