Audi Nuvolari

無言のうちに実力を伝える姿

アウディ ヌヴォラーリ
アウディ ヌヴォラーリ

来た、見た、乗ったのは「アウディ ヌヴォラーリ」である。ユリウス・カエサルの言葉を借りたくなるほどの衝撃的な体験だった。デリバリーは2027年前半に開始される予定。499台限定のスーパーカーだ。ドイツ本国での価格は約59万ユーロ(約1億1000万円)が見込まれている。

自動車の祭典、モントレー・カーウィーク(米国カリフォルニア州)で展示されたヌヴォラーリは、そこから南東に位置するカーメルの自然保護区に指定された丘陵地帯に運ばれ、1920年代に建てられたスパニッシュコロニアルスタイルの屋敷を中心に据えた複合施設で筆者を含む各国のメディアを待ち受けていた。

6月にヌヴォラーリが発表された際、スタジオで撮影された写真やF1モナコGPの舞台となったコースを走る動画を見た際は、正直、端正にすぎて迫力に欠けるのでは、と思った。直線と平面で構成された、装飾を排したシンプルな造形は、それはそれで個性的ではあるものの、スーパーカーらしい存在感は希薄に感じられた。

いまひとつ迫力を感じなかったのは、撮影された写真の多くが、全高が1205mmしかないヌヴォラーリの高さに合わせて撮られているせいかもしれない。実車を眺める際は当然ながら見下ろす格好になり、そうして眺めてみるとずいぶん躍動的に感じられるし、平板に見えたリヤフェンダーは思っていた以上にふくよかだ。システム最高出力1001PS、0-100km/h加速を2.6秒でこなす実力を無言のうちに伝えてくる。実車には、それだけの迫力がある。

新デザインを反映した初のモデル

アウディ ヌヴォラーリを運転するゲルノート・デルナーCEO(右)
アウディ ヌヴォラーリを運転するゲルノート・デルナーCEO(右)

現地で説明役を買ってくれたデザイナーによれば、フロントマスクは「典型的なスーパーカーのような攻撃的なデザインにはしたくなかった」という。冷却と空力に必要な開口部を理解したうえでクラリティ(明快さ)、シンプリシティ(シンプルさ)、そしてテクニカルオネスティ(技術的に誠実なこと)をテーマにデザインした。これがアウディの新しいデザイン言語を構築するうえでのベースにある。

現地でヌヴォラーリのステアリングを握ったゲルノート・デルナーCEOは助手席の筆者に対し、次のように話してくれた。

「ヌヴォラーリはアウディの新しいデザインを反映した最初のクルマです。このクルマを手始めに、その後に登場するクルマはよりシンプルなデザインになります。2027年にも何かサプライズがあるかもしれません。2028年以降もたくさんの量産車が控えています。新しいデザイン言語を携えてステップ・バイ・ステップで進めていきます」

手に触れる部分はすべてアルミ製

アウディ ヌヴォラーリ
アウディ ヌヴォラーリ

ドアハンドルは、「アウディ R8」のサイドブレードを連想させる黒いパネルの内側、インタークーラーに冷却風を送り込むダクトの裏側にある。手を差し込んで突起を押し込むとカチャッと金属的な音が響いてドアがアンロックされる。電磁ロックだ。

ボディワークと同じCFRP(カーボン繊維強化プラスチック)製のシェルを持つシートはフロアに直付けしたかのような低い位置にある。スライド、ハイト、リクライニングの各種調整は電動ではなく手動。その理由をスポーツカー担当パフォーマンスマネージャーのビクター・ウンダーベルグ氏は「軽量化のためと高さを抑えるため」と説明した。ステアリングのチルトおよびテレスコピック調整も手動。各種調整のレバーをはじめ、空調ルーバーやハザードスイッチなど、手に触れる部分はすべてアルミニウム製だ。

フロント各輪とリヤに合計3基のモーターを持ち、7.3kWhの容量を持つバッテリーを搭載するヌヴォラーリは、E-HYBRIDモードを選択すると150km/hまで、最大で約18kmはEV走行が可能になる。このモードはデルナーCEOとのドライブで体験したので、筆者自らが運転する際は最初から4.0リッターV8ツインターボエンジンに火を入れた。暖機中のアイドル回転数は1500rpmなので、それだけでもかなり迫力のあるサウンドが背後から響いてくる。

内燃機由来の応答遅れをモーターでカバーか

テストドライブは先導車付き。ハナからそのつもりはなかったが、「物理的な限界は試さないで」と釘を刺された。8速ある変速段のうち2速か3速でクルーズするのにちょうどいいペースで丘陵地帯のワインディングロードを走った。8速DCTの変速はスムーズ。存在感の強いエンジン回転の変化で変速したことはすぐにわかるが、変速にともなうショックは皆無だし、パドルを操作した際も含めてギヤの切り替えは瞬時だ。

アクセルペダルの動きに対する力の出方は過敏でもなくダルでもなくイメージどおり。想像になるが、高出力過給エンジン由来の応答遅れはモーターのアシストでカバーしているのだろう。アクセルペダルの動きに対する反応はものすごくいい。スイッチを入れたらパッと光るLEDのようで、電球のようにのんびりしていない。

ステアリング操舵に対するクルマの動きも同様。まるでゴーカートでも操っているかのようにスイスイ曲がる。その際、自分が回転軸の中心にいる自覚がある。オフィスチェアで脚を浮かせてクルクル回っている感覚だ。ただし、ずっと低い位置に座っているけれども。さらに、くさびを道路に打ち込みながら走っているかのように、ガシッと路面をつかんでいる頼もしい感覚がある。

ライブハウスに図書館の静寂を求めてはならない

ヌヴォラーリはフロントが255/35R20、リヤは325/30R21サイズの、サーキットを5周連続で走っても性能劣化しないブリヂストン・ポテンザレースを履いていた。タイヤとフェンダーの間には、手のひらがようやく入るくらいの隙間しかない。ガッチガチの乗り心地を覚悟したが、快適至極の乗り心地で、お世辞ではなく日常使いができそう。サーキットを走る際は、シャシーセッティングを「オンロード」から「トラック」モードに切り換えればいい。

エンジン運転時の車内は決して静かとは言えず、同乗者と会話する際は声のボリュームを1クリックか2クリック上げる必要がある。ヌヴォラーリのようなスーパーカーに静粛性を求めるのは、ライブハウスに図書館のような静寂を求めるのと同じで無粋である。精密に動いていることを感じさせる機械音と太い重低音がミックスした刺激的なサウンドを奏でているのだから、積極的に楽しむべきだ。自分が指揮者となり、足先の動きひとつでサウンドを自在に変化させることができるのだから。回転数の上昇にともなって、背後から軽い振動が襲ってくるオマケ付きだ。

合理性と機能性に裏打ちされたアウディの新しいデザイン言語をまとったヌヴォラーリは冷徹な表情を持つ。しかし、エンジンに火を入れ、ドライバーの意思で動かしているときはとっても情熱的になることがわかった。静と動のコントラストと冷と熱の二面性がこのスーパーカーの魅力だろうか。

PHOTO/Audi AG、世良耕太(Kota SERA)

ハイブリッドスーパースポーツ「アウディ ヌヴォラーリ」のエクステリア。

アウディ初の市販ハイブリッドスーパースポーツ「ヌヴォラーリ」がデビュー「最高出力1000馬力超」【動画】

2026年6月4日、アウディは、高性能ハイブリッドパワートレインを搭載した初のスーパースポーツ「ヌヴォラーリ」を発表した。499台限定のヌヴォラーリは、システム最高出力1001PS、最高速度350km/hオーバー、アウディの市販モデルとしては最速・最強の存在として開発された。デリバリーは2027年前半から開始される予定だ。