デビュー3戦は初期トラブルの連続で熟成不足を露呈

スバルとアライモータースポーツが全日本ラリー選手権2026年シーズンの途中、第3戦「ラリー飛鳥」から投入したBRZをベースとした新型ラリーカー「Boxer Rally spec.Z」。WRX S4より小型でクーペボディによる低重心と徹底したマスの集中化が図られた掟破りの四駆ターボマシンだ。

Boxer Rally spec.Z(発表会時)

しかし、突貫工事とも言える急ピッチな開発で2026年4月24日発表、5月8日〜10日の「ラリー飛鳥」でデビューを飾った。シェイクダウンから実戦まで十分なテスト期間が無かったことから、実戦ではトラブルも含め多くの課題を残すことになった。

「ラリー飛鳥」のBoxer Rally spec.Z。

その後、トラブル対策や改良を重ねて第4戦「久万高原ラリー」、初のグラベル戦となる第5戦「ラリーカムイ」に挑むも、新たなトラブルと課題が続出。ファンおよび関係者には残念な結果となってしまった。

イベント結果車両内容
第1戦 RALLY三河湾(2/27-3/1)リタイヤ(SS2)WRX S42025年仕様に対しエンジン制御を変更。
第2戦SAGA RALLY(4/3-5)総合5位/クラス5位WRX S4WRX S4の実質的な最終戦。
信頼性対策を施したエンジンを投入。
第3戦YUHO Rally 飛鳥(5/8-10)総合6位/クラス5位Boxer Rally spec.ZBoxer Rally spec.Zの初戦。
初期トラブルに悩まされながらもなんとか完走。
第4戦久万高原ラリー(6/19-21)デイリタイヤ(SS4)
リタイヤ(SS5)
Boxer Rally spec.ZSS4、SS5で発生した電装系トラブルでリタイヤ。
ターマックセッティングはまだまだ改善の余地あり。
第5戦ARK ラリー・カムイ(7/10-12)総合5位/クラス5位Boxer Rally spec.Zシーズン初のグラベルラリー。
SS2終了時点で総合2位につけたが、SS3での駆動系トラブル修復で250秒のペナルティ。
サスセッティングの熟成不足やエンジンレスポンス不足の課題が明確になった。
第5戦終了時

Boxer Rally spec.Zの課題とトラブル対策

急ピッチで開発され、突貫で実戦投入されただけにBoxer Rally spec.Zの熟成不足と初期トラブルの発生は否めない。一方で、ライバル車に対するパフォーマンス不足な面も明らかになっている。

「ラリー飛鳥」のBoxer Rally spec.Z。

ハンドリング面では意図しないクルマの向きの変化の大きさ=カウンターステアの多さを舵角の大きさがタイムロスに繋がっていることが、初のグラベルラリーである「ラリーカムイ」で明らかになった。特に、今年の「ラリーカムイ」は悪天候による路面コンディションの悪さに加え、XCR車(クロスカントリークラス)が先に走行したことも影響したとは考えられる。

「ラリーカムイ」のBoxer Rally spec.Z。

また出力面では、ライバル車であるトヨタGRヤリス・ラリー2やシュコダ・ファビアRSが実質コンペティションスペックのエンジンを搭載するのに対し、Boxer Rally spec.Zのエンジンは市販車ベース。排気量のアドバンテージこそあるものの、改造されているとはいえコンペティションエンジンに対して、特にレスポンスで劣っている。それがタイトコーナーからの立ち上がり、上り勾配でのダッシュで大きな差になっている。

勾配が少なくアクセルのオンオフが少ない高速コースやコーナーの連続ではラリー2車両と遜色ないタイムが出ているだけに、この課題は明らかだ。 

「久万高原ラリー」のBoxer Rally spec.Z。

トラブルに関しては走らせてみて初めてわかる、発生することも多く、対症療法的に対策が施されているが、テスト走行が少なく後手後手にまわっている感は否めない。

Boxer Rally spec.Zのサービス(「ラリー飛鳥」)。完成させることを優先したため、メンテナンス性は良くない。そのことが「ラリーカムイ」での駆動系トラブル修復でのペナルティに繋がった。今後、メンテナンス性の改善も課題のひとつとなる。

「ラリーカムイ」に続き同じく北海道で開催される「ラリー北海道」はグラベルの連戦となる。「ラリーカムイ」後にこれらの課題解決とトラブルへの対策のためのアップデートが実施され、一定の成果を上げているという。厳しいラリーが続くBoxer Rally spec.Zだが、「ラリー北海道」ではこれまで以上の好成績を期待したい。

イベントトラブルと対策の内容
第3戦YUHO Rally 飛鳥(5/8-10)・デビュー戦
・ターボ破損
・排気系破損
・吸気系エア漏れ
・ドライブシャフト破損
・エンジン熱害とオイル類冷却不足
第4戦久万高原ラリー(6/19-21)・熱害対策
・駆動系オイル冷却強化
・高地対応エンジン適合
・パワステセッティング変更
第5戦ARK ラリー・カムイ(7/10-12)・トランスミッションギヤ比のローギヤ化
・電装系信頼性向上
・エンジン適合変更
第6戦ラリー北海道(9/4〜6)・フロントサスペンションクロスメンバー剛性アップ
・リヤサスペンション剛性チューニング
・エキゾーストマニフォールド変更
・ターボアクチュエータ電動化
・エンジン適合変更
・駆動系強度アップ
かねてより課題だったコックピットの熱対策として、リヤクォーターウインドウを持ち上げてエアアウトレットとした。しかし、これでも熱対策、特にターボがあるコドライバー側の足元はまだ不十分のようだ。

スバル/アライモータースポーツでは、今シーズン中の3位表彰台獲得を目標としている。アップデートされたBoxer Rally spec.Zは「ラリー北海道」でその目標を達成することはできるだろうか?

Boxer Rally spec.Zのステアリングを握る新井敏弘選手。アップデートにより1kmあたり1秒ほど速くなっており、「ラリー北海道」での好結果が期待される。

Boxer Rally spec.Zの増車は急務

デビューから4ヶ月。目下苦戦中のBoxer Rally spec.Zだが、ほとんどぶっつけ本番での実戦投入と考えればトラブルが重なるのも致し方ない面もある。まして、市販車とは全く異なる構造のブランニューマシンともなれば尚更だ。

Boxer Rally spec.Zのエンジンルーム(発表会時)。ターボ化されたFA24型エンジンはなるべく後方に配置し、マスの集中化を図る。AWDシステムはフロントデフをエンジンの左下に配置するFRベースの非対称レイアウトになっている。

方やライバルのラリー2車両はすでに全世界のカスタマーにより多くの実戦を重ね実績を上げてきたマシン。熟成・開発途上のBoxer Rally spec.Zとの差は大きい。

トヨタGRヤリス・ラリー2
シュコダ・ファビアRS

2026年中の実戦投入を目指して突貫工事で開発されたBoxer Rally spec.Zだが、熟成を進めライバル車との差を詰めるためには今以上にテストを重ねる必要があるのは明白。しかし、現状ではBoxer Rally spec.Zは1台しかなく、この1台でテストも実戦もこなさなければならない。少なくとも実戦車とテスト車の2台体制になれば開発も熟成も今以上に進められるだろう。

Boxer Rally spec.Zとドライバーの新井敏弘選手。

スバルは「パフォーマンスシーンでブランドを際立たせる」ことを掲げているだけに、全日本ラリー選手権におけるBoxer Rally spec.Zの役割は大きい。そのためにも、車両の追加も含めさらなる開発と熟成が進み、スバルが表彰台の頂点に帰ってくることを願ってやまない。

全日本ラリー選手権参戦車とスーパー耐久シリーズ参戦車。