600馬力の壁を見越して作り込む!
長く楽しめる650馬力ストリート仕様
2019年、ノーマルエンジンのままHKS GTIII-4Rタービンを装着したというこのJZS147アリスト。当時はブースト圧を抑え、550ps程度で楽しめるストリート仕様として仕上げられていた。

そして今回、メンテナンスを兼ねてエンジンを大幅にアップデート。GTIII-4Rやインタークーラーといった補機類はあえてそのままに、HKSの3.4Lキットを投入した。

「2JZの場合、大体600psくらいが純正燃料ラインで燃料を送れる限界値。ピストンやコンロッド、クランクなど、エンジン内部を強化したい分岐点も同じくらいですね」とペントルーフ代表の北林さん。
つまり、2JZチューンでは600ps付近がひとつの大きな境目になる。そこを越えればエンジン内部だけでなく燃料供給系まで手を入れる必要があり、チューニング費用も一気に膨らんでいく。
だからこそ、このアリストもノーマルエンジン時代は無理にブースト圧を高めず、550ps程度に抑えていた。そしてエンジンを開けるタイミングで一気にボトルネックを解消し、次のステップへ進んだというわけだ。

3.4L化に合わせてIN/EXともHKS製264度カムを投入し、エキマニはペントルーフがワンオフ製作。さらに純正燃料ラインにもう1系統をシルバーのラインを追加してパラレル化し、SARD製255L燃料ポンプも各ラインに1基ずつ、計2基をセットした。

ポンプはF-CON V Proで2段階制御することで、必要な燃料量を確保しながら始動性や低回転域での扱いやすさにも配慮。エンジン制御自体も従来から使ってきたF-CON V Pro Ver.3.3を継続し、ペントルーフで現車合わせを行なっている。


点火系にはHKSスーパーファイヤーレーシングプロを投入。ハイブースト時に高回転で発生しやすい失火を抑えるため、純正比最大1.5倍という2次電圧で点火を強化する。ブースト制御にはHKS EVC7を組み合わせた。

そして興味深いのは、ここまでエンジン側へ手を入れながらGTIII-4Rを交換しなかったことだ。オーナーからは、より大きなタービンへ交換してパワーを狙いたいという相談もあったという。しかし北林さんは、まず現在の仕様に乗ってみることを勧めた。
「排気量が増えれば低回転はまるで別物のエンジンになりますし、GTIII-4Rのままでもブースト圧を上げれば高回転のパンチ力は段違いです。街乗りなら、この組み合わせが本当にジャストマッチなんですよ」と北林さん。
もともとブースト圧の立ち上がりが早く、ノーマル2JZとも相性の良かったGTIII-4Rだが、3.4L化によってエンジン自体の力が増したことでレスポンスはさらに向上。そこへ設定ブースト圧を従来の1.3キロ付近から1.5キロまで引き上げることで、高回転域のパンチも加わった。

結果、ダイナパックで650psオーバー(TCF1.15)を発揮。3000rpm付近から一気にパワーが立ち上がり、街乗りで多用する2300rpm付近でも32kgmを超えるトルクを発生する。
同じGTIII-4Rを使い続けているにもかかわらず、そのフィーリングは以前とはまるで別物。排気量とブースト圧の設定によってキャラクターを大きく変えられる、2JZチューンの面白さがよく分かる仕様だ。

スロットルまわりは、純正クルーズコントロールを生かすためサブスロットルまでノーマルを維持。アクセルオフ時のサージングを抑えてタービンを保護するため、トラスト製ブローオフバルブを追加している。

排気系もストリート仕様らしく、フロントパイプにはSARD製キャタライザーを装着して車検対応とし、マフラーは適度な音量と排気効率を両立する柿本改を選択。JZS147の車格に似合う落ち着いた見た目にもこだわった。

一方、ウエストゲートの開放パイプは音質まで考えて製作。一般的な60φではなく50φの短いパイプとすることで、大気開放時に高くキレのある音を響かせる狙いだ。北林さん自身も、容量が不足しない範囲なら小さめのウエストゲートが生む高音質を好むという。

こうして3.4L+GTIII-4Rで650psオーバーを手に入れたが、このアリストの目的は決してピークパワーを競うことではない。コンセプトはあくまで、街乗りでキビキビ走れる完全なストリート仕様だ。
軽量化は行なわず、快適装備もすべて残しているため、ドライバーを含めれば車重は1700kgを超える。だからこそ、3.4Lの排気量が生む低中速トルクと、ミドルクラスのGTIII-4Rが持つレスポンスの良さが効いてくる。


パワーを受け止める駆動系は、純正ATからゲトラグ6速MTへ換装。ORC製ツインプレートクラッチとOS技研製LSDを組み合わせ、増大したトルクへ対応すると同時に、ドライバーが操る楽しさも高めている。
足まわりにはエンドレス・ジールファンクションを採用。乗り心地を重視したXコイルを使い、スプリングレートはフロント24kg/mm、リヤ12kg/mm。街乗りでの快適性を意識しながら、高速道路ではロールを抑えて路面へ吸い付くような安定感を狙ったセットアップだ。
重量級ボディを安心して走らせるため、ブレーキも抜かりなく強化。フロントにはエンドレス製6ポットキャリパーと370φローター、リヤにはJZA80純正キャリパーと323φローターを流用する。

さらにJZS147純正のハイドロブースターを廃し、JZA80純正マスターバックへ交換。キャリパー容量を増やすだけでなく、ブレーキタッチそのものを改善し、4輪でしっかり減速できるシステムへ仕立てた。

足元にはレイズ・ボルクレーシングGT-Sを履き、フロント9.5J、リヤ10.5Jをセット。タイヤはポテンザRE-71Rの255/35R19を組み合わせる。


フロントセクションではメンバーとシャシーを結ぶ部分やステアリングラック周辺に補強バーを追加。エンジンルームとフロントサスペンションまわりの剛性を高め、650psのパワーを受け止められるボディを作り上げている。

インテリアも運転席にブリッドVIOS III、助手席にDIGO TYPE-Rを装着する程度で、ストリートカーとしての快適装備はすべて残したまま。DefiのADVANCE ZDで水温、油温、油圧、燃圧を管理し、ADVANCE A1のブースト計も追加するなど、必要なコンディション管理を行なえる環境を整えている。

そして、650psを発揮する現在の仕様も完成して終わりではない。
「2JZ搭載車は決して新しいクルマではないので、長く乗ることを考えるなら、整備状況を高めてやることが必要ですよね」と話すのは、東京都自動車整備技術協議大会で3位に入賞したペントルーフの岡部メカ。チューニングだけでなく、故障診断や日常的なメンテナンスまで含めてコンディションを保つことが、これからの2JZ搭載車では重要になる。

600psというひとつの壁を無理に越えず、まずはノーマルエンジン+GTIII-4Rで550ps。そしてメンテナンスのタイミングで3.4L化と燃料系の強化を行ない、同じタービンを生かしたまま650psオーバーへ。その先まで見越してパーツを選び、必要なタイミングで次のステップへ進むというのも、長くチューニングカーを楽しむためのひとつの方法だ。

北林さんが「ストリートで楽しめるのは600ps+αが常識的な限界」と語るように、このアリストが追求したのは数字の大きさではない。3.4LのトルクとGTIII-4Rのレスポンスを生かし、1700kgを超える重量級ボディを軽快に走らせる。650psという刺激と日常での扱いやすさを両立した、まさに万能ストリート仕様なのである。
●取材協力:ペントルーフ 東京都大田区大森東2-28-2 TEL:03-5493-0840
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