水没時にドアが開かなくなるのは水圧が原因

冠水した道路を無理に走行すると、あっという間に水位が上昇してエンジンが停止し、立ち往生してしまう危険がある。水深が床面を超えたらただちに警戒が必要である。

車が冠水路に入り込んで水没した場合、水圧の影響でドアを開けることが極めて困難となる。自動車のドアは表面積が大きいため、わずかな水位の上昇であってもドア全体にかかる水圧の総和は想像を絶する大きさとなる。


一般的な乗用車の場合、水深が30センチメートル程度であればまだ自力でドアを開けて脱出する余裕はあるが、それを超えると徐々にドアの重さを感じるようになる。そして車外の水位がドアの半分程度、およそ60センチメートルに達すると、ドアの面積に対して数百キログラムという、物理的に人間の筋力では到底太刀打ちできない水圧がかかるからである。


たとえば、屈強な成人男性がパニックになりながら力いっぱい押し開けようとしても、外側からの強大な水圧に阻まれてドアはまったくびくともしない状態に陥る。さらに、水没の初期段階では車体が浮力を受けてタイヤが路面から離れ、前進も後退もできない完全な操作不能状態に陥る点も見過ごせない。


特に近年多発しているゲリラ豪雨や台風の接近時などにおいては、道路の冠水は数分から数十分という極めて短時間のうちに進行することが多い。周囲の状況を確認する間もなく、アンダーパスやすり鉢状の地形となっている道路では、あっという間に車が完全に水没してしまう。運転手は車が動かなくなった段階でどうしてよいかわからずパニックに陥りやすく、判断がわずかに遅れるだけでも自力での脱出のタイミングを逃してしまうのである。


そのため、車が冠水路で立ち往生し、危険な水没が始まったと認識した段階で、水圧によってドアが開かなくなる前にいち早く車外へ脱出することが何よりも重要である。

ドアが開かない時は脱出用ハンマーで窓を割る

脱出用ハンマーは、運転席から手の届くダッシュボードやコンソールボックスなどに収納しておくことが望ましい。緊急時にシートベルトをしたままでもすぐに取り出せる位置にあるかが重要である。

ドアが開かなくなってしまった場合の確実な脱出方法は、脱出用ハンマーを用いて窓ガラスを割ることである。
車内に閉じ込められた際、極度のパニック状態に陥って素手や足、傘の先端、あるいはスマートフォンやヘッドレストの金具などで窓を力任せに叩いて割ろうとするケースが見受けられるが、自動車の窓ガラスはそのような打撃では決して割れない安全設計になっている。車の側面や後方の窓に使用されている強化ガラスは、面全体に対する衝撃に非常に強い耐性を持っているためである。しかし、先端が非常に硬く鋭利な超硬合金などの形状をしている専用の緊急脱出用ハンマーを使用し、打撃による応力をガラスの一点に集中させれば、力が弱い女性や高齢者であっても比較的容易に粉々に破砕することが可能となる。


実際に窓を割る際のコツとして、弾力があって力が逃げやすいガラスの中央部分を叩くのではなく、窓枠に固定されていてたわみが少なく、衝撃がダイレクトに伝わりやすい四隅のいずれかを狙って強く叩くことが極めて効果的である。強化ガラスに一度亀裂が入れば、クモの巣状にひび割れが広がり、全体が細かく砕け散る性質がある。残ったガラス片で手足を切らないように上着などで保護しながら注意深く足で蹴り出して脱出口を確保し、そこから速やかに車外へと抜け出す。


このように、水位が上がってドアが完全に開かなくなった場合は、迷わず側面の窓ガラスを割って脱出ルートを確保することが自らの命を守る直結の行動となる。

ハンマーがない場合の緊急措置と事前の備え

フロントガラスは合わせガラスになっているため、ハンマーで叩いてもヒビが入るだけで割れ落ちることはない。脱出の際は、必ず側面か後方の窓ガラスを割る必要がある点に注意したい。

万が一、車内に脱出用ハンマーが備わっていない場合は、車内外の水位差がなくなる瞬間を待ってドアを開けるという最終手段がある。もし自力で窓を割ることが物理的に不可能であると判断した場合には、この極限の方法をとらざるを得ない。


水没がさらに進行していくと、水圧によって生じた車のわずかな隙間やエアコンの通気口などから、徐々に車内へと泥水が浸入してくる。そして車内の水位が上昇し続け、外の水位とほぼ同じ高さに達した瞬間、ドアを外から押さえつけていた水圧と車内から押し返そうとする水圧が完全に均衡し、ドアにかかる強力な抵抗が一時的に減少するからである。このタイミングを冷静に見計らい、水面が顔の高さに迫る中で大きく深呼吸をして肺にたっぷりと空気をため込んだ上で、足などを使って全身の力を込めてドアを蹴り開ける必要がある。


しかし、この方法は車内が冷たく濁った水で満たされるまでじっと待つという想像を絶する恐怖と闘う必要があり、同時に息継ぎができずにそのまま溺れるリスクや、低体温症に陥るなどの命に関わる極めて高い危険を伴うため、あくまで最後の最終手段として認識しておくべきである。


また、水没時には泥水の影響で電気系統がショートすることでパワーウィンドウが動かなくなるだけでなく、シートベルトのロック機構が作動して外れなくなる事態も十分に想定される。確実な安全を確保するためには、シートベルトカッターが付属した緊急脱出用ハンマーを、トランクやダッシュボードの奥深くではなく、日頃から運転席に座ったまま確実に手の届くコンソールボックスなどの場所に常備しておくことが何よりも大切だ。