BMW iX3

先の読めない電動化時代を見据えて

BMW iX3。フラッシュサーフェスドアハンドルを採用。
BMW iX3。フラッシュサーフェスドアハンドルを採用。

BMWの新時代コンセプト「ノイエ・クラッセ」第1弾として登場した新型フル電動DセグメントSUV「iX3」に試乗した。英語で「ニュークラス」を意味するノイエ・クラッセは、もともと1960年代に登場した「BMW 1500」に端を発する新モデル群に用いられたコンセプトで、当時経営危機にあった同社を救い、後の「3シリーズ」「5シリーズ」に続くブランドの礎を築いた重要なターニングポイントでもあった。今回の新ノイエ・クラッセも、先の読めない電動化時代を見据えた大きな期待が込められている。

ボディサイズは主力のミドルサイズSUV「X3」に近い。全長4780mm(X3 20 xDrive オリジナル比+25mm)、全幅1895mm(同−25mm)全高1635mm(同−25mm)なのでやや小ぶりと言っていいが、ホイールベースは2895mmで30mm長い。ちなみに内燃エンジン(ICE)車のX3は依然として継続販売されるので、フル電動ならiX3を、ICEならX3という棲み分けがなされる。

すでにその姿は、すでに昨年のJMSや7月の発表会で見てきたが、こうして改めて陽の光の下で見ると、新世代BMWの発するオーラが眩しい。1960年代のノイエ・クラッセを現代的に再解釈したという最新のエクステリアデザインは、縦型キドニーグリルと逆スラント気味に配置されたヘッドライトや、キャラクターラインが少ないボディサイドなど塊感を強く感じる。都内から箱根往復の半日ドライブでは、自意識過剰かもしれないが道ゆく人の視線を強く感じた。

視界に入る情報を広げる執念

BMW iX3のインテリア。4本スポークステアリングが目を引くが、パノラミック・ビジョンも新しい。
BMW iX3のインテリア。4本スポークステアリングが目を引くが、ダッシュボード奥のパノラミック・ビジョンも新しい。

電気スイッチ式のドアハンドルを引いて乗り込んで最初に驚くのは、十字スポークのステアリングだろう。試乗序盤はステアリングを大きく切った時に今どのくらい回しているのか一瞬わからかったが、しばらく乗っていると12時付近を片手で握るような雑な運転ポジション癖が自然と減っていたから面白い。

もうひとつ室内の大きなハイライトが「BMWパノラミック・ビジョン」だ。従来のメーターパネルが廃止され、フロントウインドウ下のダッシュボード先端に約110cm幅で配置されたディスプレイに、速度、ADAS状況、バッテリー残量、航続可能距離などが表示される。これが想像以上に自然で、視線移動は最小で必要な情報が得やすい。ヘッドアップディスプレイより情報量が多いのもいい。ダッシュボードそのものが低く感じられ、低重心な運転感覚もあって、車高の低いクルマを運転しているように錯覚している。17.9インチセンターディスプレイはステアリング形状とマッチしたひし形で、パノラミック・ビジョンと相まって、視界に入る情報をギリギリまで広げているような執念すら感じた。

ところでパノラミック・ビジョンの表示内容はかなり細かくカスタマイズでき、前述項目のほか、気温、消費電力、モーター回転数、出力、トルク、アクセル開度など表示できる情報が多いのだが、選択肢が豊富すぎて戸惑った。初見の半日試乗ですべてを理解するのは難しく、2001年に登場したE65型「7シリーズ」のiDriveに初めて触れた四半世紀前を思い出した。これはオーナーになれば、さぞかし日々研究しがいがあるのではないかと思った。

一方で物理スイッチを極力排してタッチパネルとしている傾向はますます進んでいる。ステアリングに物理スイッチが残っているのは良心と感じたものの、今後のデザイン変更を期待したい。ちなみにETC車載器がルームミラー内蔵ではなく運転席足元に移動していた。ETC車載器内蔵のルームミラーは分厚く、大きかったので、車種によっては視界が遮られることもあったから、こちらは嬉しい改良点である。

鋭いレスポンスでみるみる加速

BMW iX3。発光するアイコニック・グローや垂直に配置されたLEDヘッドライト。
BMW iX3。発光するアイコニック・グローや垂直に配置されたLEDヘッドライト。

本邦に導入されたiX3は「50 xDrive」という5.0リッターを思わせる動力性能を持つ上位グレードAWD車を基本に、21インチホイールを履き、ブレーキを強化した「Mスポーツ」の2グレードが用意される。今回試乗したのは、後者のiX3 50 xDrive Mスポーツとなる。

箱根のワインディングでアクセルを踏み込むと、2.3tの車重ながらフロントが浮き上がるような感覚を伴い猛然と加速する。フロントに最高出力123kW(167PS)、最大トルク255Nm、リヤに240kW(326PS)、435Nmの前後2モーターを搭載するAWDで、システム最高出力345kW(469PS)、同最大トルク645Nmを誇り、0-100km/h加速は4.9秒、最高速は210km/hの高性能SUVである。近年のBMW車のドライビングモードにあたるマイモードはパーソナル、スポーツ、エフィシェント、サイレントの4モードから選択できるが、どれを選んでも踏み込めば加速は暴力的だ。

今や1000PSを超えるような「ポルシェ カイエンターボ エレクトリック」(ローンチコントロール時=1156PS)のようなフル電動SUVも登場しており数値にそのものに驚くことは減ったが、高出力モーターの鋭いレスポンスでグワッと速度計の数字を上乗せしていく。だが、iX3の本質はそういった従来型フル電動車の桁外れの動力性能ではない。

ドライバーの運転能力が退化するほどの制御

走り出してすぐに新時代BMWを感じたのは、周囲の状況に応じて最適な回生ブレーキに調整される「アダプティブエネルギー回生」機能の秀逸さだ。前走車が近ければ回生を強め、前走車が停車すればそれに倣ってスーッと自然に停車する。前走車がいなければ回生を弱めてコースティングする。渋滞時はアクセルペダルだけのワンペダル感覚だ。こういった機能はこれまでにもいくつかのモデルで見てきたが、iX3の作法は実にスムーズで洗練されている。

特に完全停止直前のブレーキの抜き方は惚れ惚れするほどだ。回生ブレーキはパドルなどで簡単に調整ができず、設定画面で設定する必要があるので頻繁に変更するのは億劫だし、このオート回生ブレーキの出来が素晴らしいので回生ブレーキの強度を変える気は起きなかった。

BMWが「シンビオティック・ドライブ」と呼ぶ、駆動、ブレーキ、エネルギー回生、ステアリングなど統合制御の素晴らしさは、ドライブトレインやドライビングダイナミクスを司る中央制御ユニット「ハート・オブ・ジョイ」の賜物だ。だが、あまりにも回生制御が巧みであるがゆえに、ドライバー自身が先読みして操作する機会が減少し、運転能力が退化してしまうのではないか──、そんな余計な心配までしてしまった。

あまりにも自然な運転支援

BMW iX3
BMW iX3

高速道路では運転支援システムの進化が明確に感じられた。ACC、ステアリング&レーンコントロールアシストなどが備わる「ドライビング・アシスト・プラス」が標準装備され、さらに「ハイウェイ・アシスト」も用意されている。あくまで自動運転レベル2なのでドライバーによる前方注視と、必要な場合はすぐに操作することが求められるが、例えば他の車線から車両が割り込んできたためにブレーキを踏んで減速するような状況でも、ACCは解除されない。ブレーキペダルから足を離せば、シームレスに前走車への追従を再開させる。

今回の試乗中も、渋滞中に追従クルーズコントロールの延長線上にある、アシステッド・ドライビング・プロを使い続けてみたが、車線変更もやってくれるし、渋滞時のストレスがまったくない。今回の試乗では試せなかったが、車線変更については車両側が追い越しを提案し、ドライバーがドアミラーで後方を確認すると車線変更を自動で行う機能もあるようだ。いずれにせよ試乗時点では100km/hまで作動し、ステアリング操作まで含めてかなり積極的に介入してくれたので、渋滞の一番左の車線を延々と走るような状況では疲労感が明らかに違った。

ドライバーモニタリングシステムによって、ドライバーの目線が前方になければ自動発進を行わないなど、車両側のドライバー監視は万全だ。かつて運転中のナビ操作を禁じるためにサイドブレーキを引かないとナビが操作できなかった時代、サイドブレーキを1ノッチだけ上げるだけで機械を騙せていた時代が懐かしい。AI時代は人間の方が騙されやすくなっているのだから、車両側の監視をかいくぐることは難しい。

ともかく、いちいち「自動運転モード」に切り替えるという感覚が薄い。自動運転機能が特別な機能として存在するのではなく、クルマの初期性能に溶け込んでいる。もはやBMWにとって、運転支援は「付加機能」ではなく、走る、曲がる、止まるという基本機能と同じレベルに統合されていくのでは、とすら思った。

シャシーは熟成を期待

ただし、いわゆる走りの印象は煮詰めが必要ではないかという部分もあった。市街地ではMスポーツらしくスポーティで硬めと感じた足まわりだが、ワインディングの荒れた路面では、むしろ柔らかく感じられ、路面の入力によってはボディが大きく揺すぶられる瞬間があった。穏やかというか、武闘派ではない印象だ。だが、ノイエ・クラッセはまだ始まったばかりなので、シャシーについても今後さらに熟成が進んでいくことを期待したい。

109.1kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、航続距離(WLTC)はベースグレードで国内トップクラスの906km(Mスポーツは835km)を誇る。今回、東京から箱根でワインディングを上って戻ってきたが、そこでは当然ちょっとした渋滞やテストのための積極的な加速もあり、カタログ値とは大きく異なる実走行距離となった。だが撮影中の厳しい使い方で700km前後を現実的な目安として考えられるなら十分に余裕がある。

800Vアーキテクチャを採用しており、最大320kWの急速充電にも対応する。10〜80%の充電時間は約26分、将来的に350kWの超急速充電器を使用すれば15分で約420km走行相当の電力量を充電できると謳う。今回は試せなかったが、EVにとって充電出力は重要なスペックだ。

すべてが新しい

iX3を走らせていて、もっとも強く感じたのは、これが単純にBMWの新型EVと考えない方がいいということだった。新デザイン、新バッテリー、新モーター、新800Vアーキテクチャ、新インフォテインメント、新ADASなどなど、これまでのBMW車の中身をほぼ全面的に作り直したと言っていい。

だからこそ、多少の戸惑いもある。4本スポークのステアリングも、見慣れぬインターフェイスも、従来のBMWに慣れた人ほど最初は違和感を覚えるかもしれない。だが、これこそノイエ・クラッセだ。1960年代のノイエ・クラッセがBMWを変えたように、今回のノイエ・クラッセもまた、BMWというブランドの「当たり前」を変えようとしている。来年導入されるだろう「i3」がどのような世界観を見せてくれるか楽しみだ。

PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)

SPECIFICATIONS

BMW iX3 50 xDrive

ボディサイズ:全長4780 全幅1895 全高1635mm
ホイールベース:2895mm
車両重量:2330kg
フロント電気モーター:交流誘導モーター
フロント最高出力:123kW(167PS)
フロント最大トルク:255Nm
リヤ電気モーター:交流同期モーター
リヤ最高出力:240kW(326PS)
リヤ最大トルク:435Nm
システム最高出力:345kW(469PS)
システム最大トルク:645Nm
トランスミッション:1速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前マクファーソン式ストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前後255/45R20
交流電力量消費率(WLTC):150Wh/km
一充電走行距離(WLTC):835km
車両本体価格:1034万円

南フランス・ミラマで最終テストを行う、内燃機関搭載「BMW 3シリーズ」。

3.0リッター直6ターボも健在! 内燃機関搭載の新型「BMW3シリーズ」が南フランスでテスト敢行

BMWは、内燃機関(ICE)を搭載する新型「3シリーズ」のテストを、南フランス・ミラマで行った。最新の「ノイエ・クラッセ」デザインを纏い、48Vマイルドハイブリッドを搭載した直列4気筒と3.0リッター直列6気筒をラインナップする。新型ICE搭載3シリーズは、2026年後半から生産を開始する予定だ。