居心地の良さはなによりも優先すべし!

私の爽やかな朝は、窓から差し込む日光や小鳥たちのさえずり、焼きたてのパン、淹れたてのコーヒー……ではなく、まずスマートフォンゲームのログインボーナスの受け取りとデイリーミッションの消化から始まる。休日はなお酷く、そのままYouTubeやNetflix、X(旧Twitter)を見続け、気づいたら1日が終わっている。

自分でも呆れるほど根っからのインドア派なこともあって、居心地の良さを追求するためデスク周りの機材の選定はもちろん、配置はミリ単位で調整し、椅子もフンパツした。そのおかげで1日ず〜っと机の前にいても不便を感じない居心地を実現することに成功した。

しかし、この空間での平穏な日々は突然終わりを告げた。出社というクラシックな働き方への回帰だ。久しぶりのオフィスの居心地は最悪だった。Wi-Fiは異常に遅くて不安定な上に、椅子は長年使い古された枕と同等のクッション性しかない。そして通勤のための満員電車は無差別大量拷問だ。

そもそも今の日本で外出に適しているのは5月と10月と11月くらいしかない。12月〜1月は凍てつくほど寒く、2月〜4月は花粉症、6月は梅雨、7月〜9月は猛暑と、なにかしらのストレスがある。もし仮に外出するとしたら、エアコンが効いていて、お気に入りの音楽やラジオが流れ、誰にも干渉されることのないパーソナルスペースで移動できるクルマこそベストな解決策だろう。そして、今回の主役である「シトロエンC5エアクロスHYBRID」は、車内での居心地を極めた1台として注目のモデルだ。

シトロエンC5エアクロスHYBRID

シトロエンの創業は1919年のフランス・パリで、Caring(快適性、安心感、乗員への配慮)、Clever(日常の使いやすさ)、Creative(個性的なデザイン、斬新な発想)をコンセプトに掲げており、カゴいっぱいの生卵を載せて農道を走っても1個も割れないほどの快適性、シルクハットを被っていても引っ掛かることのない広い室内空間といったことを目標に開発した逸話は有名だ。

シトロエン2CV

さらに、その奇抜なルックスが“醜いアヒルの子”と揶揄されたものの大成功を収めた「2CV」や“宇宙船”の異名をもつ「DS」、ボディの随所に衝撃吸収材(エアバンプ)を取り付けた「C4カクタス」など、他の自動車メーカーが想像もつかないようなユーモアに溢れたクルマを世に送り出してきた。

シトロエンDS

正統派SUVの皮を被った唯一無二のプライベートラウンジ

だからこそ、そのシトロエンのフラッグシップである「C5エアクロスHYBRID」を目の当たりにした瞬間、フロントとリヤの造形にはシトロエンらしさがあるものの全体を見ると正統派SUVとしてうまくまとめられており、逆にあまりの真面目っぷりに驚いてしまった。放課後にしょうもないことで笑い合っていたユーモア溢れる友人に久しぶりに再会したら、保険や積立NISAについて語り始めたくらい落ち着いた姿だ。

エンブレムを中心にヘッドランプへつながる水平基調グリルや3つのセグメントに分かれたシグネチャーライトを組み合わせたフロントマスクは間違いなくシトロエンだ。
2022年のパリモーターショーで発表された「Oli concept」で提案されていた立体的なテールライトを採用したというリヤスタイルもユニークな造形だ。
新型では新たにSTLA-Mediumプラットフォームをシトロエンで初採用。試乗車のグレードは「MAX HYBRID」でボディサイズは全長:4655mm×全幅:1905mm×全高:1710mm。ホイールベースは2790mmと先代よりも60mm伸びており、室内空間の拡大に貢献。フロントからリヤに流れるキャラクターラインがボリューム感のあるフォルムに軽快感をもたらすアクセントになっている。
全車とも19インチのブラックアロイホイールを装着。最も古い天然鉱物のひとつとされる宝石「ZIRCON(ジルコン)」を彷彿とさせる力強い輝きを放つ。上級グレードの「MAX HYBRID(585万円)」はミシュランのCross Climate 2 SUVというオールシーズンタイヤが標準装備される。

わずかに戸惑いを覚えながらも「C5エアクロスHYBRID」に乗り込んでみると、やっぱりこれはシトロエンだ。手の触れる部分にはファブリックや柔らかい触り心地の素材がふんだんに使われており、ハイプグレーのカラーも室内に温もりをもたらしている。

水平基調の見晴らしの良いインパネ。ファブリックなど手触りの良い素材をふんだんに使った温もりが心地よい。中央には新たにウォーターフォールスクリーンと称する13インチの縦型スクリーンを搭載。ナビ画面では進行方向を広く表示できるなど利便性も高い。
センターコンソールは上下二段構造を採用。下段にはUSB端子やドリンクホルダー、トレイなどを完備。

プラットフォームを刷新したことで全長と全幅が拡大しており、後席は膝前スペースが50mm、頭上スペースが68mm増え、足を組んでも膝前にはまだまだ余裕がある。さらにシートヒーターも装備されており、中央席の背もたれを倒すことで使えるようになるアームレストも活用すればゆったりくつろげる。

プレミアムTEPレザー&ファブリックで仕立てたアドバンストコンフォートシートは表層と下層で異なるフォームを組み合わせ、背もたれやサイドサポートにも15mm厚のパッドも仕込んでいる。「MAX HYBRID」はシートヒーター/ベンチレーションを装備。マッサージ機能も備わっており、8種類ものモードを選べる。
サイドサポートが高く、乗員をすっぽりと包み込む後席は前席と同じく快適性が高い。「MAX HYBRID」はシートヒーターを採用。

その乗り味は紛れもなく”シトロエン”

ボディサイズが拡大している一方で、パワートレインは1.2L直列3気筒ターボに電動モーターを内蔵した6速DCTを組み合わせた、いわゆるマイルドハイブリッドというもの。スペックを見る限りではやや心許なさそうに感じるが街中から高速道路に至るまで普通に走る分にはまったく問題なし。インパネが水平基調なこともあって車両感覚が掴みやすく、ひとまわり小さなクルマを運転しているように扱いやすい。

パワートレインは1.2L直列3気筒ターボ(100ps・230Nm)にモーター(15kW・51Nm)を組み合わせる48Vマイルドハイブリッドシステム。低速域ではモーターが積極的にアシストを行なう。WLTCモード燃費は19.4km/L。

そして走れば走るほど際立つのが乗り心地の良さだ。従来のサスペンションに油圧クッションを組み合わせて周波数の低い揺れや振動を制御するサスペンション「プログレッシブ・ハイドローリック・クッション(PHC)」を採用しているため、ステアリングと足元から伝わってくる振動も十分抑制されているのだが、さらに多層フォームやパッドを用いたアドバンストコンフォートシートを採用したことで座面や背もたれから伝わってくるはずの振動は意識を集中させてようやく感じ取れるくらいまで小さく抑制されている。まるで焼きたての食パンの上にでも座っているかのようにしっとりと柔らかくて心地良い。

荷室容量は後席使用時で約565Lを確保。後席を倒すとフラットなフロアになり、最大容量は約1688L。

SUVの人気が高まってずいぶん経つが、現在は日常生活での利便性だけでなく、休日はレジャーに出掛けることを全面にアピールしている。耐久性に優れた素材で仕立てた内装や手軽に悪路を走るためのギミックを備えたアウトドアレジャーの押し売りのようなSUVが増えているなかで、自宅にいるようにゆったりとくつろげる快適性を追求した「C5エアクロスHYBRID」はかえってユニークだ。紛れもなくシトロエンだからこそつくれたSUVだ。