連載

【歴史を飾ったライバル対決】

バブル景気の勢いで世界の高級車市場へ挑戦

世界の自動車メーカーが、オイルショックや排ガス規制強化の対応に追われていた1970年代、世界中で燃費の良い小型車が求められるようになった。そのような中で、排ガスや燃費の低減技術、高い品質を背景に海外、特に世界一の大きさを誇る米国市場で日本の小型車は“丈夫で安くて燃費が良い”というイメージが定着。圧倒的な支持を受け、北米の小型車市場を席巻するようになった。

トヨタ「セルシオ」vs.日産「インフィニティQ45」

しかし、好調の日本車にとって手つかずのジャンルがあった。それは、欧州のメルセデス・ベンツ、BMWや米国のリンカーン、キャデラックが、席巻していた大型高級車ジャンルだ。日本車はあくまで庶民派の小型車のリーダーであり、高級車のイメージは皆無だったのだ。

一方で1980年代に入ると日本経済は世界でも類例のないバブル景気を迎え、トヨタと日産は豊富な開発資金を、未開拓の高級車ジャンルに投入できる環境が出来上がっていた。

ホンダ・トヨタ・日産による海外向け高級ブランド設立

世界市場で通用する高級車を販売するためには、経済的で廉価な小型車のイメージが強いホンダ、トヨタ、日産という従来のブランド名ではなく、新たなブランドを本場米国で立ち上げる必要があった。また米国では高級車と大衆車を同じショールームで販売することはなく、ステイタス性を持った高級車ブランド販売網の構築が不可欠だったのだ。

そのような背景から、まずホンダが1986年3月に日本メーカー初の海外向け高級車ブランド“アキュラ”を、1989年9月にトヨタが“レクサス”、同年11月に日産が“インフィニティ”と名付けた高級ブランドを米国で立ち上げた。

トヨタ「セルシオ」(海外名:レクサスLS400)

ホンダのアキュラはまず、高級車でも比較的スポーティな「アキュラ・レジェンド」と「アキュラ・インテグラ」を投入した。一方のトヨタと日産は、メルセデス・ベンツとBMWに真っ向勝負するため、レクサスは「レクサスLS400」を、インフィニティは「インフィニティQ45」というフラッグシップモデルをニューブランド開業とともにリリースした。

日産「インフィニティQ45」

クラウンを超える大型高級セダンを目指したセルシオ

1989年10月にデビューしたトヨタ「セルシオ」(海外名:レクサスLS400)

北米でデビューした「レクサスLS400」は、約1ヶ月遅れの1989年10月に「セルシオ」を名乗って日本デビューを果たした。「クラウン」では満足できなかったユーザーに、「センチュリー」と「クラウン」の中間に位置する高級セダンを提供するのが狙いだった。

1989年10月にデビューしたトヨタ「セルシオ」(海外名:レクサスLS400)のリヤビュー

そのため、特に欧米の高級車に負けない質感や乗り心地、静粛性が重視された。高級セダンらしい重厚なスタイリングと鏡面のような輝きを放つボディ、豪華なインテリアと最新のデジタル装備と、文句なしの豪華さを誇った。

トヨタ「セルシオ」の1UZ-FE型4.0L V8エンジン
トヨタ「セルシオ」の1UZ-FE型4.0L V8エンジン
トヨタ「セルシオ」の1UZ-FE型4.0L V8エンジン

パワートレーンは、LS400用をチューンナップしてパワーアップした、最高出力260ps/最大トルク36.0kgmを発揮する新開発の4.0L V8 DOHCエンジンと、最新仕様のETC-i制御4速ATの組み合わせ。

トヨタ「セルシオ」(海外名:レクサスLS400)のサスペンション
トヨタ「セルシオ」(海外名:レクサスLS400)のエアサスペンション

足回りは、4輪ダブルウィッシュボーンで、標準モデルにはコイルスプリング式、上級モデルにはダンパーの減衰力を自動調整できるピエゾ式電子制御サスペンションを組み込み、さらにフラッグシップモデルには電子制御エアサスペンションを採用し高級車らしい快適な乗り心地を実現した。

トヨタ「セルシオ」(海外名:レクサスLS400)のコクピット
トヨタ「セルシオ」の前席の居住性
トヨタ「セルシオ」の後席の居住性

車両価格は、455万円(A仕様)/530万円(B仕様)/550万円(C仕様)/620万円(C仕様Fパッケージ)。当時の大卒の初任給は16.4万円(現在は約23万円)程度なので、単純計算では現在の価値で約638万円/743万円/771万円/870万円に相当する。

トヨタ「セルシオ」(海外名:レクサスLS400)

セルシオは、メルセデス・ベンツやBMWの高級車と競合できる初めての国内モデルとして大きな注目を集め高級車としては異例のヒットとなった。最も売れたのは、なんと620万円のフラッグシップ仕様だったが、それでもメルセデス・ベンツやBMWの高級車に比べればコスパに優れ、お買い得だった。

レクサスに対抗した日産のフラッグシップ、インフィニティQ45

1989年11月にデビューした日産「インフィニティQ45」

レクサスから1ヶ月遅れの1989年11月にデビューした「インフィニティQ45」は、“ジャパンオリジナル”をコンセプトに開発され、世界に通用する日本独自の価値を追及したフラッグシップセダンである。

1989年11月にデビューした日産「インフィニティQ45」

メルセデス・ベンツ「Sクラス」よりわずかに大きいボディに、ウインカーを含んだ横長のヘッドライトやグリルレスの個性的なフロントフェイス、七宝焼きのエンブレムなど日本の伝統工芸も採用。インテリアも豪華に仕立てられ、前後シートは本革張りとウールファブリックが選べ、インパネやセンターコンソールは欧州高級車を想わせるものがあった。

日産「インフィニティQ45」搭載のVH45DE型4.5L V8 DOHCエンジン
日産「インフィニティQ45」搭載のVH45DE型4.5L V8 DOHCエンジン

パワートレーンは、新開発の最高出力280ps/最大トルク40.8kgmを発揮する4.5L V8 DOHCエンジンと4速ATの組み合わせ、駆動方式はFRのみ。足まわりは、4輪マルチリンクが採用され、路面追従性に優れ、乗り心地を優先したセッティングとなっていた。

日産「インフィニティQ45」のサスペンション
日産「インフィニティQ45」の油圧アクティブサスペンション
日産「インフィニティQ45」のアクティブサスのアクチュエーター

さらに、市販車としては世界初の油圧アクティブサスペンションを一部のグレードに設定。車速や走行状況、路面状況に応じてサスペンションのバネレートや減衰力を制御することで、優れた走行安定性と乗り心地が両立された。

日産「インフィニティQ45」のコクピット
日産「インフィニティQ45」のフロントキャビン
日産「インフィニティQ45」の前席の居住性
日産「インフィニティQ45」の後席の居住性

車両価格は3グレードが用意され、520万円/560万円/630万円に設定された。現在の価値では、約729万円/785万円/884万円に相当する。

1989年11月にデビューした日産「インフィニティQ45」

スペック的にはセルシオと同等のインフィニティQ45だったが、販売面ではセルシオに及ばなかった。個性的なフロントマスクが不評だったようで、セルシオの重厚なスタイリングや静粛性、乗り心地の面でやや敵わなかったのだ。

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セルシオとインフィニティQ45は、“日本車は、安価な大衆車“という世界の固定観念を根本から払拭した。特にセルシオは、メルセデス・ベンツSクラスの約半額で、性能や静粛性、品質管理は上回ったと評価され、欧州の高級車開発に大きな影響を与えたとされる。日本車の地位を変えた歴史の残るモデルとなったのだ。

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