CKデザインの仔猿(OSCA Z31A)は、世界最小の市販バイクとして知られている。それだけ聞くと、奇をてらって作られたバイクのように感じてしまうかもしれないが、単に小さいだけではない。1970年代に本田技術研究所でワークスマシンや量産車の車体設計を担当したCKデザイン代表の佐々木さんが、エンジニアとしての経験と情熱を注ぎ込んだ乗り物なのである。
CKデザイン・OSCA Z31A tp3……559,900円(消費税込み)
仔猿が誕生するまで
仔猿の説明をする前に、ここまでの経緯や佐々木さんの苦労を説明しておくことにしよう。佐々木さんが本田技術研究所を退社してCKデザインを立ち上げた一番の理由は、自分のバイクを作りたいという想いがあったからだった。そして1990年代に入った頃から、オリジナルフレームの単気筒ロードスポーツ、HOREX 644-OSCAの開発と生産をスタートさせた。
「自分でバイクを作ろうとしたのはいいんですが、フレームとエンジンという重要な2つが手に入らないわけです。資金を捻出し、エンジンはホンダの単気筒を使えることになりました。車体も製作できることになって、やっとオリジナルのバイクを作るめどが立ちました。」
ヨーロッパで販路も確保して本格的に稼働しようとしたとき、予想外のトラブルに見舞われることになった。東西ドイツの統一である。主要マーケットと考えていた市場の状況が一変したことでプロジェクトは頓挫に近い状態にまで追い込まれることになり、1990年代はこの騒動の後片付けに追われることになった。
「一時はどうなることかと思った。必死でした。」
バイクを作ることなど頭から消え、日々、後片付けに奔走するだけだった。そんなある日、佐々木さんはホンダのGX31エンジンを目にする。ホンダが刈払機などに搭載するために開発した汎用4ストロークエンジンだ。作業者がどのように動かしても対応できるよう、360度どの角度にしても潤滑できるシステムを備え、それまで2ストロークの独壇場だった汎用機の世界に革命を起こしたエンジンだった。
「60年代にホンダがロードレース世界選手権を席巻した時には、50cc 2気筒や125cc 5気筒エンジンがありましたよね。GX31のバルブステムを見たら、あの頃のワークスマシンとそっくりなんですよ。当時の技術がこういうところにも継承されているんだということがわかりました。これを搭載したバイクを作ってみたいと、そのときに思いました。」
GX31はOHVでありながら高回転型の特性だった。このエンジンを活かすには、どんなバイクにすればよいか。その日から佐々木さんの検討が始まる。そして仔猿の原型となるモデルの車体サイズやコンセプトが決まっていった。
「レーサーの設計をやっていてわかったことがあります。バイクの設計の真髄は安全性の追求なんです。」
数々のレーシングマシンを作ってきたノウハウが仔猿に注ぎ込まれ、図面ができ上がっていった。しかし、ここから量産に至るまでには大きなハードルがある。何を作るにも金型が必要になるからだ。大きな問題はタイヤだった。佐々木さんは、台湾のMAXXISに出かけていき、仔猿専用タイヤの生産を打診する。佐々木さんは、マキシスがスタートした1979年当時に技術顧問として仕事をしたことがあったが、それから25年以上が経過していた。要件を伝えずに出かけていき、直談判した。佐々木さんの情熱にほだされて、マキシスは仔猿専用タイヤを生産してくれることになった。部品を製造してくれる会社も1社ずつ自分で回って交渉した。佐々木さんが仔猿を「奇跡の集合体」だと言うのは、こういった苦労が積み重なって、やっと作り上げたバイクだからだ。
仔猿の1号車が完成したのは2002年だった。
「完成した1号車を知人に乗ってもらったんだけど、その人はバイクの運転が下手で『これは乗れない』って言ってきたんです。」
自分でテストするしかないと富士スピードウェイのジムカーナコースで走らせてみて、予想以上の高い走行性能があることを確認。ついに市販化されることになった。そこから少しずつ改良を加えて仔猿は進化していった。
仔猿は各部を改良して進化していった。今回試乗したモデルは3型となる。
「3型が一番小さいんです。もともと小さかったけれど、ホイールベースが少しだけ短くなっています。フレームの肉厚も落としました。やっぱり軽くできるなら軽くしてみたいと思って。」
世界最小はやっぱり小さい
仔猿は実に美しいマシンだった。海外では草刈り機のエンジンを使った子供用のキットバイクなどがあるが、そういったものは単に走るだけのオモチャで、かなり雑な作りになっているものが多い。それに対して仔猿は細かい部分まで非常に美しく作られている。フレームなどの造形やペイントなども上質。そして各部のパーツのバランスが良いので、素晴らしい存在感を作り出している。
このバイク、テスターが走らせるのはかなり大変だ。昔から身体が硬くて可動域が狭いからである。シートに跨ってしまうと足をステップに乗せることが出来ないほど。しかたくなくステップに足を乗せてから、腰をおろすことになる。これだけ小さなバイクで大きく身体を動かすと、グラグラしてしまいそうなものだが、仔猿は実に安定していた。走り出しても安定性が確保されているし、ステアリングやブレーキの操作をしても動きがスムーズ。ガタなどは皆無だ。
GX31エンジンは、スロットルを開けるとスムーズに動き出すし、しばらくは半クラッチの状態で速度が上がっていく。驚いたのはクラッチが完全にミートされて、エンジンの回転が上がりだした時だった。素晴らしい躍動感とともに加速していくのである。このフィーリングが実に面白い。高回転で伸びていく感じは官能的とも言えるレベルだ。このOHVエンジンのファンが多いという理由が分かった気がした。車体が小さいから加速感も強く感じて、たった31ccなのにパワー不足を感じないし、完成された車体によって、最高速付近でも安定性は失われない。
今回の試乗は短時間だったためにフィーリングを確認するだけにとどまったが、仔猿オーナーの中には3万kmを走破したという猛者もいるらしい。小径タイヤの仔猿での3万km走行は、ベアリングの回転数などで考えるとスーパーカブの10万kmに相当するのだとか。佐々木さんが安全性や信頼性を考えて設計したことの証明だろう。
残念なことにGX31は生産中止となってしまったが、仔猿は限定で22ccエンジンを搭載したモデルも計画中だという。近日発表されるであろうその姿がどんなものになるのか、今からとても楽しみなのである。
ポジション&足つき(身長178cm 体重78kg)
車体が小さいのでポジションはタイト。テスターは関節の可動域が狭いこともあり、跨ってステップに足を乗せるだけで一苦労。ハンドル位置が近いため、上体は直立した姿勢になる。テスターの体格だと、膝がハンドルに当たるため、足を開いた状態で乗らなければならない。
言うまでもなく足つきは良好。我が家の三歳児が跨っても難なく車体を支えることが出来た。飛行機で預けるスーツケースよりも軽いため、持ち上げるのも簡単。押し歩きするよりも、持ち上げて運んだほうが簡単なくらいだ。
ディテール





























