Ferrari Purosangue Handring Speciale
これぞ“待ち望んだ”仕様

「プロサングエ」に何を求めるかは、人それぞれだ。家族や仲間と一緒にドライブを楽しめるフェラーリ。ロングドライブでも気負わず快適に走っていけるV12のGT。あるいは日々の移動の途中でも、マラネッロの空気を感じさせてくれるデイリーカー。4つの席をどう使うにせよ、ステアリングを握るオーナーは、これが正真正銘のフェラーリであることを忘れることなど決してない。
新たに加わった「プロサングエ ハンドリング スペチアーレ」(以下、HS)は、そんなオーナーたちが“待ち望んだ”仕様でもある。フィオラノ・パッケージのようなサーキット寄りの高性能仕様を作るのではなく、プロサングエの快適性と実用性を保ったまま、走りの輪郭をもう少し鮮明にしたいという要望が増えた。ハンドリング スペチアーレという名前からもそんな意図が伺える。そのことを確かめに、イタリアはバロッコにあるステランティスのテストコースで、この新しいサラブレッドを試すことになった。
ややもすると4ドアで4シーター、SUVのようなスタイルばかりが話題になるプロサングエ。しかしその中身はというと、伝統的なフロントV12フェラーリの考え方を明瞭に受け継ぐモデルであった。65度V型の6.5リッター自然吸気12気筒エンジンをフロントミドに置き、8速DCTを後方に置くトランスアクスル方式レイアウトを採用する。エンジン前方のPTUを介して四輪駆動と後輪操舵も備えた。4人で使えるGTを、伝統のスポーツカー的レイアウトで再構築した背の高い跳ね馬である。
要は電動アクティブサスペンションの再調整

HSの要は電動アクティブサスペンションの再調整にあった。プロダクトマネージャーによれば、四輪のアクチュエーターは毎秒200回の頻度で制御され、HSではハード設定時の動的ロールを約10%抑えたという。とはいえ大切なのは、そんな数字そのものよりも、その結果として残る感触だ。姿勢が動いたあと、どれだけ早く落ち着き、次の操作に移れるか。それ次第で大きな車体を意識する時間はいっそう短くなっていく。
カントリーロードを思わせるバロッコのテストトラックは朝からの雨でハーフウエット、これから徐々に乾いていくという段階だった。いきなりハイスピードでプロが先導する。慌てて食らいついていく。コースに慣れる時間もない。クルマに自信があるに違いない。
ターンインは精緻で、ノーズは狙ったところへすっと入っていくる。クイックではあるが、ニンブルすぎない。こちらの操作を急かすことなく、きちんと受け止めて向きを変えていく。意のまま感は明らかに増している。
5000rpmを超える領域で変速フィールをスポーティに

荷重が移ったときの感触もつかみやすい。ロールを抑え込んでしまうのではなく、タイヤに荷重が移り、ボディがそれを受けたあと素早く収めることで、綺麗な姿勢を保ってコーナーを抜けることができる。視線を次のベントに向ければ、操作も自然に追従する。腰を通じて後輪の働きが伝わり、両腕には前輪を置きたいところへ導くという感覚が残る。プロサングエらしいFR的な一体感が、HSでは一層鮮やかで、かつ、心地よく表現されていた。
少し欲張った速度でコーナーへ入ると、その印象はいっそう明確になった。四輪駆動と後輪操舵がどこで何をしているか、はっきりとは意識させない。クルマの挙動が乱れても、安心していられる。感触はあくまでFR寄りで、行き過ぎたと思った場面でも姿勢を立て直すことがたやすい。ドライバーを置き去りにしないところがいい。
変速の制御もHS用に見直された。5000rpmを超える領域ではよりスポーティな変速フィールを狙い、オートモードでのキックダウンに要する時間も25%短縮したという。確かに“シュパッシュパッ”と変速する様子は、背の高いモデルに乗っていることを忘れさせるほどダイレクトかつスピーディーであった。
遠目から誇示する加飾はない

標準仕様と乗り比べたわけではないから、低速域での乗り味に関する感想は慎重に述べておこう(一般道も走っていない)。当然ながら、HSの方がやや引き締まった印象をもつ。とはいえ実用車としてのプロサングエの使い勝手を損なうほどではなかった。GTとしての余裕を捨ててまで、速さを追った仕様ではないことだけは確かだ。
そして、何よりもサウンドのチューニングがよかった。始動から加速に移る時にはすでに、V12の存在がとても濃く、そして力強く耳に伝わる。HSでは車内に届く音の表情にも手が入れられており、始動時と加速時により力強く聴かせるための設定にこだわったという。公道で高回転まで回していられる時間は、概してそう長くはない。だからこそ、走り出しや中速域においてアクセルを踏み増したときに、12気筒の気配が濃厚になることには意味があるだろう。正直、この音のためにHSを選びたくなる人がいても不思議ではないと思った。
魅力の深層は

外観の変化は控えめだ。専用デザインのダイヤモンドカットホイール、カーボンファイバー製サイドシールド、マットブラックのエンドパイプ、あたりがHSの印だ。HSであることを遠目から誇示するためのものではない。プロサングエの実用性を好んで乗るという人にとっては、このくらいの加飾がちょうどいいのではないか。
フェラーリを日常へ連れ出したところで、いつも全開で走れるわけではない。隣や後ろに座る人の都合もあろう。その時間まで含めて愛せることが、プロサングエの魅力である。HSはそこに、ドライバーがふとひとりになる瞬間の“楽味”を少し足したといえそうだ。羨ましい“味変”の成功であろう。
PHOTO/Ferrari S.p.A
SPECIFICATIONS
フェラーリ プロサングエ ハンドリング スペチアーレ
ボディサイズ:全長4973mm×全幅2028mm×全高1589mm
ホイールベース:3018mm
車両重量:2033kg
エンジン:V型12気筒自然吸気ガソリン
総排気量:6496cc
最高出力:725PS/7750rpm
最大トルク:716Nm/3000〜5750rpm
トランスミッション:8速F1 DCT
駆動方式: AWD
タイヤサイズ:255/35R22(前) 315/30R23(後)
最高速度:310km/h
0-100km/h:3.3秒
0-200km/h:10.6秒
100-0km/h:32.8m
200-0km/h:129.0m
燃料タンク:100L
トランク容量:473L
車両本体価格:6300万円

