開発コンセプトは「Easy to Switch!」

スズキは2026年8月24日、同社の軽乗用EV第一弾となる「e SKY(イー・スカイ)」のプロトタイプを公開した。見てのとおり、背はそこまで高くない。全高は1625mmで、スペーシア(1785mm)より低く、アルト(1525mm)より高くて、ワゴンR(1650mm)と同じくらいだ。リヤドアはスペーシアのようなスライドドアではなく、アルトやワゴンRと同じヒンジドアである。




e SKYの開発コンセプトは「Easy to Switch!」。意訳すれば「乗り換えるのが簡単」の意味で、何から乗り換えるかというと、ガソリンエンジンを積んだ軽乗用車である。EV(電気自動車)だからといって特別に気負うことなく乗り換えられるコンセプトで開発は行なわれた。e SKYは「EVである前に軽自動車である」「今まで通り、日常の足としてちゃんと使える」ことを重要視している。


運転席のドアを開けて目に飛び込んでくる景色は、今までの軽自動車とそれほど変わりはない。センターに設置されている10.1インチディスプレイオーディオはスズキの軽初採用とのことで存在感たっぷりだが、先進的すぎてどうしようと、戸惑うほどではない。

システムを起動する「POWER(パワー)」スイッチはステアリングホイールの左横にある。P/R/N/D/Bのシフトポジションを切り換えるのは、見慣れたレバータイプ。パーキングブレーキは足踏み式でもハンドブレーキ式(レバー式)でもなく、電子式(電動パーキングブレーキ:EPB)である。スイッチはハンドブレーキの位置、すなわちセンターコンソールの後ろ側にあり、初めて乗ってもわかりやすい位置にある。

となりの「HOLD(ホールド)」は信号待ちなどでの停車中にブレーキを保持してくれる機能のスイッチ。クルマが自動的にブレーキをかけておいてくれるので、ドライバーはブレーキペダルから足を離しておくことができる。アクセルペダルを踏むと、ブレーキは自動的に解除される。信号待ちなどでは右足が自由になるので楽だ。
EPBのスイッチの前方には、シートヒーターのスイッチがある。EVはヒーターの熱源となるエンジンを積んでいないため、寒い冬の暖房が苦手。空気を暖めるヒーターも備えているが、直接肌にあたるシートヒーターは即効性があるし、電費面でもメリットがあるのでEVの定番的装備になっている。e SKYはステアリングヒーターも備えており、スイッチはステアリングホイールの右側にある。

実は空調の設計も凝っている。「ガソリン車と同じ考えでやっているだけ」と技術者は謙遜するが、快適性を保ちつつ電費を向上させる観点で、空気の通り道の圧力損失低減を図ったり、吹き出し口の位置や向きを最適化したりしている。少ない消費電力で早くキャビンを暖めるのが狙い。冬に暖房を使うと実電費が落ちるのはEVあるあるだが、そうならないよう作り込んだという。
抜群の電費と静粛性
スズキの言う「いままで通り、日常の足としてちゃんと使える」は、「週末は少し足を伸ばして隣県の温泉に行く」ような使い方も想定している。そのため、相応の航続距離を確保した。カタログ値の一充電走行距離は310kmである。正極材にリン酸鉄リチウム(LFP)を使うリチウムイオンバッテリーの容量は26kWhで、交流電力量消費率は97Wh/kmとなる。

つまり、電費がいい。例えば、29.6kWhのバッテリー(三元系リチウムイオンバッテリー:NMC)を積むホンダN-ONE e:の一充電走行距離は295km、BYDラッコの一充電距離はe SKYよりも長い320kmだけれども、バッテリー(LFP)容量は35.84kWhである。日産サクラはバッテリー(NMC)容量20kWhに対して一充電走行距離は180km。e SKYの電費の良さが光る。バッテリー容量を小さく抑えることができれば軽量化に効くし、電費にも効き、コスト面でもメリットが生じる。
ガソリンエンジンを積んだ今までの軽自動車から乗り換えても違和感なく付き合えることを目指して開発したe SKYの特徴は、4.4mの最小回転半径にも現れている。EVにすると重たいバッテリーを搭載するため車重がざっと200kgは重くなる。重たい車重を支えるためにタイヤのサイズを大きくしたい。すると、切れ角の観点から最小回転半径が犠牲になりがちだ。


e SKYの4.4mの最小回転半径は、アルトやワゴンR(一部)、スペーシア(一部)と同じである。ちなみにN-ONE e:は4.5m、サクラとラッコは4.8mである。小型車スズキ・ソリオの最小回転半径は4.8m。「なぜ、小型車の最小回転半径を軽自動車のお客様に与えなければならないのか。それはできない」と、e SKYの開発者は言う。
「完全な無音にする気はなかった」とのことだが、プロトタイプ車をクローズドコース(袖ヶ浦フォレストレースウェイ)で走らせた際は「ものすごく静か」だと感じた。コースがフラットで平滑なことを差し引いて評価する必要はあるものの、少なくとも騒々しくはない。それに、確かに無音ではない。
高周波のノイズは耳に届くが耳障りなボリュームでも音質でもない。車速の上昇と連動して音が変化するため、車速の変化を感じとるのにちょうどいい。開発者によると、そうなるよう狙って開発したとのこと。

軽商用EVのeエブリイ(2026年3月9日発売)がBluE Nexus(ブルーイー・ネクサス)製のeアクスル(モーター、インバーター、減速機を一体化したユニット)を積んでいるので、てっきりe SKYもBluE Nexusのeアクスルを搭載しているものと決めつけてかかったが、e SKYのeアクスルはスズキ自社開発品である。eエブリイの開発を横目で見ながら、いかに小さくし、限られたスペースに搭載できるかの観点で開発したそう。音に関しては、リニア感がなく急に鳴ったりする電気系の音を消し、ギヤ起因のノイズについては作り込みを行なったという。
e SKYは目新しさや先進感をウリにはしてない



走りに関しては、次のような考えに基づいて開発が行なわれた。
「加速が良すぎるとショック感につながるし、弱すぎるとダイレクト感が不足してEVのメリットが伝わらない。スッと踏めばやさしく、グッと踏めば力強く。ショック感の少なさとダイレクト感のバランスどりに注力しました」(開発者)
アクセルペダルの踏み込みに対する力の出方は過剰ではないし、物足りなくもない。アクセルペダルを戻したときの減速感はガソリン車と同等の印象。Bレンジを選択すると減速感が強くなるのはガソリン車と同じ。アクセルペダルの戻し側で積極的に減速側をコントロールしたい場合は、ステアリングホイールの右側にあるイージードライブペダルのスイッチを押すといい。アクセルを戻したときに減速感は強くなるが、完全停止はしない。あくまで、ガソリン車から乗り換えた際に違和感を感じなくて済む考えを貫いている。
エクステリアとインテリアからメッキパーツを排除するなど、高級感の演出に新たな手法を取り入れたりしてはいるが、e SKYは目新しさや先進感をウリにはしてない。ガソリンエンジンを積む従来の軽自動車から乗り換えた際に、違和感を感じなくて済むことが大事。この考えを徹底し、開発されたクルマである。

スズキ e SKY(プロトタイプ)
全長×全幅×全高:3995mm×1475mm×1625mm
ホイールベース:2460mm
トレッド:F1285mm/R1295mm
最低地上高:140mm
最小回転半径:4.4m
車両重量:1030kg
モーター
最高出力:47kW
最大トルク:133Nm
バッテリー:LFP(リン酸鉄)リチウムイオン電池
バッテリー容量:26kWh
ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク/Rドラム
タイヤ:F&R 165/65R14 79S
性能
一充電走行距離:310km
交流電力量消費率:97Wh/km
