本田技術研究所は、道路側の直流配電型GAシステムと、VAユニットを積んだ車両システムを開発

ホンダが走行中無線給電(DWPT:Dynamic Wireless Power Transfer)の開発を始めたのは2021年のこと。EVを広めるうえでの壁は、航続距離への不安、充電の待ち時間、充電インフラの使いにくさの3つ。ホンダは、走行中無線給電でこれらを解決したいと考えているのだ。

走りながら道路から電気をもらえれば、家や充電スポットで充電する回数を減らせる。ホンダが最初の使い道に考えているのは、長い距離を休みなく走る物流・輸送の分野である。充電にかかる時間が減り、クルマを動かせる時間が増える効果が特に大きいからだ。その先には、自家用車を含めた幅広いクルマへの展開も考えているという。

システムは大きく3つの要素でできている。地上に置く直流電源システム、道路に埋めた複数のGA(Ground Assembly)ユニットを直流でつなぐ「直流配電型GAシステム」、そしてクルマ側のVA(Vehicle Assembly)ユニットだ。

道路に埋められるGAユニットのモック。銅条線を巻いたコイルの内側に、パワーモジュールや平滑コンデンサ、共振回路、制御基板を並べて収めている。
VAユニットを取り付けた試験車両の床下。ユニットは左右の前輪の間に位置し、フロントバンパーのすぐ後ろに収まっている。

本田技術研究所は、道路側の直流配電型GAシステムと、VAユニットを積んだ車両システムを開発する。大成建設はGAに電気を送る直流電源システムを、大成ロテックは給電道路の施工方法を受け持つ。舗装構造の開発や耐久試験、補修・更新の方法づくり、給電の実験は3社で一緒に進めているという。

電気を送る仕組みは磁界結合方式。道路側とクルマ側のコイルの間に磁界をつくり、それを介して電気を渡すというもの。スマートフォンのワイヤレス充電をイメージするといいだろう。それを大電力でも、走りながらでも使えるようにしたというのが、今回の走行中無線給電というわけ。路面と車体、両側のコイルには共振用のコンデンサが組み込んであり、同じ周波数で共振(共鳴)させることで、路面と車体の間に距離があっても、走っていて位置がずれても、効率よく電気を送れるという。

道路側のコイルを流れる電流が磁界を生み、それを受けた車両側のコイルが電流に戻す。

道路側のGAユニットは、インバーターとコイルをひとつにまとめた世界初の構造を採用

道路側のGAユニットは、インバーターとコイルをひとつにまとめた。走行中無線給電のユニットとしては世界初の構造だという(2026年9月末時点、ホンダ調べ)。

狙いは、道路の中の配線を減らすことにある。一般的なやり方では、道路脇にまとめて置いたインバーターで直流を交流に変え、そこから給電ユニット1個ずつに交流の配線を引く。この方法だと配線が込み入り、道路の中に広く埋める場所が要るのが難点だった。

今回の方式では、GAユニットがそれぞれインバーターを内蔵して交流に変え、ユニット同士は直流の配線でつなぐ。これが直流配電型GAシステムだ。ユニットごとに電源から配線を引かなくて済むので、道路を深く掘って配線を通す手間が大きく減る。ホンダは将来、ふだんの道路の補修工事と同じくらいの時間と距離で敷設できるようにしたいとしている。

こうしてつないだGAに直流で電気を送るのが、大成建設が開発した直流電源システムだ。クルマがGAの上を通り過ぎるのは数十ミリ秒しかなく、その一瞬に大電力を流さなければならない。大成建設グループの説明によれば、直流電源システムは1台で数十個のGAにつながり、車両が1つのGAの上を通る数十ミリ秒の間に最大150kWを供給できるように開発が進んでいる。

インバーターとコイルを一体化した構造には課題もあった。狭いスペースにインバーターを収めながら、大型車の重さに耐える強さと信頼性、舗装を傷めない剛性も確保しなければならないからだ。

信頼性の面では、ホンダがハイブリッド車の開発で磨いてきたインバーターの技術が活用された。道路の中はクルマに積むのとは環境が違うが、温度変化や振動、水分に強くなければならない点は同じだという。強さと剛性については、CAE解析でクルマの重さがGAユニットと舗装にどう影響するかを調べ、ユニットの内部構造が煮詰められた。

クルマ側のVAユニットは、人が手で持ち運べるほどの大きさと重さで、必要な電力に合わせて1〜4ユニットを並べて積める。乗用車なら1ユニットを床下のサブフレームに収め、大型商用車ではトラクターヘッドに最大4ユニットを積み、最大40トンクラスの車両まで対応するという。

VAユニットをこれほど小さくまとめながら高出力を確保できた鍵は、コイルに使う電線にある。

周波数の高い電流は電線の表面に集まって流れるので、この種の給電では細い銅線をたくさん束ねて表面積を稼ぐ「リッツ線」を使うのが普通だ。ホンダはその代わりに、厚さ1mm以下の帯状の銅線「銅条線」を選んだ。薄い帯なら表面積を広く取れるので、リッツ線と同じくらいの性能が出せるという。

しかも銅条線は、すき間を空けながら渦巻き状に巻ける。そのため巻いたときの膨らみ(巻太り)はリッツ線より約30%小さくなり、製造単価も下がるというメリットがあるそうだ。

NEXCO東日本では2027年度以降に館山自動車道で公道実証実験を実施予定

道路側の検証は、埼玉県幸手市にある大成建設グループ次世代技術研究所「T-FIELD/SATTE」の実験道路で行なわれてきた。

検証した課題は、車両総重量20トンクラスの大型車の走行に耐えるユニットと舗装構造、直流配電型GAシステムに高応答かつ安定して大電力を供給する直流電源、そしてGAユニットの埋設施工性と将来の更新性の3点。

施工は既存舗装への適用を前提としている。既設舗装を切削し、切削面の凹凸を調整して接着剤を塗ったうえでGAユニットを据え付け、周囲を速硬性モルタルで固めてから表層を施工する。直流配電で埋設部の配線が単純になったことも、部品点数と施工作業量の削減につながっているという。

舗装の耐久性は、輪荷重試験機による100万輪(49kN換算輪数)の台上試験で確かめられた。これは、大型車が1方向あたり1日250台以上1000台未満通行する道路で、疲労破壊によるひび割れが生じるまでの回数に相当する条件である。その結果、従来の方法ではGAユニットを埋めた位置にひび割れが出たが、舗装構造とユニットの強度を見直して改善したという。

今後は福島県田村市の「T-FIELD/TAMURA」で、2026年度末までに試験走行路をつくり、実車での耐久試験、走りながらの給電実験、漏えい電磁界の対策を進める。その後は最大150kWでの性能確認や、高速で走ったときの信頼性の検証に移る。

公道での実証は、NEXCO東日本が2027年度以降に館山自動車道の君津PA付近(本線約300m)で「館山プロジェクト」を実施。本田技術研究所/大成建設/大成ロテックの3社もこれに参画する。高速道路の本線で走行中無線給電を試すのは国内で初めてのこととなる。どのような成果が得られるか、楽しみだ。

また、ホンダは今回の技術を、10月13日〜16日に幕張メッセで開かれる「Japan Mobility Show Bizweek 2026」などで紹介する。興味がある方は、ブースに足を運んでみてはいかがだろうか。

上田 拓氏(本田技術研究所 総合研究センター 電動パワーユニット研究開発室 開発責任者)
遠藤哲夫氏(大成建設 次世代技術開発室 開発責任者)
加納孝志氏(大成ロテック 研究開発部 開発責任者)