Nissan Elgrand
力強く走る電気自動車

今年7月、16年ぶりにフルモデルチェンジした日産の新型Lサイズミニバン「エルグランド」に試乗した。試乗前の車両説明によれば、4代目となる新型のコンセプトは「リミットレス・グランドツアラー」。家族や友人たちと500km先まで出かけ、目的地だけでなく、そこへ向かう道中そのものを楽しむ──、そんなプレミアムミニバンを目指したという。
デザイン関連のプレゼンでは「THE PRIVATE MAGLEV」もテーマに掲げられた。MAGLEVは日本でいうところの超伝導リニアだが、これは高い静粛性を持って、力強く走る電気自動車というアウトラインに沿ったものだろう。実際、新型エルグランドのパワートレインは、日産の誇るシリーズハイブリッド「e-POWER」に4輪駆動「e-4ORCE」の組み合わせのみという、かなり限定されたラインナップだ。
2大ミニバン勢力の誕生

先代E52型から大幅改良したプラットフォームを採用し、ボディサイズは先代比で30mm長く、45mm幅広く、160mm高くなった。ホイールベースは3000mmで同値だ。日本の道路環境における取り回しを重視したといい、最小回転半径は5.8mで先代(5.7m)よりやや大きいが、それでも競合他社のミニバンよりは小さいという。ロック・トゥ・ロックは3回転少々で、駐車時のストレスは少ないだろう。
競合他社のミニバンとは当然トヨタの「アルファード」「ヴェルファイア」のことだ。エルグランドが発表された今年7月のアル/ヴェル販売台数は1万2000台というミニバン界の巨人だが、エルグランドも10月初旬の受注台数が1万台超と2大政党ならぬ2大ミニバン勢力の誕生となった。かつての全メーカーミニバンをラインアップしていた群雄割拠時代も今は昔である。
日本の伝統工芸「組子」をあしらったフロントグリルが印象的なエクステリアは、一部逆スラントのDピラーなど見どころも多く、重厚感にあふれた印象を与える。開発陣が目指した「威風堂々」を表現できていると感じられ、近年、爆発的に増えていると感じるインバウンド向け高級ハイヤー市場に堂々と参戦できる高級感も備えている。
特等席はやはり2列目

先代より76mm高い位置に設定された運転席によっこいしょと乗り込む。Aピラーの付け根が比較的前方に配置されていることもあって前方視界は良好だ。大きなミニバンを運転しているという感覚を極力薄めようとした設計思想が伝わってくる。
だが、この新型エルグランドの特等席はやはり2列目であろう。今回残念ながら走行中は試していないが、137mm拡大された室内長がもたらすゆとりと、「ゼログラビティ」を謳う2列目シートは身体を包み込むような形状として、柔らかなホールド感を狙ったという。シートヒーターやベンチレーション、60Wの高出力USBポートまで(左シートのみ)用意されている。さらにエアコンには高電圧電源を使用したPTCヒーターを採用することで、エンジン水温上昇を待たずに暖房が作動するという。
ロングドライブを楽しむための装備も充実している。Boseプレミアムサウンドシステムは22スピーカー仕様で、ルーフスピーカーによる3Dサウンドにも対応。オプションでは15.6インチのルーフモニターも用意される。
第3世代e-POWERのインパクト

今回の試乗で実際にステアリングを握って、最も印象に残ったのは第3世代e-POWERの完成度だ。発電専用の1.5リッターエンジンにモーター・発電機・インバーター・減速機・増速機をパッケージ化した5-in-1ユニットを組み合わせ、従来型e-POWERより静粛性と燃費性能を向上したという。
エルグランドは電動ミニバンではあるが、BEVではなくシリーズハイブリッドだ。1.5リッター直3ターボエンジンはあくまで発電用であり、駆動はモーターが担う。駆動用バッテリーの電力量は1.7kWhとされ、一般的なBEVのように大容量バッテリーを積んでモーターだけで長距離を走るのではなく、必要な電力をエンジンで発電しながらモーターで走る。大型車でもレスポンスの良さと効率を両立したという。
e-POWERについて今更くどくどと書くのは、正直に告白するとe-POWER搭載車初試乗だからだ。そして、このパッケージにかなり感銘を受けた。フィーリングは極めて自然で、アクセルを踏み込んだ瞬間からモーターらしい力強さが立ち上がる一方で、エンジンもそれに連動してうなりをあげる。シリーズハイブリッドだが、充電のためにペダル操作に関わらずエンジン回転数が上下するようなチグハグさがなかった。
前後モーターの最高出力と最大トルクは、フロントが205PSと336Nm、リヤが136PSと195Nmでシステム出力340PS、システム最大トルク500Nmを超えると目される。それらの性能が奏功し、車重は2.5t近いがもたつきはストレスにならなかった。回生ブレーキに不自然さはない。しかし、初見では強度を細かく調整できなかった。ドライブモードをパーソナルモードに変えれば個別に設定可能で、スポーツモードを選んでも強くできるという。
ミニバンらしからぬ走り

もちろんミニバンの性能として広大な室内空間と上質な乗り心地は最重要項目だが、今回あらためて顧客にアンケートを取ったところ、「ミニバンでも運転する楽しさが欲しい」というニーズが浮かび上がったという。そこで新型は快適性だけでなく走りも徹底的にこだわった。その中核が前述の第3世代へと進化したe-POWERのほか、インテリジェント・ダイナミック・サスペンションそして4WD制御システムのe-4ORCEの組み合わせである。
試乗中、見た目から想像できないほど低重心を感じた。もちろん「スポーツカーのように」というわけにはいかないが、鈍重なミニバンという印象はなかった。減衰力を電子制御するインテリジェント・ダイナミック・サスペンションは、路面の小さな段差では柔らかく、大入力やコーナリングではしっかりと引き締め、これもミニバンらしからぬ走りの好印象の要因となった。
4WD制御システムのe-4ORCEは、単純に前後モーターによって4輪駆動するだけでなく、ステアリング操作やアクセル開度に応じて後輪の駆動力を積極的に制御し、車両の姿勢そのものをコントロールするという。コーナーではいわゆるトルクベクタリング制御を行うことで、リヤ外輪がノーズを出口へ向けてくれるような感覚がある。ミニバンに求められる走りのレベルは余裕でクリアできている。
商品力の重要な柱としての静粛性

静粛性は極めて高い。第3世代e-POWERそのものの静粛性に加え、アクティブノイズコントロール、床下の遮音材、吸音材、高性能遮音ガラス(Cピラー以前)などを組み合わせているという。特にエンジン音やロードノイズをスピーカーからの逆位相音で打ち消すアクティブノイズコントロールは、従来よりも広い周波数帯域に対応するという。
だが事前の技術説明を聞いて期待したほど「無音」に近いわけではなかった。後方から伝わるゴトゴト音、タイヤのロードノイズもそれなりにドライバーの耳に届いた。これは前述の遮音が前方が優れているのに対して、後方が手薄なこともあるのだろう。もちろん従来のミニバンとして考えれば十分に静かな部類だろうが、最近試乗した最新高級欧州3列BEVと比較すると、価格以上の差を感じた。それに本来2列目を特等席とするならそこを重視した遮音するべきだろう。
とはいえ、同乗したHカメラマンによれば、競合する某ベストセラーミニバンの方がさらにロードノイズは大きく感じるという。これまた正直に言えば、某ベストセラーミニバンを運転した経験がなく、まして直接比較したわけではないので断定はできないが、少なくとも新型エルグランドの静粛性が商品力の重要な柱であることは理解できた。また先述の走りの撮影の際、カメラマンに「そんなに攻めなくていいですよ」と言われて驚いた。車内にはスキール音がほとんど聞こえない程静粛性は高かった。そして軽快な走りはステアリングを握る喜びがあった。
日産ファンの期待に応えるキャラクター

電動Lサイズミニバンとしては安価だが、日本製ミニバンとしてはアル/ヴェルの価格帯(500万円台後半〜1000万円)と比較するとやや高めで狭い700万〜900万円だ。16年ぶりのフルモデルチェンジで、いきなり巨人と真っ向勝負は難しいが、絶対に日産を選ぶ、あるいは選ばなくてはならないと待ち続けた人もいるのだから、ファンの期待に応えるような、価格帯に見合った明確なキャラクターを徐々に充実させることを期待したい。
PHOTO/平野陽(Akio HIRANO)
SPECIFICATIONS
日産 エルグランド G e-4ORCE
ボディサイズ:全長4995 全幅1895 全高1975mm
ホイールベース:3000mm
車両重量:2440kg
エンジン:直列3気筒DOHCターボ
総排気量:1498cc
エンジン最高出力:103kW(140PS)/5000rpm
エンジン最大トルク:228Nm/3600rpm
モーター:交流同期モーター
モーター最高出力:前151kW(205PS) 後100kW(136PS)
モーター最大トルク:前330Nm 後195Nm
トランスミッション:1速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前後235/60R18
燃料消費率(WLTC):16.8km/L
車両本体価格:757万9000円

