原油供給の先行き不安から、電動モビリティの導入を考えた方もいることだろう。かくいう我が家も同じ。家族が普段の通勤で使っている4ストのジョグを電動スクーターに買い替えるという話が持ち上がった。ICON e:を試乗することになったのは、そんなタイミングだった。そこで今回は、実際に買い替えを検討している家族(30代サラリーマン。駅までの通勤で原付を使用)の意見を交えながら、ICON e:の試乗記を紹介したいと思う。

EM1 e:から実用性を高めた電動パーソナルコミューター

ホンダは1994年に発売した電動スクーターCUV ES(官公庁や自治体へのリース販売が中心)以降、電動二輪車の開発を進めてきた。その後、EV-neoやBENLY e:などのビジネスユース向けモデルを発売。2023年には一般ユーザー向けにEM1 e:をリリースした。

ホンダ・ICON e:……220,000円(消費税込み)

今回紹介するICON e:は、先に発売されていた原付一種の電動スクーターEM1 e:をベースとして、日常での使い勝手や航続距離、価格などを見直したモデルである。30km/h定地走行テスト値で53kmだったEM1 e:の航続距離に対し、ICON e:は81kmと1.5倍強になり、バッテリーの搭載位置もシート下からフロアステップ下へ移動。車体に搭載したまま充電することも可能となった。

インホイールモーターの定格出力は、歴代のCUV ES、EV-neo、EM1 e:と同じ0.58kW。だが最高出力はEM1 e:の1.7kW[2.3PS]/540rpmに対して、ICON e:は1.8kW[2.4PS]/618rpmと0.1kW高く、最大トルクはEM1 e:の90N・m/25rpmに対してICON e:は85N・m/110rpmと、EM1 e:のほうが5N・m大きい。つまり、継続的な出力を示す定格出力は同じでも、瞬間的なパワーの出方には違いがあるということだ。

車両重量はEM1 e:より5kg軽い87kgとし、バッテリーをフロア下に配置することで、26Lのシート下収納を確保した。また、メーカー希望小売価格は、現行EM1 e:の32万0100円に対して22万円となっている。

ICON e:は日本のみならず、東南アジアを中心として展開されるグローバル電動コミューターだ。東南アジアでは、国によっては2010年代後半から、ベトナムのVinFastや中国のYadeaといった新興メーカーがさまざまな電動二輪車を発売し、マーケットを拡大しつつある。ICON e:は、こうした流れの中で、ホンダのブランド力や販売網、アフターサービスなどを生かして追い上げていくためのモデルである。

エンジンに負けない動力性能

これまでさまざまなモデルに乗ってきたが、個人的には電動原付一種の定格出力ではエンジン車に動力性能で勝てないという印象があった。ところがICON e:に関しては、まったく遜色ないレベルにある。停止状態から30km/hくらいまでの加速は電動ならではの力強さがあり、逆に速いのではないかと思うくらいだ。試しに家族にICON e:に乗ってもらい、テスターが4ストのジョグを借りて一緒に走ったのだが、ICON e:の後をついて走る場合、ジョグは常に全開。少し先行されると追いつくことができなかったほどである。「電動はモーターのフィーリングが楽しくないから好きではない」というようなことを言っていたが、そもそも原付スクーターのエンジンの楽しさを求める場面は少ない。乗り比べてみれば、振動がなく静かなICON e:のほうが快適でストレスがない。

そしてありがたかったのは航続距離。EM1 e:のときはバッテリー残量メーターの減りが速かったこともあり、行動範囲がかなり限定されてしまったのだが、ICON e:は隣町まで出かけて戻ってきても電池の残量がほとんど減っていなかった。もちろん、ガソリンのスクーターを満タンにしたときに比べれば1回の充電での航続距離は短いが、それでも買い物と通勤であれば、毎日使っても数日は持つ。それに充電する場合も、重いバッテリーを取り外すことなく、直接車体にプラグを差し込むだけだ。ちなみに家族はガソリンスタンドに行くのが非常にストレスになっているらしく、充電が簡単になったというだけでICON e:の購入意欲が一気に高まったらしい。

さらにICON e:の可能性を広げているのは充電器が小型化されたことだろう。充電器を持ち運べば出先で充電することが出来てしまうからだ。100Vのコンセントから充電できることは、四輪のEVにはない強みだ。急速充電機能はないので、フル充電までは約8時間が必要になるが、例えば職場で仕事をしている間に充電することだって可能になる。

ICON e:には電費を抑えるECONモードもある。モードを切り替えると最高速度が40km/hくらいになり、加速もゆっくりになる。混雑した市街地などであればECONモードでも特に不満なく走れるのだけれど、交通量が多い道路などではさすがにパワー不足に感じる。使う場所と使い方が限定されるモードではあるが、出先でバッテリー残量が足りなくなったときには、ありがたいモードであることは間違いない。
ちなみにECONモードからSTDモードへの切り替えは、スロットルを戻さなければ反映されない。エコモードで走っているときに登り坂でスピードが低下してしまった場合、通常モードに切り替えるにはいったんスロットルを戻す必要があるため、さらに速度が落ちてしまうことになる。小さなことかもしれないけれど、アップダウンがある場所でECONモードを使うときに覚えておきたい点だ。

ICON e:は車体の安定感も高い。原付一種としては長めに設定されたホイールベースによるところが大きいのだが、車体や足まわりのしっかり感も効いている。コーナリングでも小排気量スクーター的な過敏さがなく、安心して車体をバンクさせることができる。ブレーキは非常によく効くし、コントロール性も高く、リアブレーキをかけるとフロントが連動するコンビブレーキの安定感も素晴らしい。また、ブレーキやスロットルなどの操作系に関しては、単に扱いやすいだけでなく、操作した感じが気持ちよいのも走りの質を上げている。

こんな感じで走りに関してはかなり満足したのだが、唯一慣れなかったのがリアブレーキを握っているときにモーターがオフになってしまうこと。タイトなコーナーを曲がるとき、リアブレーキを握ったままスロットルを開けても駆動力がかからないのである。ただ、これも単に通勤でスクーターを使用しているうちの家族は何の違和感もないという。「なんでそんな乗り方するんですか?」と逆に聞かれたくらいだから、ICON e:の想定しているユーザーに対しては問題にならないのだろう。

ICON e:に乗って、家族は大興奮していた。EM1 e:のときはヘルメットがシート下に入らず(通勤で使うには致命的だったとのこと)、峠を一つ越えて駅まで往復すると、寄り道するのが不安になるほど電池を消費していたから、実用面で少し不安があったのだと言う。その点、ICON e:では電池の消費量も十分すぎるくらいに改善されたし、そのときの状況に応じた充電(バッテリーを車載したままか、取り外して室内で充電するか)ができるようになった点も便利。普段の通勤や買い物に使うには、十分な性能と使い勝手が確保されている。家族曰く、「電動でここまで使い勝手と性能が確保されていたら、エンジンのスクーターに乗り続ける意味はない」とのこと。具体的に購入に向けた検討に入っているところである。

ポジション&足つき(身長178cm・体重78kg)

ポジションはテスターの身長でも窮屈さはなし。適度な硬さのシートスポンジによって乗り心地も良好。フロア下にバッテリーを搭載するため、フロアの位置はエンジンのスクーターと比べると若干高めになっている。

シート高は742mm。原付一種クラスとしては標準よりもやや高めの設定だ。同じクラスのジョルノの720mmより22mm高いが、PCXの764mmよりは低い。普段原付に乗っていない女性にも乗ってもらったが、車体が軽いこともあって、車体を支えるのに不安は感じなかったとのこと。

ディテール解説

フロントタイヤは90/90-12。大きめのフロントホイールにすることで安定性を高めている。

 

フロントブレーキは油圧式のシングルディスク。ABSは装備されていないがコンビブレーキによって、リアブレーキレバーを握るとフロントにも制動力が働いて安定したブレーキを補助する。

 

駆動方式は後輪インホイールモーター。定格出力0.58kW。最高出力は1.8kW[2.4PS]/618rpmで最大トルクは85N・m[8.7kgf・m]/110rpmを発揮する。

 

リアサスペンションはユニットスイングタイプ。2本のリアショックがユニットを支持している。リアタイヤは100/90-10。

 

座面が大きく座り心地の良いシート。スポンジはハードな感じでしっかりしている。

 

シート下容量は26L.試乗で使用したジェット型ヘルメットは問題なく収納することが出来た。

 

バッテリーを収めたフロアはフラットタイプで乗り降りが容易。

 

動力用バッテリーはリチウムイオン電池。バッテリー電圧は48Vで容量30.6Ah。 着脱式のため取り外して室内で充電することができる。

 

充電器がコンパクトになったことは非常にありがたい。充電器を持っていけば、出先での充電が可能になり、行動範囲が広がることになる。

 

バッテリー車載状態で充電する場合は、シート前下側のソケットに充電器のカプラーを差し込むだけ。フル充電に必要な時間は約8時間だ。

 

ハンドル周りの仕上げには高級感が漂う。

 

メーターはデジタル表示。バッテリー残量や走行可能な距離を知らせてくれる。

 

ハンドル左のスイッチはウインカー、ライトのハイ・ロー、ホーンと一般的な配置になっている。

 

右ハンドルの下にあるのはスイッチ。メインキーをオンにしてこのボタンを押すと走行可能な状態になる。出力の切り替えボタンでECONモードにするとモーターの出力が押さえられて走行距離を伸ばすことができる。

 

メインキーはイタズラ防止のシャッター付き。右のボタンはシートとバッテリーの開閉。メインキーをSEAT/BATTにしてこのスイッチを押すとロックか解除される。

 

フロントのインナーラック内にUSB Type-Aソケットを装備。出力は5Vで2.1A以下。

 

縦二灯式のヘッドライトはLED。

 

テールカウルにビルトインされたフールランプとウインカーはすべてLEDになっている。

主要諸元

車名・型式 ホンダ・ZAD-EF23
全長(mm) 1,795
全幅(mm) 680
全高(mm) 1,085
シート高(mm) 742
車両重量(kg) 87
一充電走行距離*1(km)国土交通省届出値 81(30km/h定地走行テスト値)〈1名乗車時〉
原動機種類 交流同期電動機
定格出力(kW) 0.58*2
最高出力(kW[PS]/rpm) 1.8[2.4]/618
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) 85[8.7]/110
動力用バッテリー(V/Ah) リチウムイオン電池 48/30.6