2027年に日本で初期運行開始。日本から英国、さらに世界へ
トヨタ自動車とWaymoは2026年10月30日、自動運転分野における協業を次の段階へ進めると発表した。
両社は2025年4月、自動運転技術の開発と普及に向けた戦略的パートナーシップについて基本合意していた。今回の発表は、その協業を具体的な車両の生産と運行へ進めるものだ。
Waymoは、Googleの親会社である米Alphabet傘下の自動運転技術開発企業。2009年にGoogleの自動運転車開発プロジェクトとしてスタートし、2016年に独立した企業となった。2018年には米アリゾナ州フェニックスで自動運転タクシーサービス「Waymo One」を開始。現在はサンフランシスコやロサンゼルスなど米国の複数都市で、運転席にドライバーが乗らない完全無人の自動運転タクシーを商用運行している。自動運転技術の開発だけでなく、実際のサービス運営でも先行する企業だ。

使用する車両はトヨタのBEV(バッテリー電気自動車)「bZ4X」。Waymoの完全自動運転システム「Waymo Driver」を搭載し、2027年に日本で試験・検証を含む初期運行を開始する。その後、英国をはじめWaymoがサービスを展開するその他の市場にも順次導入する計画だ。
ただし、2027年から一般利用者を対象とした商用サービスが本格的に始まるという意味ではない。
記者会見でWaymoのドミトリ・ドルゴフ共同CEOは、2027年に初期運行を開始し、商用運行に向けて段階的に進める方針を説明した。運行地域や具体的な台数、商用化の時期については明らかにしていない。
トヨタの中嶋裕樹取締役・副社長・CTOも、次のように説明した。
「まずは初期の運行として、数は少なくても、実際に我々のbZ4Xを使っていただき、どういう課題があるか、量産してたくさん商用運行するときの課題があるかどうか。そのあたりをしっかりと前さばきした上で、よりお客様に安心安全な自動運転のタクシーサービスを進めていく」
つまり、2027年はトヨタ製のWaymo自動運転タクシーが本格普及する年というよりも、その実現に向けた重要な検証が始まる年と考えるべきだろう。
高岡工場でWaymo Driverを組み込む。単なる車両供給ではない

今回の発表で最も注目したいのは、生産方式である。
Waymo向けbZ4Xは、愛知県豊田市にあるトヨタの高岡工場で生産する。ベース車両の組み立てからWaymoの自動運転用ハードウェアの搭載まで、一連の工程を同じ工場で行なう。
搭載するのは第6世代のWaymo Driverだ。
完全自動運転車は、通常の乗用車にセンサーを取り付ければ完成するというものではない。周囲の状況を認識するためのセンサー類、それらを処理するコンピューター、車両の操舵・制動・駆動を制御するシステムなどを、安全性と信頼性を確保しながら統合する必要がある。
とりわけレベル4の自動運転では、システムに異常が発生した場合にも安全を確保するための冗長性が重要になる。
中嶋副社長は、今回のbZ4Xには自動運転に対応するためのハードウェアの冗長化やサイバーセキュリティ対策が必要になると説明した。
高岡工場での生産についても、単にWaymoの自動運転システムを組み込むだけではないという。
「ものづくりと開発というのは切っても切り離せませんから、例えば、ものづくりの観点から改善すべきポイントが見つかれば、Waymoさんにも我々提案してまいりますし、Waymoさんから見て作り方の問題で課題があると思えば、どんどん教えていただく」
トヨタとWaymoが互いの知見を持ち寄り、開発と生産の両面から改善を進めていくという考え方だ。

中嶋副社長はさらに、こう語った。
「トヨタの従業員が実際に自分たちの手でWaymoさんの部品を組ませていただくということは、大きな大きな一歩だと思っております」
この発言は重要だ。
トヨタは単にWaymoへ完成車を供給するのではない。完全自動運転システムを車両に統合し、それを量産するための技術とノウハウを蓄積していくことになる。
一方、Waymoにとってもトヨタの量産技術を利用できる意味は大きい。

ドルゴフ共同CEOは、高岡工場での一貫生産について、トヨタの製造能力を活用することで信頼性、経済性、効率性の面でメリットが得られると説明した。
自動運転タクシーを数台、あるいは数十台走らせる段階と、何千台、何万台という規模で展開する段階とでは、車両の生産に求められる能力が異なる。
Waymoの自動運転技術とトヨタの量産技術を組み合わせることは、ロボタクシーの事業規模を拡大するうえで重要な意味を持つ。
中嶋副社長は、今回の取り組みが将来的にはロボットシャトルや商用車など、ほかの用途へ展開できる可能性にも言及している。
なぜbZ4Xなのか?後席はJPN TAXI並み、荷室はさらに広い
今回のベース車両として選ばれたbZ4Xについても、会見では興味深い説明があった。
中嶋副社長によると、bZ4Xの後席空間はトヨタのタクシー専用車「JPN TAXI」に相当する広さがあり、荷室容量はJPN TAXIを上回るという。自動運転タクシーでは、運転性能だけでなく、乗客が快適に移動できることや、荷物を積みやすいことも重要な要素となる。今回のWaymo向けbZ4Xでは、乗降性を高めるために自動開閉ドアを採用。電動開閉式バックドアや室内間接照明なども備える。
では、なぜハイブリッド車ではなくBEVなのか。
会見では、Waymoの自動運転車両がBEVを採用している理由について質問が出た。
ドルゴフ共同CEOは、現在のWaymoの車両群はすべてBEVであり、持続可能性、信頼性、事業性などの観点から今後もこの方針を継続すると説明した。
一方、トヨタは必ずしも自動運転車両をBEVに限定しているわけではない。
中嶋副社長は、地域のエネルギー事情や顧客のニーズに応じて最適なパワートレーンを提供するマルチパスウェイの考え方を説明。ハイブリッド車についても、レベル4自動運転に向けた制御技術の開発を進めていることを明らかにした。
今回の協業ではWaymoの方針に沿ってBEVを採用するが、トヨタ自身は自動運転とパワートレーンの組み合わせについて、複数の選択肢を維持する考えだ。
「自動運転の開発は正直遅れていた」トヨタCTOが語ったエンドツーエンドAIへの期待

Waymoは米国ですでに完全無人の自動運転タクシーを商用運行している。一方、トヨタも長年にわたり自動運転技術の研究開発を進めてきた。では、Waymoと協業することで、トヨタは自社開発を縮小するのだろうか。
答えはノーだ。
会見で中嶋副社長は、トヨタ自身の自動運転技術開発について、具体的な時間軸を説明した。
高度な運転支援・自動運転技術として「レベル2++」と呼ぶ領域では2028年の商用化を目指し、レベル4についても2032年には社会に提供できるよう開発を進めているという。
開発はトヨタ自動車とWoven by Toyotaが共同で進めている。
注目したいのは、中嶋副社長が自社の自動運転技術開発について率直に語ったことだ。
「我々も正直、かなり遅れておった自動運転の技術開発も、エンドツーエンドのおかげで、急激にレベルの高いものに仕上がってくる可能性があると思っています」
エンドツーエンドとは、カメラなどのセンサーから得られる情報をもとに、AIが認識や判断、運転操作に関する処理を統合的に学習する技術的アプローチだ。従来のように認識、予測、判断、制御を個別の機能として設計する方法とは異なる。
ただし、エンドツーエンド方式を採用すれば直ちにレベル4が実現できるわけではない。安全性の検証、想定外の状況への対応、システムの冗長性など、解決すべき課題は多い。
それでも中嶋副社長の発言からは、AI技術の進化がトヨタの自動運転開発に大きな変化をもたらしていることが窺える。
重要なのは、Waymoとの協業とトヨタの自社開発が並行して進められる点だ。
中嶋副社長は、Waymoとの技術交流についても触れ、トヨタ自身の自動運転技術を高めるうえで大きな協力を得ていると説明した。
もっとも、今回の協業によってWaymoの自動運転技術そのものがトヨタの一般市販車に搭載されると決まったわけではない。一般ユーザー向けの自動運転車については、引き続き検討する段階にある。
Waymoは自律型、トヨタはインフラ協調も重視。両社の考え方の違い
今回の会見では、トヨタとWaymoの自動運転に対するアプローチの違いも見えてきた。
Waymoは、車両自身が周囲の環境を認識し、判断して走行する自律型の自動運転システムを開発している。道路や都市のインフラに特別な設備がなくても、設定された運行条件の範囲内で自動運転を実現するという考え方だ。
一方、トヨタは車両だけでなく、交通インフラとの連携も重視している。
中嶋副社長は、車両のブレーキ性能を高めても、物理的に必要な制動距離をなくすことはできないと説明した。
「例えばブレーキをいくらかけても、限界の制動距離が必要です。そういった時には、2秒先、3秒先をインフラとの協調で予測することが仮にできるのであれば、より高い確度で事故との遭遇を避けることができると思います」
例えば、交差点の死角から接近する車両や歩行者を、車載センサーが直接認識する前にインフラ側から知らせることができれば、より早い段階で危険に対応できる可能性がある。
また、今後は自動運転技術の異なる車両や、人間が運転する車両が同じ道路を走ることになる。
そのような混在交通の中では、車両同士、あるいは車両とインフラの通信を活用した交通流の制御が、安全性の向上や渋滞の緩和に役立つとトヨタは考えている。
Waymoも、将来的に都市インフラのスマート化が進めば、それを活用して運行効率や安全性を高められる可能性を認めている。
自律型の自動運転とインフラ協調型の技術は、必ずしも対立するものではない。両者を組み合わせることで、より安全な交通社会を実現できる可能性がある。
Waymoは重大な負傷事故で「人間の20倍安全」と説明
Waymoは自動運転技術の安全性についても強調した。
ドルゴフ共同CEOによると、Waymoは累計2億7000万マイル以上の完全自動運転走行実績を持ち、米国15都市で運行している。週間の完全自動運転による乗車回数は約50万回に達しているという。
また、重大な負傷につながる衝突事故について、人間の運転と比較して最大20倍の安全性を実証していると説明した。ただし、この数字はWaymoが自社の運行実績と比較データに基づいて示したものであり、あらゆる道路環境や運行条件において同じ安全性が保証されるという意味ではない。
日本での運行に際しては、日本特有の道路環境や交通状況に適応するための検証が必要になる。中嶋副社長は、トヨタの豊田章男会長も米国でWaymoの自動運転タクシーに乗車したことを紹介した。
「先読みのこのブレーキがいいね。僕の感覚と合ってるよ。やっぱり安心して乗ってられるね」
豊田会長は、このような趣旨の感想を述べたという。
自動運転においては、単に事故を起こさないことだけでなく、乗客が不安を感じない自然な運転を実現することも重要だ。
ハンドルもペダルも残す。将来の自動運転車はどうなる?
今回のbZ4Xには、ステアリングホイールもアクセル・ブレーキペダルも装備される。一方、完全自動運転車が普及すれば、運転席そのものが不要になる可能性もある。
この点についてドルゴフ共同CEOは、自動運転によって車両設計の中心を運転者から乗客へ移せると説明した。
将来的には、車内をリビングルームのような空間にすることや、ステアリングホイール、ペダルなどの操作装置をなくしたり、最小化したりすることも考えられるという。
一方、トヨタは人間が運転する楽しさも引き続き重視する。
中嶋副社長は、将来の技術進化によって操作装置のない車両が登場する可能性を認めながらも、自ら運転したい人のためにステアリングホイールやペダルを残す選択肢も維持したいという考えを示した。
完全自動運転が普及したとしても、すべてのクルマが同じ姿になるとは限らない。
トヨタがWaymoと組む意味はどこにあるのか
今回の協業は、Waymoにとっては完全自動運転タクシーを世界へ広げるための車両生産基盤を確保する取り組みであり、トヨタにとっては自動運転車の量産と運用に関する知見を蓄積する機会でもある。
Waymoは自動運転システムと実際の運行経験を持ち、トヨタは車両開発、生産、品質管理の能力を持つ。
両社の強みを組み合わせることによって、レベル4自動運転の普及を加速させようというわけだ。
ただし、トヨタが自動運転技術の開発をWaymoに委ねるわけではない。自社のレベル4開発は継続し、車両と交通インフラを連携させる技術についても追求する。
2027年に始まるbZ4Xの初期運行は、まだ小さな一歩かもしれない。
しかし、トヨタの量産工場でWaymoの自動運転システムを組み込み、実際の運行で得られた知見を次の開発と生産に反映させていく。
今回の協業で注目すべきなのは、2027年に何台の自動運転タクシーが走るかということ以上に、自動運転車を量産し、世界各地へ普及させる仕組みを両社がつくり始めたことではないだろうか。
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