目の前に佇むヌヴォラーリの迫力

その日は突然やってきた。アウディが2026年6月に発表した同ブランド初のスーパーカー、ヌヴォラーリ(Nuvolari)のステアリングを握る日である。499台限定でデリバリー開始は2027年前半の予定。ドイツでの価格は約59万ユーロ(約1億1000万円)になる見込みだ。当初、ゲルノート・デルナーCEO(アウディAG)の助手席でドライブを楽しめると聞いてカーメル(Carmel、米サンフランシスコの南約200km、「モントレー・カー・ウィーク」のモントレーに近い)にやってきたのだが、「後で運転できるから自分で確かめてよ」と当のCEOに言われて確信に変わった次第。

出会いの場はモントレーの南、海に近いカーメル・バイ・ザ・シーからクルマで約30分、山を登った先にある。早朝に移動したので雲海を見下ろすことができたし、鹿や七面鳥のお出迎えを受けた。自然保護区に指定されているため、途中にゲートがある。スパニッシュ・コロニアルスタイルの館(宿泊および飲食施設を備えている)を背にして佇むヌヴォラーリは、すでに迫力があった。スマホやパソコンの画面で見るより躍動的で、低く構えたその姿は今にも獲物に飛びかからんとする猛獣の姿を彷彿とさせる。

AUDI NUVOLARI(ヌヴォーラーリ) 全長×全幅×全高:4720mm×2023mm×1205mm 乾燥重量:1750kg以下

アウディの新しいデザイン言語をまとったヌヴォラーリは、装飾を排したシンプルな線と面で構成されている。アーティスティックに走り過ぎでは?と、公開されたオフィシャル写真を見てそう思ったものだが、そんな危惧は実物を目にした瞬間に霧消した。ヌヴォラーリからは、高いポテンシャルを秘めていることを訴える威圧感すら感じる。

ミッドに搭載するのは4.0L・V8ツインターボ。最高出力:588kW(800ps) 最大トルク:730Nm 最高回転数:10000rpm
フロントアクスルに搭載されている油冷式アキシャル・フラックスモーターは最大2150Nmのトルクを発生。3基目のモーターはV8エンジンとトランスミッションの間に配置

そのプロポーションが示すように、エンジンはミッドに搭載される。4.0L V8ツインターボだ。8気筒にちなんで8つに分割された黒いエンジンカバーの隙間から、Vバンクの内側に搭載されたターボチャージャーがちらっと見えた。エンジンと8速DCTの間にモーターを搭載。フロントにも各輪1基のモーターが搭載されている。各モーターの最高出力は110kW(150ps)。エンジンの最高出力は588kW(800ps)で、システム最高出力は736kW(1001ps)だ。センターコンソール下に搭載するバッテリーの容量は7.3kWhである。

最高速は351km/h

低い位置にあるシートに腰を下ろすと、助手席にアウディでスポーツカー担当のパフォーマンスエンジニアを務めるビクター・ウンダーベルグ氏が乗り込んできて乗り方指南をしてくれた。第一声は以下のとおり。

「このスポーツカーの前後重量配分はリヤが54%、フロントは46%です。日常走行でも高性能、サーキットでも高性能です。ドライブモードはいくつかありますが、E-HYBRIDモードはエレクトリックモード(モーターのみで走行)で、このモードでは150km/hまで走行可能です。航続距離は約18kmです」

センターコンソールにある「エンジン スタート/ストップ」ボタンを押すと、弾けるようにしてV8エンジンが雄叫びを上げた。ステアリングの左右に設置されたノブをひねることでドライブモードを変更できるようになっている。ウンダーベルグ氏が横から手を伸ばして「ダイナミック」(メーターの左側に表示)、「クオリファイ」(メーターの右側に表示)のモードに変更してくれた。

4つのドライビングモードを設定。Eハイブリッドモード/バランスモード/ダイナミックモード/ダイナミックプラスモード

「助手席のパートナーと話したいときや、ゆっくりクルーズしたいときは『バランス』モード(メーター左側に表示)が適しています。『リチャージ』(メーター右側に表示)はバッテリーをできるだけ充電するモードです。右下の赤いボタン(チェッカードフラッグの絵が記されている)を押すとサーキット用に特別に準備したモードに切り替わります。ひねって保持するとトラクションコントロールがオフになり、ABSだけが作動する自由な走行が可能になります」

シャシー(車高と減衰力の調整が可能なサスペンション)の設定はオンロード用とフラットトラック用、バンピーなトラック用の3種類が設けられている。

ステアリングはチルトおよびテレスコピック機構が付いている。いずれも手動。シートのスライド、ハイト、リクライニングの調整も手動だ。電動調整にしなかったのは軽量化のため。シートの調整機構が手動なのは、ベースの高さをできるだけ低く抑えるためでもある。長身のドライバーでもヘルメットを被って乗り込めるようにとの配慮だ。

アスファルトの上に直に座っているかのように着座位置は低い。しかし視界は広く、もぐり込んでいる感覚はない。車両感覚はつかみやすそう、との第一印象だ。囲まれ感が適度にあるので、最高速の351km/hとまでは言わないまでも、超高速域でも安心感は得られそうだ。

アップダウンが激しく、タイトなコーナーが連続する片道1.2マイルの丘陵地帯を、先導車に続いて往復する趣向である。プログラムの開始時に「物理的な限界を試すのではなく、新しいデザインフィロソフィーやインテリアの素材、触感、クワトロ(四輪駆動システム)などのシステムやシャシー設定がどのように走行に影響するのかを体験してください」と釘を刺された。物理的な限界を試す気はサラサラなかったのだが……

エンジンの最高回転数は10000rpmのはずだが……

エンジンの最高回転数は10000rpm!

エンジンの最高回転数は10000rpmのはずだが、始動直後のデジタルメーターはレッドゾーンが7800rpmであることを示していた。エンジンが暖まるにつれレッドゾーンが変化していき、最終的に10000rpmになる由である。

先導車にならってウインカーを出そうとしたが、あるはずのウインカーレバーがない。もたついていると、「運転に必要な操作系はすべてステアリングホイールに集約されています」とウンダーベルグ氏が助け船を出してくれた。視線を落とすとステアリング左側のスポーク部に矢印がふたつ並んでいた。右側にはワイパーのスイッチがある。

通常はオートマチック(自動変速)モードでスタート。パドルを引くと7秒間はマニュアルモードになる。フルタイムのマニュアルモードにしたい場合は、センターコンソールにある「M」のボタンを押す。しばらくオートマチックモードでヌヴォラーリの様子を探ることにした。それにしても乗り心地がいい。タイヤは「BRIDGESTONE POTENZA RACE」のロゴがサイドウォールにある専用開発品。サーキットを5周連続で走っても性能劣化しないポテンシャルを持っているそう。

タイヤはブリヂストン POTENZA RACE リヤタイヤは325/30ZR21(108Y)
フロントタイヤは255/35ZR20(97Y)

サイズはフロントが255/35R20、リヤは325/30R21だ。タイヤとフェンダーの間には、手のひらがようやく入るくらいの隙間しかない。乗り心地は柔らかいとは決して言い切れないが、硬くはなく、引き締まった感じ。ヒョコヒョコした落ち着かない上下動は一切ない。カーボンセラミックブレーキディスクのブレンボCCM-R Plusは一切鳴かないし、タッチがいい。初めてのブレーキでもカクンと前のめりになったり、踏み込みが足りずに踏み増しを要求したりということがない。

電動パワーステアリングは軽めの反力を返してくる。操舵入力に対して応答遅れを感じさせることなく、スッとノーズが向きを変える。ミッドシップに特有の動きと言っていいのだろうか、鼻先に軽さを感じる。自分が回転軸の真上にいるかのようにクルッと回る。ヌヴォラーリの全幅は2023mmだ(全高は1205mmしかなく、全長は4720mmである)。大柄なクルマが多いアメリカにあっても幅に関しては大柄で、道路のセンターに埋め込んであるキャッツアイと路肩との間隔はミニマムだ。

助手席にアウディでスポーツカー担当のパフォーマンスエンジニアを務めるビクター・ウンダーベルグ氏が乗り込んできて試乗はスタート

そんな環境なので物理の限界を試す気にはそもそもなれないのだが、「結構攻められるかも」と思わせるくらいライントレース性がいい。視界に入る道路の形状を無意識になぞるだけでヌヴォラーリは忠実にトレースしてくれる。車両の素性の良さもさることながら、フロント左右のモーターを個別に制御してヨーを意図的に誘発するトルクベクタリングも効果を発揮しているのだろう。アクセルペダルの動きに対する力の出方もイメージどおりで、気難しさは一切ない。

物理の限界を試す気にはならないし、試してはだめだと心に言い聞かせてはいるが、「試しちゃいなよ」とあおってくるのがエンジンだ。さっきから耳の後ろでメカニカルなノイズと太い排気サウンドをミックスした演奏を奏でている。バンドやオーケストラの演奏は前から届いてほしいと思うのに、エンジンに関しては後ろで響いてくれるに限るとヌヴォラーリは再認識させてくれた。

初めて走るルートでカーブが矢継ぎ早にやって来るため、メーターを確認する余裕はないが、マニュアルモードに切り換えてエンジン高めを維持しているつもりでも、先導車がいるのでせいぜい3000rpmがいいところだったろう。それでもいい音を響かせていることに変わりはないのだが、高回転の音を聞いてみたい。助手席のウンダーベルグ氏が「いいよ、10000rpmまで回しても」と条件が整わないことを承知であおってくる。

意図的に先導車との間合いをとり、パドルを使ってシフトダウン。エイヤとアクセルペダルを踏み込んでほんの一瞬だけ強烈な加速を楽しんでみた。フラットプレーン・クランクシャフトを持つヌヴォラーリのV8ツインターボエンジンは、耳を圧するボリュームでもって交響曲のクライマックスのような盛り上がりを披露してくれた。圧巻である。

強く踏み込んだ後で一気にアクセルを戻すとテールパイプからバババババッとバブリング音がして、気分を一段と高揚させてくれる。0-100km/h加速2.6秒、1001馬力のポテンシャルを持つのに、初めて乗ってもドライバーに気を使わせることのないヌヴォラーリの短いテストドライブ、すなわち至福の時間は乗り手に余韻を残して終了した。

「このクルマは圧倒的なパワーを備えているのに、扱いは意外と簡単でしょ。日常で使えるし、サーキット走行も楽しめます。コレクションとして保管されずに、路上で多く見られるようになることを願っています」

ウンダーベルグ氏の意見に完全同意である。眺めて惚れ惚れするクルマであるのは間違いないが、走らせてこそのヌヴォラーリであることを実感した。

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