『形態は機能に従う』デザインはわずか405日間で


ガエル・ブジン(Gael Buzyn)氏は米ロサンゼルスの西側に隣接するマリブにあるアウディのデザイン拠点に籍を置くデザイナーだ。アウディ初のスーパーカー、ヌヴォラーリについては「(アウディの本拠地があるドイツ)インゴルシュタットで開発され、最終的に完成した」と話すいっぽう、「初期の段階で関与した」とのことで、実車を前にしながらエクステリアデザインのポイントについて解説していただいた。
「開発プログラムはものすごい速さで進みました。ヌヴォラーリのために結成されたスペシャルなチームは、フォーミュラ1の開発プロセスを調査し、決定プロセスがどのように行なわれているか学び、それをこのクルマの開発に適用したのです」
スケッチの段階から完成までに要した期間は、わずか405日だったという。


「ヌヴォラーリはアウディブランドの今後のデザインの方向性を示しています。そのブランドデザインとは、クラリティ(明快さ)、シンプリシティ(シンプルさ)、そしてテクニカルオネスティ(技術的に誠実なこと)です。私たちはバウハウスからその哲学を受け継いでいる伝統があります。Form follows function(形態は機能に従う)です。ヌヴォラーリはまさにこの考えを実践しています」
2026年6月にヌヴォラーリが発表され、いくつかのオフィシャル写真が公開された。それを見たときに筆者はまさに、バウハウスを連想した。ブジン氏の説明を受けて合点がいった次第。
バウハウス(Bauhaus)は1919年にドイツ・ワイマールに設立された、建築・芸術・デザインを総合的に教えた学校であり、その運動である。拠点を変えながら1933年まで活動は行なわれた。Form follows functionはバウハウスを象徴するフレーズのひとつで、建築や工業製品に関しては無駄な装飾を排し、機能を突き詰めることで生まれる美しさを理想とした。このDNAをアウディのデザインチームは受け継いでおり、その最新の解釈がヌヴォラーリというわけだ。


「スポーツカーは形や線を通じてスピードとパフォーマンスをアピールしようとします。速そうに見せたいし、形が空力的であることを示そうとします。私たちは技術を称賛し、それらを適切に配置することでスピードとパフォーマンスを最高の形で表現しています。デザインのシンプルさゆえに、完璧なバランスを保つのは難しい。私たちは完璧なプロポーションを手に入れるために、パッケージングのチームと徹底的に議論しました」

ブジン氏は完璧を求めるために苦労し、努力した例としてリヤフェンダーの造形を挙げた。
「線は面をつなぐために存在します。線と線の間にある面を筋肉質に見えるようにするために、多くの努力が注がれています。ある意味それは建築的なアプローチとも言えます。ここ(リヤフェンダー)の曲線は後ろ(ドアの後ろからリヤエンドにかけて)まで延びています。よく見るとポジティブな面からネガティブな面に変化しているのがわかるでしょう。こうすることで、この部分のボリュームが美しく見えるのです」
クレイモデルは依然として重要だ




ブジン氏はクレイモデルの重要性を説く。
「この美しさは、クレイモデルを用いて丁寧に作業することで成り立っています。デジタルの世界で多くのことができますが、私たちには素晴らしい職人(クレイモデラー)がいて、本当に欲しい物を上手に手に入れる方法を知っています。彼らはアーチストです。私たちデザイナーにも芸術的なバックグラウンドはありますが、カスタマーやマーケット、そして技術のことも含めて論理的な考え方が求められます」

「もうひとつ見てもらいたい」と言ってブジン氏が指さしたのは、リヤフェンダー後端上部の角だった。そこでは前後方向、左右方向、上下方向の線が集まり、鋭い角を形作っている。チタンカラーにペイントされているが、ボディを構成するパネル類はすべてカーボンファイバー強化プラスチック(CFRP)製だ。リヤバンパー下端、ディフューザー部は炭素繊維のシート模様をあえて露出させている。
「カーボンファイバーの技術をフォーミュラ1の開発から学びました。金属のプレス成形では困難な形状で、おかげでデザイナーが望む形を実現できています。このコーナーからラウンドした形状のホイールアーチにかけてをひとつの面でつなげることができています。シンプリシティの考え方を象徴していると言えるでしょう」
可動式リヤウイングに設けられたフォーリングスもこだわりのひとつだ。
「私たちはロゴを装飾的にはしたくありませんでした。ロゴを入れる必要はありましたが、エキゾーストが高い位置にあるので、背面に入れることはできませんでした。そこでウイングに入れることにしたのですが、そこに立体的なロゴを付けたらドラッグ(空気抵抗)が増えてしまいます。そこで、ロゴを埋め込むことにしました。レーザーでカーボンファイバーを切り取り、そこにアルミニウムのピースを隙間なく埋め込んでいます」

細部へのこだわりを示す一例である。また、フロントフェイスは「典型的なスーパーカーのような攻撃的なデザインにはしたくなかった」とブジン氏は語る。
「存在感やエモーションは、技術的な要件に基づいて設計を進めるなかで生まれます。まずどれだけの開口部が必要かを理解し、それに基づいてフェイシアを作り上げました。その結果、シンプルながらも攻撃的すぎず、過激でもない、エモーショナルな力強さがフロントから伝わってきます」
理由のない線も面も、形も存在しない。それがアウディ・ヌヴォラーリだ。

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