顔面テーマはアメフトのヘルメット

北米市場では、強さを感じさせるデザインが視覚的に安全性を連想させる。そこで、新型キックスのデザインチームはアメリカンフットボールのヘルメットからインスピレーションしたのだという。全長×全幅×全高=4365×1800×1610mm。新型キックスのサイズ感は、日本の街なかでも使い勝手よく付き合えそうなコンパクトSUVの領域に収まりながら、ひとめ見た瞬間の存在感はサイズ以上のものがある。

「自分たちが欲しいSUVとは何か」ゼロから問い直したデザイン開発

プログラムデザインダイレクターの楠鉄平(くすのきてっぺい)氏は、開発当初の思いをこう語った。

日産自動車プログラムデザインダイレクターの楠鉄平(くすのきてっぺい)氏

「私たちデザイナー自身が本当に欲しいSUVって何だろうと、そう考えることから開発をスタートしました。従来のコンパクトSUVとしての親しみやすさは受け継ぎつつ、それ以外はゼロから考える。そんなビジョンと共に新型を作り上げました」

そのゼロベースの姿勢が、新型キックスのエクステリアに明確に現れている。最大のこだわりのひとつが、キャラクターラインをほぼ排除したシンプルな面構成だ。「他のSUVと比べても非常にカプセルのように、キャラクターラインをたくさん入れずに、塊の強さ、面の張り感でフェンダーのカタマリ感や力強さを表現しています」と楠氏は言う。

フロントからリヤまで宿る日産SUVのDNA

フロントマスクは先進的で大胆な印象を持つ。車幅いっぱいに広がるワイドな造形と特徴的なランニングライトが、新型キックスの顔を構成する。「強く先進的に、これが新型の顔まわりのこだわりです」と楠氏が言うように、正面から見たときの存在感はクラスを超えている。車体の四隅まで配置された大型のフェンダーがマッシブな印象を与え、下まわりを大胆にブラックアウトさせることでSUVらしい俊敏な姿勢を強調している。

リアまわりも個性的だ。口の字型のグラフィックにテールライトを車幅いっぱいに配置し、踏ん張り感を強調。フロントとリンクした先進的なグラフィックが放つ存在感は、夜間の見た目にも一線を画す。ボディセンターの車体色が残るデザインは、北米パスファインダーや従来型キックスにも共通する、日産SUVのプロテクト感あるDNAを受け継いでいる。キックスの語源となるスニーカーをイメージしたソールデザインのディンプルも遊び心で採用された。上位グレードには19インチのアルミホイールも設定され、空力を意識したユニークな造形のグラフィックがスポーティさを引き立てる。

キャラクターラインを排して得たカタマリ感と生み出してしまった茨の道

コミュニケーションカラーの日本向けの新色「レゾナンスブルー」。レゾナンスは「共鳴」を意味するが、先進感とアクティブ感の両立を目指したという。レゾナンスブルーは、スポーティなソリッドテイストカラーでありながら、立体感も出す。また、クリア層の工夫によって、黄色みを抑え透明感あるライトブルーを実現した。

エクステリアについて楠氏が特に苦心したと語ったのが、キャラクターラインを意図的に排除したボディパネルの面構成だ。「タフで力強いSUVを目指すに当たり、キャラクターラインをたくさん入れずに、面の張り感でフェンダーの張り出しや、カタマリ感で力強さを表現しています」と楠氏は言う。ところがこのアプローチは、量産化の段階で大きな壁にぶつかった。「キャラクターラインがないので、面と面が少しでもずれるとカプセルのようにリフレクションが綺麗に通らないんです」。楠氏は生産部門と何度も議論を重ね、実際に工場へ足を運んでプレスパネルの精度を詰め続けたという。「生産の方々に何度も何度も話し合いをしましたし、実際に現場に何度も行って、コンマ1mmの単位で、面の精度をもう少しこうなりませんか、できませんかって繰り返して。このカタマリ感にこだわってきました」。妥協のない面の追求が、新型キックスの存在感ある塊感を生み出している。

「大黒柱」と「ジャージーな肌触り」がインテリアを両立させる

インテリアは「守られている安心感と、心地よい解放感の両立」を目指したと楠氏は語る。水平に伸びるインストルメントパネルは、まるで大黒柱のように乗員を包み込む構造的強さをビジュアル的に表現しながら、肌に触れる部分には温かみのあるファブリックを採用し、緊張感と落ち着きのバランスをとっている。「我が家のように安心できるインテリアを体感して下さい」という。12.3インチの大型デュアルスクリーンはドライバー操作の効率を高め、パネルの下部に設けられたフィンガーレストは画面操作時の安定感を支える細かな配慮だ。

インテリアのバリエーションも注目に値する。「G」「X+」グレードのインテリアは「ソフィスティケイテッドモダニティ」がテーマで、触り心地のよいビーガンレザーにゴールドのアクセントを組み合わせる。ステッチにはゴールドとシルバーのバイカラーを採用し、力強さと洗練を感じる空間を目指した。「X」グレードはよりスポーティで都会的な世界観を提供。インストルメントパネルには、シルバーとアクセントにファブリックを使用。ファブリックシートには、非常に深いエンボスを採用し、触った時の心地よさと座った時の安心感を提供する。

お気に入りのスニーカーのように、乗るたびに気分が上がるクルマへ

インテリアについての楠氏のこだわりも、一貫したものだった。「SUVなので、まずしっかりと乗ってる人を守ってあげる、プロテクトしてあげるという構造的な強さを見せたいというところが強くありました」と楠氏は語る。水平に端から端まで伸びるインストルメントパネルは、「まるで我が家の大黒柱みたいな形で乗ってる人を守る」という意図でデザインされている。ただし、強さだけを追求すると緊張感が生まれてしまう。「やっぱり落ち着けてリラックスできる、我が家みたいに安心したい。だから強い形なんだけど、とても安心してリラックスできる。その両立をデザインメンバーでたくさん検討して探してきた」と楠氏は振り返る。その答えが、触れると心地よいジャージーなファブリック素材をテーブルトップとして組み合わせるアプローチだった。構造の力強さと素材の温もりが共存するインテリアは、毎日乗るクルマとしての安心感を静かに提供している。

実車を前にすると、競合モデルと並べたときの違いは一目瞭然、ひと目で最新の日産車だろうと感じさせる個性にあふれている。最後に楠氏が語った言葉は、このクルマの本質を端的に表していた。「キックスという名前はスニーカーからつけているんですが、お気に入りのスニーカーを履くと少し自信が出たり、走り出したくなったりすることがあると思うんです。キックスを通してそういう笑顔を作ったり、新しいことにチャレンジしてみるような気持ちを作っていきたい、広げていきたいという思いで、エクステリアもインテリアもカラーマテリアルも含めてチーム一丸となってデザインしてきました」。毎朝玄関に並んだ靴の中からお気に入りの一足を選ぶように、駐車場に向かうたびに少し気分が上がる。新型キックスはそういうクルマを目指して生まれてきた。デザインがクルマの価値を語る時代に、キックスの登場は久しぶりに日産が何かをリードしてくれるコンパクトSUVとなる予感がした。